854.封じられた魔術
「ここはだな。ドラゴンの培養所でありエヴィル・ワンの復活場所でもあんだよ」
「何だって!?」
「何ですって!?」
「驚くのも無理はねえか。でも大体分かんだろ。これだけ天井が高い上に、こんなに巨大な培養器まで設置しておいて何かしようとしている部屋だってのはよ?」
何と、ここはエヴィル・ワンの復活の為に用意されていた部屋だったらしい。
しかし質問の内容にはまだ答えられていないレウスは、その事実に驚きながらもさっさと質問に答えろとエドガーを促す。
「そのエヴィル・ワンと魔術が封じられているってのは何の関係があるんだよ?」
「理由は二つ。お前みたいに強力な魔術を使って設備が壊れたら困るからだ。それからもう一つの理由は、この大きな培養器の中に入れてあったエヴィル・ワンに変な刺激を与えない様にする為だ。魔術の影響で暴走したら困るからな」
「なら、この床に転がっている手かせとか足かせは何なんだよ?」
「ああ、それか? それは別のドラゴンも……マウデル騎士学院に乗り込んで来たあれを始め、十匹のドラゴンも全てここで培養していた。その最終テストと身体検査をする為に培養器から出し、暴れない様にする器具なのさ」
「あの十匹のドラゴンもここで培養していただって? そう言えば十匹も何処で生み出したのかと思っていたのかと気になっていたんだが、まさかここで色々と実験して、それぞれに瞬間移動だの透明になれるだのと言った特殊能力をつけて、そして世界中に放ったのか!!」
「へっ、おめー頭良いじゃねーかよ!! そして天井に開閉式の出入り口を造って、屋外の鍛錬場をカモフラージュにして解き放ったって訳さ」
だが、そこでレアナから突っ込みが入る。
「ですが、この天井の穴の形からしてみるととても開閉式には見えませんけど……」
「ははっ、良い所に気が付きましたねえ……レアナ女王。実は最後にここの中に入っていたのが、復活途中のエヴィル・ワンだったんですよ。それでさっきまでここで培養していたんですけど……どうやら脱走しちまったみたいですねえ?」
「脱走ですって!? そんな事をしたら……」
だが、そんなレアナを片手で制したレウスはエドガーの妙な態度に気が付いた。
「ちょっと待て。脱走したとか言ってる割にはあんた、物凄く余裕そうな態度だな。ひょっとして脱走って言うのは嘘なんじゃないのか?」
「ははっ、だったらどうするよ?」
「その点についてもしっかり説明して貰わなきゃならないな。……まぁ、大方こっちの予想はついているが」
「へー、じゃあ言ってみろよ」
相変わらず余裕そうな表情のエドガーに対して、レウスは自分が立てた予想を話し始める。
「エヴィル・ワンの復活に対して執着しているのはあんたもそうだけど、それ以上にもっと執着しているのはディルクだろ。あいつは頭がイカレているからな。で、俺達が来たのを知って慌てて動かして、どっかに飛んで行ったって所だろうな」
「ははは……まぁ、当たりだ。だけどお前達がそのエヴィル・ワンを追い掛ける事は無い。俺が直々にここで二人ともぶっ殺してやるからだよ。地獄に行くのはお前が先だ!!」
「そんなのはごめんこうむるね!!」
再び槍とロングソードが交じり合い始める。
刃と刃がぶつかり火花が飛び散るのだが、その一方で残されているレアナにもう一つの影が忍び寄っていた。
(こうなったら私も手助けをするしか……えっ?)
レイピアでの戦いに関しては以前も経験あるし、と意を決して動き出そうとしたレアナだったが、そんなレアナの頭上に開いている大穴からバサッバサッと何かが羽ばたく音が聞こえて来た。
まさかエヴィル・ワンがここに戻って来たのかと頭上を見上げるレアナだが、それとはまた別の生物が彼女の元に一気に降下して来たのだ。
「えっ、あ、きゃあああああっ!?」
「れ……レアナ女王!?」
「おおっと、よそ見は禁物だぜ勇者様!!」
レアナの叫び声に反応したレウスがそちらの方を振り向くと、そこにはいきなり現われた白いワイバーンによって足で持ち上げられて連れ去られて行くレアナの姿があった。
勿論レウスは彼女を助けに向かおうとするが、現在戦っているエドガーがそうさせてはくれない。
(くっ……どうしてこう次から次へとこうなるんだ!?)
レウスはレアナが誰かに連れ去られたのを誰か味方が気が付いて欲しい、と心の中で願いながらこの向かって来ているエドガーをさっさと倒すべく動き出した。