838.見張りの穴
それをエンヴィルークとアンフェレイアの背中に乗って上空から見下ろしながら、レウス以外のパーティーメンバー達もクルシーズ城へと突入する準備をするべく王城へと向かう。
最初は本当にこんな作戦で上手く行くのかと思っていたのだが、その時に話を聞いていたアンフェレイアが色々と考えた事を話し始めて一応納得した。
『確かに、あの魔術防壁はドーム状に張られている。でもあのアークトゥルスの生まれ変わりが私と練習していた様に突破しなくても、向こうに取り引きをする気があるのならきっと魔術防壁が解除される筈よ。そこで私達も一緒に中に入るの』
「ど、どうやってですか?」
『どうやってって……それは普通に魔術防壁が消えた所で入るのよ。一部だけを消せないからね、魔術防壁は。それは魔術師である貴女も分かっているでしょ?』
「ええ、それは分かりますけど……」
『だったら簡単。事前に魔晶石の通話を繋いでおいて、私達は別の方から入国して王都のエルヴァンを目指せば良いのよ。カシュラーゼ全土を囲っている魔術防壁は余りにも広大って事でしょ? それだったら絶対に何処かに見張りの穴がある筈よ』
事実、騎士団でも……いやそれ以外の大勢のグループでも同じ事が言えるのだが、人数が多くなればなる程その末端まではどうしても目が行き届かなくなってしまう。
それはカシュラーゼの広い魔術防壁も同じであり、幾ら全土を囲っていたとしても一か所から入国する為に解除してしまえば、その隙を突いて別の場所から簡単に領土内に侵入出来てしまう。
それをアンフェレイアが言いたいのはアレットにも分かったが、じゃあどうするかを考える一行。
「えーっと、レウスが西の方から海を渡って入国するのよね?」
「そうだよ」
「だったらそれ以外の所から入りましょうか。レウスが西から入ると言う事は、カシュラーゼの監視の目も西の方……じゃないわ。ええっと……カシュラーゼ側から見たら東の方からレウスが入って来る訳だから、私達は西側から回り込めば良いわね」
「そうなるとルルトゼルの村を経由して行く事になるけど、それで良いか?」
「それしか無いわよ。ゼフィードは事前に打ち合わせした通りエンヴィルークとアンフェレイアに運んで貰う事にして、私達はワイバーンでそれぞれ入国……」
しかし、そこまで言い掛けたサイカに待ったを掛けたのがエンヴィルークだった。
『ちょっと待て、ワイバーンでまた別の方向から入国するのか? それだったら向こうにお前等の接近がバレちまう可能性があるぜ?』
「あ……そうか」
『それだったらよぉ、ルルトゼルの村までワイバーンで向かって、そこからカシュラーゼの西の方を抜けて王都のエルヴァンを目指そうぜ。流石にこのエレデラムからじゃあ重くてキツイけどよぉ、ルルトゼルからだったら俺達も何とかなりそうだぜ?』
「えっ……まぁ、私達としてはそれでも良いんですけど、アンフェレイアもそれで良いの?」
『うん、まぁ……この大きな金属の塊からしてみれば、人間の重さは全然大した事は無いからね』
と言う訳でレウスが東から向かう事にしたのは良かったのだが、距離やルルトゼルの村を経由する事を考えると先にそれ以外のメンバーが出発しなければならなかった。
なので先に出発したゼフィード運搬軍団は、レウスが入国する為に魔術防壁を消して貰った隙を狙って入る為に先に出発し、ルルトゼルの村を経由して村の住人達に「ある頼み事」をしてからカシュラーゼの西へと向かった。
『これから入るぞ』
「……良し、分かった。貴様に全てが掛かっているんだからな」
『分かったよ』
「この作戦が失敗すれば、全てが水の泡だからな」
何だか凄くプレッシャーを掛けられていると思うレウスだが、別にやる事は第一段階の入国だけなので特に苦労する事も無く、魔術防壁を解除して貰って中へと入る事に成功した。
勿論そのレウスの入国に合わせ、レウス以外のパーティーメンバー達も西の方からカシュラーゼの警備の目が行き届いてない部分を選んで入国。
「さて、後はカシュラーゼの王都エルヴァンまでひとっ飛びだ!!」
『そうね。それじゃあしっかり掴まっててね!!』
向こうに自分達の入国をバレない様にするべく、高度を上げて上空からレウスの連絡を待つ。
レウスは連絡用の魔晶石を魔力の限度ギリギリまで使い、自分の状況をしっかりと中継しながら王都に辿り着き、そしてエドガーとのやり取りをする。
それを魔晶石越しに聞いていたエンヴィルークとアンフェレイア、そしてパーティーメンバー達はレウスが指を鳴らしたのも同じく魔晶石越しに分かった。
『どうやら交渉は決裂したらしいわね』
『そうだな。それじゃあこのデカブツが壊れない程度にギリギリで落とすんだ』
そしてパーティーメンバー達はそのドラゴン二匹がゼフィードを落とし、レウスがゼフィードとともにクルシーズ城へと向かった所で後に続いて城へ向かったのだった。