852.復讐が目的なんだよ
その爆発によって、跡形も無く吹っ飛んでしまった偽レウス。
しかし、爆発を聞きつけたエルザがここでようやく通路の反対側から現われたのだ。
「ぬおおおおおっ!!」
「あらっ、エルザ!? ちょちょちょストップストップ!!」
「う、え、ええっ!?」
右手に持っている魔晶石を投げ付ける寸前で停止したエルザは、魔晶石の中に魔力を注ぎ込むのを止めて、爆発によって黒焦げになっている白かった壁や捲れ上がった床の惨状に気が付いた。
「ど……どうしたんだこれは? それにさっきの爆発音は一体……」
「ちょっと遅過ぎるわよ!! 何処まで行っていたのよ?」
「ん? いや、私は単純に向こうの方から大きく迂回して来たんだが……それよりももしかして、貴様があの偽物のレウスを倒したのか?」
「ああ……えーっとね……」
どうやら今回の場合の迂回路は、偽レウスとの戦いに決着がつくまで迂回して来なければ通路の反対側には出られない位の長さを誇る場所だったのだ、とその後の二人の照らし合わせで分かったのである。
そして偽レウスを倒したのは良いのだが、まだ戦いは終わっていない。
この偽レウスを使役していたエドガーをレウスに任せっ切りにしていた事と、レウスがレアナを連れて行っている事と、この偽レウスを「作った」元凶のディルクがまだ倒されていないのだから。
更に言えば、自分達と別れてカシュラーゼ全体に掛かっているドーム状の魔術防壁を消しに行ったグループはどうなっているのだろうか?
それも気になるエルザとドリスだが、まずはエドガーを追って行ったレウスとレアナの安否確認が先だと頷き合い、レウス達の向かった方へと向かって駆け出して行った。
◇
「何故裏切った? 俺達を裏切ってまで、どうしてカシュラーゼの仲間になったんだ?」
「はっ……全部バレちまった様だな」
「そもそもずっと前から裏切ったのはバレているんだ。俺が聞いてるのは、何故俺達を裏切ってこっちの味方になったんだって事だよ!」
レウスはレアナとともに地下通路の一番奥にある、天井の高い部屋にやって来ていた。
その部屋の中には幾つもの金属の破片が転がっているのだが、レウスとレアナがそれを見る限りではどう見ても手かせと足かせであった。
その手かせや足かせの大きさを見る限りでは、人間や獣人が着けるサイズでは無い。しかも形が若干いびつになっているのを見ると、これを着けていた「何か」が暴れたとしか思えない状態だった。
しかし、それよりもまずは何故このエドガーが裏切った事が気になっていた。
「裏切ったんじゃねえ、元々俺はこうするつもりだったのさ」
「元々……ですか?」
「ああそうさ。俺の先祖はドラゴンに協力して貰ってたんだよ」
「ど……ドラゴンに協力?」
「そうだよ。俺の先祖はドラゴンに関しての事業をやっていた。そしてある時見つけたんだ。ドラゴンはドラゴンでも、とんでもなく強い遺伝子を持つと言われたドラゴンをな」
その話を聞き、レウスとレアナは顔を見合わせる。
「まさか……そのドラゴンこそがエヴィル・ワンですか?」
「おー、そーだよ。そのドラゴンを手に入れて、俺の先祖はドラゴンライダー達の中でも最高の権力を持とうとしていたんだ。事業も拡大して、ドラゴンの飼育事業から闇取り引きまでを全て網羅して、表と裏の世界の王者になろうとしていた。なのに……なのに!!」
そこまで言って、エドガーはロングソードを鞘から再び引き抜いて切っ先を二人に向ける。
「五百年前の英雄とやらが倒しちまったんだからよ。だからこれは俺の復讐なんだ!!」
「無茶苦茶にも程があるぜ。そもそもお前の先祖なんか聞いた事もねえし。まぁ……エヴィル・ワンを狙う奴等なんて俺の時代には沢山居たからよぉ、そいつ等の内の誰かがあんたの先祖だったってだけの話だろ」
けど……とレウスは盛大に鼻で笑って続ける。
「ただの逆恨みをこの時代にまで持ち込まないでくれるかな? 俺はエヴィル・ワンを仲間と倒した五百年前の勇者だしな。そして復讐されるいわれは無い……となれば、あんたの話にこれ以上付き合う気なんて無い。それだけだ」
「だまって聞いてりゃ良い気になりやがって……だけどその威勢もここまでだ。考えてみれば結局こんな状況になるんだったらお前を学院に入れたのは失敗だった。予想に反してこの旅を通じてここまでの実力をつけちまったからな。だからここでお前もそこの女王も含めて、お前等の仲間と一緒に全員消えて貰うぜ!!」
「全員消えて貰うだと?」
「ああそうさ。だからまずはお前等二人からぶっ殺してやるぜえええええっ!!」