850.最終兵器その1
「お……俺がもう一人?」
「ああっ、あれです! あれが私とレアナ陛下が見た、もう一人のレウスです!!」
「何が一体どうなっているんだ……?」
「あ、あの……こちらにいらっしゃるのが本物のレウスさんですよね!?」
もはやパニック状態になっているレアナを落ち着かせるべく、レウスは「そうです」と短く返事をする。
しかし、この状況は一体何なのかレウスにも分かっていない。
自分と同じ姿をしている存在がもう一人居る。究極のそっくりさんだと言うならまだしも、持っている槍も着ている服も、そして使う攻撃も全て同じだとするのなら、考えられる答えは一つしか無かった。
「もしかして、カシュラーゼがもう一人の俺を生み出したってのか!?」
「そうなんだよ」
「っ!?」
聞き覚えのある声が聞こえて来たので後ろを振り向けば、そこにはロングソードを構えているエドガーの姿があった。
やはりこの男も何かを知っているらしいので説明して貰おうと思ったのだが、自分達の技術の自慢なのか、それとも圧倒的に優位に立っている事からの自信の表れか。
レウス達が説明を求めるよりも前に、自分の方からレウス達に対して説明を始めるエドガー。
「ディルクってのは本当に大した奴だぜ。まさか、今まで集めたお前の色々なデータからもう一人のお前を生み出しちまうんだからよぉ?」
「やはりあのディルクの仕業か。一体どう言うつもりだ?」
「どう言うつもりも何も、俺達にとっての最終兵器の一つだよ。お前達は今まで俺達に散々関わって来たからな。そしてそこのアークトゥルスの身体は、以前この地下世界で色々と調べさせて貰ったからその時に身長や体重、それから内蔵の状態や毛髪に至るまで、ありとあらゆるデータを取らせて貰ったのさ」
そしてその集めたデータを使用して、やっともう一人のレウスを生み出す事に成功したのであった。
これがエドガーの言っている最終兵器なのだが、レウス達はそのエドガーの言葉に違和感を覚える。
「……ちょっと待て。確か今、あんたは最終兵器の「一つ」って言わなかったか?」
「ああ、言ったぜ?」
「って事は、あんたはまだ最終兵器を隠しているってのか?」
「はっ、察しが良いじゃねえか。でもお前等がそれを見る事は無いぜ。何故ならお前達はここで、もう一人のアークトゥルスにやられちまうんだからよぉ!!」
そう言えば、話に夢中で今まで「後ろに居る」もう一人のレウスの存在を忘れてしまいそうになっていた三人だが、ここでバッともう一人のレウスの方に向き直る。
だが、その「偽レウス」の方はまるで攻撃して来る気配が無い。
「おい、何も攻撃して来ないじゃないか?」
「そりゃーそうだよエルザ。俺の命令が無ければ攻撃しない。そして俺の命令が無ければ息の根を止めるまで止まらない。説明の為に一旦攻撃しない様にしてやったのさ。俺様って優しいだろ?」
「ええ……それはそうですわね。でもここでもう説明は終わりなんでしょう?」
「ああそうだよ。だから今度の俺はこう命令を下すのさ。こいつ等全員をぶっ殺せ!! ってな!」
その瞬間、レウス達の背後から聞こえて来る声に反応した偽レウスが動き出した。
まず最初に自分の右手にエネルギーボールを生み出し、全力で投擲して来たので慌てて屈んで回避するレウス達。
「うっひゃあ!?」
「くっそ!!」
「ううっ、レウスがもう一人……レウス、行けっ!!」
しかし、エルザにそう言われてもレウスの心は乗り気にはならない。
何故なら、自分を相手にして自分が戦っても決着はつかないだろうと考えているからである。
「いいや……ここは二人に任せる」
「は!? 何でだ!?」
「俺が俺と戦っても、向こうが全く同じならば決着はつかないと思う。だったら俺とは違う相手が戦った方が決着をつけられる筈だ」
「な、何を言い出していますの!? 貴方なら自分の弱点も癖も知っているから戦いを優位に進めてうひゃあああっ!?」
偽レウスから再びエネルギーボールが放たれる。
このままではこの通路が崩壊して生き埋めになってしまう気がするので、本物のレウスは偽レウスに対して同じくエネルギーボールを投擲した。
……のだが、それは偽レウスの魔術防壁に阻まれてしまったのだ。
それを見たレウスは踵を返してエドガーに立ち向かおうとするものの、既にそこには先程までロングソードを構えていた筈のエドガーの姿は無かった。
「ちっ、逃げられたか。だったら俺はあいつを追う。レアナ様の護衛も俺に任せろ!」
「だっ、だからどうしてだ!? 貴様も一緒に戦えば……」
「だから言っただろう。決して俺はあいつが怖いから逃げる訳じゃない。今だって見ただろう……魔術防壁で攻撃をガードするのを! だから俺と能力が全く同じ奴を相手にしたら、決着がつかないんだ。それにエルザは俺と何回も戦った事がある。ドリスもエスヴァリークの武術大会で戦った事がある。だからここはお前達に任せるぞ。さぁ、レアナ様は俺と一緒に!!」
「おいちょっと待て、レウスっ!?」
「全く……こうなったら私達だけで何とかするしか無いわね! エドガーはもうレウスに任せて、私達はあの偽レウスを何とかしましょう!!」
今の会話の途中で放たれていた偽レウスからの攻撃は、全て本物のレウスが張ってくれていた魔術防壁で防いでいる。
しかし肝心の本物のレウスは、レアナとともにエドガーを追い掛けて行ってしまった為、残されたエルザとドリスは覚悟を決めて偽レウスの方を向いた。