842.裏切った親
「へぇ、貴女達は確か私の息子と一緒にパーティーを組んで行動していた女のメンバーの内の二人じゃない。何処に行くつもりなのかしら?」
「何処に行こうと私の勝手でしょ。それよりも何なのよ貴女、国だけじゃなくて実の息子まで裏切ってどう言うつもりなのよ!?」
しかし、通路を塞いでいるファラリアは全く悪びれる様子が見受けられない上にとんでもない事を言い出した。
「だってしょうがないじゃない。あの子は私の子じゃないんだもん」
「え?」
「は?」
「だから、あのレウスって男は私が産んだ子じゃないの。貴女達はレウスから聞いていないのかしら? 自分が拾われた子だって」
「えっ……えええええっ!?」
「そ……そうだったの?」
サイカだけでは無く、アニータまで今まで見せた事が無い程の表情の変わり様がそのショックの大きさを物語っている。
「レウスが……拾われた子供!?」
「ええそうよ。大体、ちゃんと考えてみてよ。私は見ての通りの黒髪だし、ゴーシュも私と同じく黒髪。その二人からどうして生まれつき金髪の男が生まれるのかしら?」
「じゃ、じゃあどうしてレウスを拾ったの? それだったらどうして裏切ったのよ!? それが仮にも十七年間、その拾った子供を育てた親のする事なのかしら!?」
(仮にも、は余計な気がするけどね……)
心の中でそんな突っ込みを入れるアニータに対し、そのレウスの生みの親より育ての親となったファラリアはまたも悪びれもしない態度で言い放った。
「世間体よ、世間体」
「せけんてい……!?」
「そうそう。それからこうしてエドガーの計画に乗る為に世間を欺く材料として育てたのよ。その分のキャッシュバックは無いけど、計画遂行にはちゃんと役立ってくれたって事よ」
「な、何よそれ……どう言う意味なのよ!?」
「あらー、まだ分かんないのかしら? だったら分かる様に教えてあげるわよ。私達があのアークトゥルスの生まれ変わりを育てて、そして拾った子をキチンと育て上げる良い夫婦だって世間に知らしめる。そんな親が裏で、この世界を破壊する為に動いているなんて誰も思わないじゃない?」
「世界を破壊するですって? もしかして、それがエドガーの狙い!?」
「ええそうよ。あの人と私達は本当は長い付き合いだしねえ。色々とエドガーにはお世話になってるし、ちゃんと恩返しをしなくちゃって。だから裏切ったの」
駄目だ、この女が何を言っているのかさっぱり理解が出来ない。
とりあえず今の時点で分かる事は、レウスの両親が完全に裏切って敵に回り、そして自分達の前に立ち塞がっていると言う事である。
「まぁ、私達の敵がこうして目の前に立ち塞がっているのは分かったんだし、さっさとそこをどいてよね」
「どいてって言われて私がどくとでも思うのかしら?」
「ううん、全然思わないわ。でもレウスの父親は昔は冒険者だったから戦えるってのは分かるんだけど……レウスの母親は戦えるのか分からないのよね。本人にこんな事を聞くのもなんだけど、貴女は戦えるのかしら?」
(この女……本当に本人に聞いたわね……)
まさかのアニータの行為に対して心の中で呆れるサイカだが、そんな事を気にする様子も無くファラリアはニッコリと微笑んだ。
「ええ、まあ……このカシュラーゼに入るに当たってはある程度戦えないといけないからね。でも私はどっちかって言うと戦えない側の人間だったから、これを用意して貰ったのよ!!」
「うわっ!?」
「くっ!!」
そのセリフを言い終わったと同時に、ファラリアは懐から引き抜いたハンドガンを二人に向かって連射する。
しかもそのハンドガンは一丁だけでは無く、両手にそれぞれ一丁ずつの二丁ハンドガンだったのだ!!
この狭い通路の中であんなものを連射されたのでは、簡単に被弾して負傷してしまう。
なのでレウスに助けて貰ったあの時の事を思い返して、出来る範囲での魔術防壁を張った上でサイカは行動を始める。
「くっ、こんな状況であんな物を出されるとは思っていなかったわ。どうする!?」
「どうするもこうするも、あの危険な中年を倒さないと地下世界には向かえないわ。こっちは二人居るけど、向こうにはリーチの長さなんて無い様なものだから……そこが厄介ね」
「この状況で冷静にそこまで分析出来る貴女の方が、よっぽど厄介だと思うけど……でも確かにどうにかしなきゃね。とりあえず狭い通路の中で戦うのは分が悪過ぎるから、何処かの部屋に誘い込むのよ!!」
「分かったわ!!」