849.もう一人のレウス?
その爆発によって吹っ飛んで来る二人をかわし、レウスはそのままドリスとエルザがその二人の後ろへと回り込むために使った迂回路の方へと歩を進める。
この通路は所々が正方形になっているらしく、さっきの爆発を魔術防壁で防いだ後に煙幕を利用した三人は、先にエルザとドリスに迂回路を通って貰う。
そして煙幕の中から現われたレウスに二人が気を取られている隙に、後ろに回り込んだ二人が魔晶石の爆弾を二人の背後から投げ付けて一掃したのであった。
「さて、邪魔者も倒したしこれでやっとエドガーの奴を追い掛けられるぞ」
「それは良いんだがな、エドガーは一体何処に行ってしまったんだ?」
「さっきから姉様とレアナ様を魔晶石で呼び出しているんだけど、全然反応が無いの。まさかもう既に交戦状態に入っているんじゃないかって思ってね」
「その可能性は高いな。だったら手分けしてこの地下通路を捜すしか無さそうだ」
しかし、レウスがそう言った時である。
何処からか「ドンッ!!」と地下通路全体が揺れる位の振動と爆発音が聞こえたのだ。
「な……何だ、今の音は?」
「方角からするとどうやら向こうみたいだな。行ってみるぞ!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!!」
地下通路はかなり広いのだが、その全体を揺らす事が出来る程のエネルギーとなればかなりのものである。
一体誰がどんなエネルギーを使ったのだろうか?
(まさか、エヴィル・ワンが復活した……? いや、そんな筈は無いだろう。だって俺達、あのエヴィル・ワンの身体の欠片をここに持って来ている訳が無いしな)
いいや、もしかしたらパーティーメンバーの中に裏切り者が居て、そのメンバーが秘密裏にエヴィル・ワンの身体の欠片を持って来てディルク達に渡した可能性もある。
今まで裏切りが発覚したのは二回や三回のレベルでは無かった筈なので、ここに来てまだ疑心暗鬼になっているレウス。
しかし、そんなレウスの目の前から姿を見せた人物は彼に対して何時もと違った反応を見せるのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……あっ、え、あれっ!? レウス……」
「あ、い、いやああああっ!!」
「お、おいティーナ!? レアナ陛下!? 一体何がどうなっているんだ!?」
何回通路を右へ左へ曲がったのか分からない位に、エルザの女のカンに任せて突き進んでいた三人はその突き進んでいた通路の突き当たりにあるT字路の左側から現われた人影に反応する。
それは自分達が捜し求めていたティーナとレアナだったのだが、ここで感動の再会を喜ぶ様な雰囲気では無かったらしい。
何故なら、レアナがレウス達の姿を見てその動き難そうなドレス姿を感じさせない機敏な動きで動き、T字路の右側へと姿を消したのだった。
当然、ティーナを加えたレウス達はそのレアナの後ろを追い掛けて行く。
「ちょ、ちょっと一体何なのよ!! 何があったのよ姉様!?」
「いや、あの……それが……」
「何だよ、もったいぶらないで貴様はさっさとハッキリ事実を言え!!」
「ええっと……凄い説明し難いんですけど……」
「何なんだよ!?」
「あの、レウスがもう一人居たんですよ!」
「……はい?」
この女の言っている意味が理解出来ない。
それはレウスのみならず、ドリスもエルザもそうだった。そんなポカーンとしながらレアナを追い掛けている三人に対して、さっきまでレアナと一緒に行動していたティーナはもっと分かりやすい説明を心掛けて口を動かす。
「ええっと、だからレウスがもう一人居たんですよ。エドガーを追い詰めたと思ったら、彼の入った部屋の中から槍を構えたレウスが飛び出して、私達に襲い掛かって来たんですよ!!」
「なるほど、分からないな。つまり俺の分身でも居たって言うのか?」
「そうなんですよ! まさにそうなんですよ! それで私達に対して槍を振り回して来て、魔術も使って来て……とてもエドガーを追い掛ける事は出来なくて、命からがら逃げて来たんですよ!!」
「それで逃げて来た所で俺達に出会ったと言う訳か」
しかし、だとしたら何でこっちの自分には驚かないしレアナの様に逃げたりしないんだ? とティーナに対して疑問符が浮かぶレウス。
ティーナはそれを聞き、当たり前だと言わんばかりの口調で答えた。
「だって、エルザとドリスの二人を伴ってこうして私の前に現われたレウスが偽物な訳がありませんわ。それに偽物のレウスは全く喋らなかったんですもの」
「喋らなかった?」
「ええ。私とレアナ女王と対峙した時に一言も喋らずに、いきなり大きな魔術を使って来ましたわ。それにエドガーが腕をバッと振って指示を出していましたから、あれは完全にエドガーの支配下にありましたわね」
「うっひゃああああっ!!」
「え?」
前方から聞こえて来る悲鳴。
その悲鳴の主は先程逃げて行ったレアナであり、彼女は何故かこうして引き返して来たのだ。
この先は行き止まりなのか? と思ったレウス達だったが、それは間違いだと言うのがレアナの背中越しに見えた人影で気付かされた。
何故なら、それはティーナの言っていた通りの「もう一人の」レウスだったのだ……。