843.二丁拳銃のやばい女
来た通路を引き返し、サイカとアニータは見つけた手近な部屋へと飛び込んだ。
だが、そこは運の悪い事にカシュラーゼの騎士団員達が大勢集まって過ごす為に設けられている詰め所の大部屋だったのだ。
「うわっ……!!」
「くっ、こんなのってありなのかしら!?」
そう言えば前にもこんな事があった様な無かった様な……とフラッシュバックするサイカと、とんでもない部屋に飛び込んでしまったアニータの二人を、多数の武装している騎士団員達がギロリと睨み付ける。
一目で見た所ではおよそ三十人。その全員から発せられる威圧感と殺気にサイカとアニータは一瞬たじろぐものの、今までの旅の経験からすぐに気合いを入れ直して立ち向かい始める。
その戦闘開始の合図は、ファラリアがこの詰め所の中に入って来られない様にアニータが出入り口のドアについているかんぬきのロックだった。
ガチャリと音がしてロックが掛かった瞬間、騎士団員達の中の一人が「やっちまえ!!」と大声を出してバトルが始まる。
必然的にこの状況では乱戦状態になるので、こちらは二人しか居ない。
更に向こうはおよそ三十人なので、この状況ではどう考えても圧倒的に不利である。
騎士団員達からしてみれば、所詮女二人がこうして掛かって来た所でどうって事は無いし、何よりも圧倒的な人数差がこちらにはあるので楽勝だとしか思えない状況。
ディルクから聞いていた、あのアークトゥルスの生まれ変わりが相手だったら一気に勝率は低くなるだろうが、今ここにそのアークトゥルスの生まれ変わりは居ない。
「相手は女が二人だけだ、一気にぶちのめせえっ!!」
「なめんじゃないわよおおおっ!!」
女だからと言ってこの状況で負ける事にはならない。
それを身をもって分からせてやると意気込みながら、サイカは縦横無尽にこの詰め所の中を駆け回る。
食事をする為のテーブル、仮眠をする為のベッド、腰かけて談笑する為の椅子と言った物がこの詰め所の中には沢山あるので、サイカはその色々な物を踏み台にしたり投げ付けたりしながら突き進んでいた。
一方のアニータはその小柄な体躯を活かして上手く敵の間をすり抜けながら、自分に向かって来る騎士団員達の胸や頭に的確に矢を撃ち込んで行く。
そしてその順調な戦いもようやく終わりを迎えたかと思いきや、パンパンパンと部屋の外から銃声が聞こえて来てファラリアが部屋に飛び込んで来た事で第二ラウンドがスタートする。
「貴女達……良くもここまでやってくれたわね!?」
「そりゃあやるでしょ。だって私達を殺しに掛かって来ているんだもの。全力で迎え撃たなきゃ……ね、アニータ?」
「そうね。そしてそれは貴女にも当てはまるわ!」
そう言いながらアニータは矢を射るが、ファラリアは何とそれを避けずにハンドガンで撃ち落としたのである!
「……え?」
「そこっ!」
「ぐううっ!?」
今まで、矢を射って来た敵は全て避けるか切り落とされるか、それとも突き刺さるかだった。
しかし見慣れないハンドガンと言う武器を相手にして、矢を撃ち落としてからすぐに次の弾丸を発射出来る相手の存在。
こんな相手、今までの戦いの中でもなかなか経験した事は無いアニータ。
しかも相手は二丁ハンドガンと言う武器なので、遠距離の相手としてはとてもでは無いがアニータの弓では勝ち目が無さそうだ。
(くうっ……こんな……私が遠距離の戦いで負けるなんて!?)
アニータが初めて覚えた、この絶望感。
それ程までに、カシュラーゼの開発したハンドガンと言うこの兵器は今までの戦いの常識を変えてしまう物だった。
しかし、だからと言ってこのまま負ける訳にはいかない。この立ち塞がっているファラリアを倒さなければ、地下世界へは向かえないのだ。
サイカとアニータは、この状況で二人と言う人数差を利用して戦う。
しかし、先程撃たれてしまった傷が痛むアニータの事があるのでハンデもある。
(こうなったら私一人でも何とかしなきゃあ!!)
サイカは上手く机を壁にして弾丸を防ぎつつ、ファラリアに向かって行く。
そのサイカになるべく隙を与えない様に、アニータはファラリアに矢を射って攻撃の対象を絞らせない様にしていた。
「このっ、この、このおおっ!!」
その二人の連携プレイに、少しずつ焦りの色が出始めるファラリア。
幾らカシュラーゼ側に寝返ったからと言っても、元々戦えない側の人間であった彼女は経験が圧倒的に足りない。
そしてそんなファラリアは、元々傭兵であり今までの旅路の中でもっと経験を積んでいたサイカとアニータ相手には敵わないと言う事を、銃弾の雨をかい潜って来たサイカの高速突きによって心臓を貫かれて思い知ったのであった。