851.偽レウスの実力
とりあえず二人とも接近戦タイプの戦士である為に、必然的に偽レウスに接近しなければ戦えない状況だ。
その為にはどうにかして接近しなければならないので、さっきここに来る前にライマンドとドミンゴに対してやってみた作戦を決行する。
「おいドリス、次のエネルギーボールが放たれたらさっきの作戦をやるぞ!!」
「ええっ!? でも相手はレウスなのよ!?」
「とりあえず挟み撃ちにするんだ!! そして一気に叩き潰す!」
「わ……分かったわ」
偽物とは言え、相手はレウスなのだからその作戦が上手く行くかは分からない。
しかしやってみなければ分からないので、エネルギーボールに向かって魔晶石の爆弾を投げ付ける役割となったドリスがまずそれを実行する。
(良し、そこよっ!!)
偽レウスの動きを良く見て、飛んで来るエネルギーボールに当たる様に大きく振り被って爆弾を投げ付けたドリス。
その飛んで行く二つの物体がぶつかった瞬間、地下通路の中に大爆発が起こった。
ドリスはそれを見越して地面へと伏せたのだが、さっきと違って何か違和感を覚える。
「……え!?」
「……」
「くっ!!」
何時の間にか、自分のそばに来て槍を突き刺すべく持ち上げていた偽レウスの存在に気が付いた。
それと同時に、反射的に偽レウスの腹を自分の両足で蹴り飛ばして、その反動で彼と距離を取る事に成功して危機一髪だった。
だが、これはかなりまずい。
この狭い通路の中で戦うのは、槍使いにとってもハルバード使いにとってもリーチの長さを活かせるので普段なら有利な立場になりやすい。
しかし、相手も同じくリーチのある武器を持っている状況ではなかなか戦いづらい上に、この通路の狭さではせっかくのリーチの長さから来る振り回し系の技を使えない。
しかも相手はレウスの癖や特徴を完全に複製しているらしいので、技のキレもスピードも自分より上だと悟るドリスは、徐々に後ろへと追い詰められ始めていた。
「くっ、ふっ!!」
「……」
(何も喋らない上に、気迫の声も全くしない。呼吸だけしている人形を相手にしている感じだから余計怖いのよ!!)
ただでさえ恐怖心とも戦いながらレウスの能力を持っている相手に立ち向かっているのに、何も喋らず無表情のままで向かって来るので怖過ぎる。
しかし、自分のこれまでの経験から負ける訳にもいかないドリスは、意を決して偽レウスの大振り気味の突き込みを避けて一気に接近する事に成功した。
(後はこのまま一気に押し切って……!?)
そう考えていたドリスは、次の瞬間に色々な事に気が付いてしまって一気に絶望的な状況に立たされる。
まず、レウスが振り被り気味のモーションで槍の突き込み攻撃をしたのは、自分に対して「わざと」隙を作る為だった事。
次にその突き込んで来た槍を持っているのが左手「のみ」だった事。
そして彼の空いている右手には、あらかじめ溜めておいたエネルギーボールの存在がある事。
その気が付いた事を全てひっくるめて、考えられる答えは一つだった。
(わ、私……飛び込んで来る様に仕向けられたっ!?)
完全にハルバードの槍の部分で偽レウスに突き攻撃を仕掛けるつもりだったドリスは、突っ込んだままの勢いを止められない。
槍に限らず、突き攻撃をする時は必ずと言って良い程に前のめりになる。
前のめりになると言う事は、その勢いがついたまま前に進む事になるので、踏ん張らなければ動きを途中で止められないのだ。
しかも今のドリスは槍よりも重いハルバードを持って突っ込んでしまったので、前に向かう力も大きくなる。
つまり、待っているのは……。
「ぐっ……う!?」
槍の攻撃よりも更に大きく振り被られた右手によるエネルギーボールが、それこそ偽レウスが手を伸ばせば触れられる距離まで接近したドリスに叩き付けられる。
その瞬間、心の中では「あ、終わった」と思うドリス。
そしてそれと同時に、一瞬見えた偽レウスの口の端にほんの僅かに笑みが浮いた気がした。
(ここまでね……みんな、そして姉様……ごめんね……)
覚悟を決めて目を閉じるドリス。
しかし、思った痛みや衝撃は来なかった。
「……ん!?」
何故なら、さっきの爆発によって身を守ってくれた本物のレウスの魔術防壁の効果がまだ続いていたからだ。
そしてそれと同時にハルバードの柄から手を放し、自分の魔術防壁に押し付けられている偽レウスの右手を掴んで思いっ切り彼の顔面をぶん殴った。
「……のぉ!!」
「……!!」
魔術防壁は確かに攻撃や衝撃から身を守ってくれる便利な魔術であるが、欠点も幾つかある。
まず、自分の身体にピッタリと吸い付いている様な防壁では無いので、少し離れた場所から攻撃をされなければ防御されない。
しかもその攻撃に関しては、一定以上の衝撃が無ければ反応しないのだ。
つまり今の偽レウスは確かに魔術防壁を掛けているのだが、ドリスの右ストレートパンチは衝撃こそ防壁発動の要件を満たしているものの、距離が魔術防壁の内側から発動された為に防壁の意味を為さなかったのだ。
言うなれば、せっかく防御の為に良い材質で壁を造ったのに、敵がその壁の内側に入り込んで攻撃されてしまったのと同じ状況であった。
そして相変わらず無言のままであるものの、そのパンチによってよろけた偽レウスは隙だらけ。
そこで今度はヒラヒラと舞う黒いコートを咄嗟に掴み、ドリスは自分の分の魔晶石爆弾を彼のコートの下にあるズボンの内側に押し込んだ。
「……!!!!!!」
「やっぱり偽物は偽物ね。じゃあね!!」
とどめに両手で偽レウスを突き飛ばし、自分は後ろに向かって飛んだ後に地面に伏せる。
その刹那、偽レウスの身体が腰を中心にして爆散した。