844.魔術防壁解除チーム
もう一つのチームであるソランジュとアレットは、倒した騎士団員からこの城の中にあるのだと聞き出した、魔術防壁のコントロールルームへと向かっていた。
てっきり地下世界の中にこのカシュラーゼの魔術防壁を張ったり剥がしたりする事が出来る装置があるのかと思っていたのだが、配線の関係で地上世界に装置がある方がやりやすいからだとも聞き出していた。
「でも、まさかこの城の中にあるなんて思ってもみなかったわよ!!」
「本当だな。しかし、敵も私達を止める為に必死になっている筈だぞ!」
それを証明する様に、次々と現われるカシュラーゼの騎士団員達を通路の中で倒しつつ進むソランジュ。
アレットも勿論ソランジュのバックアップとして、怪我をした彼女の回復をしたり、敵が余りにも多過ぎる場合は魔晶石の爆弾を使って騎士団員達を爆殺して進んで行く。
(こっちは二人しか居ないし、ソランジュにばかり負担は掛けられないから私も戦えるだけ戦うわ!!)
しかしアレットはやり過ぎてしまう癖があるので、そこは戦いの経験が長い上に冷静な性格のソランジュがブレーキ役として彼女を抑えている。
そのコンビネーションでクルシーズ城の中を進んでいた二人だったが、当然魔術防壁の制御システムをコントロールする場所に向かっていると言う情報は、他の騎士団員達から城の全体に伝わっている。
なので外のレウスを駆逐する騎士団員達、サイカとアニータを仕留める為に動く騎士団員達、そしてこのコントロールルームに向かう二人を止める騎士団員達と言った人員調整で迎撃されているのだ。
それでも人員の数には限度があるので、ソランジュとアレットは段々その数が減って来て敵の出現する頻度が少なくなっているのに気が付いていた。
「ふう……確かコントロールルームはこの先にあるって話だったわね」
「そうだが……どうも嫌な予感がするんだ」
「え?」
「私の思い過ごしであれば良いのだが、そんな重要な所にカシュラーゼが自国の幹部を配置していない訳が無いと思ってな。だって、そんなに重要な機能を制御する部屋だったら幹部の一人や二人が監視していなければ腑に落ちない」
「ちょっとちょっと、縁起でも無い事を言わないでよソランジュ。配置されていなかったらラッキーじゃないのよ!」
「まぁ、確かにそれはそうだがな」
しかし、そんな「ラッキー」な展開が都合良く待っていてくれる訳が無い。
それが人生なのだと思わせられたのは、コントロールルームへと辿り着いた時だった。
「……そうか、来たのは君達だったか」
「考え直す気は無いんですか、もうこんな事は止めるって」
「考え直す? 私が? 今更か? それは無理に決まっているだろう。どう考えても、ここまでこんな事をやらかしておいて、今更もう止めるだなんて……馬鹿な考えは持っていないんだよ」
コントロールルームで待ち構えていた男は、そう言って槍を構える。
そしてそれは、完全に自分の息子を裏切ったと言う意思表示でもあった。
その男の動きを見たアレットとソランジュは、これはもうここでこの男を倒すしか無いのだとお互いに顔を見合わせて頷いた。
「そうですか。それは残念ですゴーシュさん……」
「そうだな。親子でも道が違う事はある。それはこうしてお主から教えて貰ったよ」
「私をここで倒すと言うのか? あの窓から落とすとでも言うのか?」
「さぁ、どうでしょうね。少なくともここで倒すのは決まりですよ」
「そうだ。大人しく観念して投降するなら命だけは助けてやる」
「ふふふ、威勢だけは良いじゃないか。だけど私は投降する気は無い。それが答えだ!!」
やれるもんならやってみろと言わんばかりの態度を取るその男……自分の息子であるレウスを裏切ってカシュラーゼ側についたもう一人の人間であるゴーシュ・アーヴィンが愛用の金色に輝く槍を構えた。
それを見て、ゴーシュと対峙しているアレットとソランジュもそれぞれ身構える。
だがその時、部屋の外からワァァァ……と多数の騎士団員の増援がやって来たのだ!
「え、う、うぞぉっ!?」
「くっ、まだこんなに増援が居たか!!」
「そう言う事だよ。何てったってここは私達カシュラーゼの本拠地なのだからね……各国に建造した魔術エネルギーの砲台と大砲を全て壊され、ことごとく計画を潰された以上は私達の計画も丸潰れになりつつあるんだ。だからここから立て直させて貰うよ!!」
「そんな事はさせないわよっ!!」
「そうかそうか。でも、そんな大口を叩くのはここにやって来る全員を倒してからにして貰えるかな?」
ゴーシュがそう言い終わると同時に、城の五階にあるこのコントロールルームの中に次々と飛び込んで来る騎士団員達。
こんな場所で、こんな男とその増援を相手に戦わなくなってしまった二人の死闘が今、幕を開けた。