845.役割分担の大切さ
雄叫びを上げながらコントロールルームに飛び込んで来た騎士団員達に立ち向かうソランジュとアレットだが、当然得意分野が違えば戦いのスタイルだって違う。
ソランジュは接近戦を得意としているので、向かって来る騎士団員達を相手にアクロバティックに動き回り、そして一人ずつ滅して行く。
一方のアレットは接近戦は大の苦手なので、ここに来るまでの通路でやっていた魔晶石の爆弾を使って多数の騎士団員が集まっている場所へと投げ込んで行く。
その様子を、増援の騎士団員達に任せて見物していたゴーシュはある事に気が付いた。
(成る程、敵を倒す中でお互いの攻撃に巻き込まれない様にしっかりとどっちの部分を担当するかを考えている訳か)
出入り口のドアを正面に見て、コントロールルームの右側に向かって斬り込んで行くソランジュと、左側に向かって魔晶石の爆弾を投げ付けているアレット。
その役割分担がしっかりしているおかげで、お互いが騎士団員を迎え撃つのに集中出来ている。
しかし、それと同時にもう一つ気が付いた事があった。
(だが……甘いなあ。こっちの騎士団員にばっかり集中していたら、視野が狭くなってしまうぞ?)
心の中でそう指摘をしつつ、槍を片手に動き出したゴーシュはその集中している二人に気付かれない様に、今のコントロールルームの壁にくっ付いてこっそりとアレットの死角に回り込み始めた。
コントロールルームへと入って真正面に魔術防壁を制御するメインコントロールシステムがある。
その後ろには多数のモニターが横並びで設置されている台があり、それぞれのモニターの前には多数のボタンがついている。
どうやらメインコントロールシステムのサポートを担当する人員が座るのだろうが、とりあえず深い事を考えずに全て破壊すれば良いのだろうとアレットは考えていた。
最初、ここにやって来た時にはメインコントロールシステムの椅子にゴーシュが座っていた。
そしてアレットとソランジュの姿を見て会話をしてから立ち上がり、槍を構えてジリジリと近づいて来ていた。
なので、コントロールルーム破壊部隊の二人も彼の動きを見て半円を描く様に移動していたのだが、それはメインコントロールシステムの場所にアレットとソランジュが近づいていた事を示す動きだった。
(あーっ、良く考えてみればどうしてあの動いていた時にさっさと魔晶石爆弾を投げて、それで爆破して逃げなかったのかしら!?)
その自分達の動きを振り返ってみて、己の迂闊さと愚かさを反省するアレット。
今、自分達の後ろにはメインコントロールシステムがある。
それを破壊すれば良いのだが、魔術で破壊するにしては固過ぎるみたいだし、何より魔術が通用するかが分からない。
それに魔術だろうが魔晶石爆弾だろうが、どっちにしてもこの距離で破壊するのは自分達まで巻き添えを食らってしまう。
(壊したい私が何故かその壊すべきメインコントロールシステムを護る様に立っていて、壊されたくない騎士団の団員達が攻め込んで来ているなんて、不思議な光景よね……)
「アレット、伏せろっ!!」
「え?」
ソランジュの大声、それと同時に自分の横から突然現われる殺気。
アレットは何が何だか分からないながらも、自分の身に危機が迫っているのを直感で判断し、その指示通りに素早く身体を屈めた。
その瞬間、自分の頭を掠めながら槍が突き抜けて行ったのが分かった。
「……!」
「ちっ!」
その槍を突き出して来たのは、騎士団員達の迎撃に夢中になっていたせいですっかりその存在を忘れていたゴーシュだった。
彼は舌打ちをすると一旦槍を引いてもう一度突き出そうとして来たが、アレットは屈んで思いっ切りゴーシュの股間に座ったままの前蹴りを繰り出した。
「このぉ!!」
「ぐほお!?」
股間は急所の一つ。つまりそこに一撃を食らってしまえば、幾ら屈強な歴戦の冒険者と言えども悶絶しない訳が無い。
目と同じく、鍛えられない部分の一つなのだから耐性も無い。
そんな耐性の無い場所に一撃を受けたゴーシュは悶絶し、思わず股間を押さえて前屈みの状態になってしまう。
彼のそんな姿を目撃したアレットは、素早く立ち上がって彼の頭目掛けて全力の頭突きをかました。
「ごあっ!!」
その衝撃で鼻の骨が折れ、盛大に鼻血を噴き出すゴーシュ。
しかしアレットは追撃の手を緩めず、今度は右手に持っていた自分の杖をフルスイングしてゴーシュの側頭部を打ち抜く。
「がへっ……あぐ!?」
「ソランジュ、これで終わりよぉ!!」
頭に連続してダメージを受け、槍を取り落としてフラフラになったゴーシュの顎を掴んで魔晶石の爆弾をその口の中に突っ込み、そう叫ぶアレット。
それに反応したソランジュが、ゴーシュがアレットに魔晶石を突っ込まれた後に両手で突き飛ばされてフラフラしながら窓のそばへと近づいて行くのを見て、追い打ちのドロップキックを頭部にお見舞いした。
「ぬぐふぉぉぉ……」
「うわっ!!」
盛大に部屋の窓を突き破って落ちて行く途中で、ゴーシュの身体が大爆発とともに四散した。