834.通り抜け練習と作戦立案
「これか……」
「とりあえずやってみなきゃ分からないわよね」
目の前にあるゼフィードの赤くて大きな金属の質感たっぷりのボディを見上げて、まずは擬似的に魔術防壁を展開してそこを通り抜ける練習から始める。
しかし、幾らアレットを始めとする人間の魔術師でもこのゼフィードを抑え切れる程に広範囲の魔術防壁を仕掛ける事は出来ない。
そこで、ルルトゼルの村からエヴィル・ワンの身体の欠片を持って来たアンフェレイアに協力して貰い、広範囲のドーム型の魔術防壁を展開して貰って練習に励むレウス。
「こんなの無茶だぞ! ただでさえ操作に慣れていないって言うのに……!!」
「とりあえずアンフェレイア様も協力して下さっているんだから、頑張ってくれレウス!!」
「他人事だと思いやがって……!!」
それでもカシュラーゼに乗り込むにはこれしか無い。
レウスは飛行訓練も兼ねて、未知なる兵器と闘い始めた。
そしてその傍らでは、エンヴィルークが中心となってどうやってカシュラーゼに乗り込んだ後の行動を取るかを考えていた。
『乗り込むのは良いが、それに伴って何処から攻めるかだな』
「そうですね。あのカシュラーゼが相手ですから……これが最終決戦となるのは間違いないでしょう」
『だったら敵の方も絶対に俺様達を叩き潰しに来るだろう。だったらやれるだけの事をやるだけだ』
しかし、そこまで聞いてふとアニータがこんな事を言い出した。
「ねえ……それだったら神様のあなた達の力を使って、カシュラーゼを根絶やしにしてしまえば良いんじゃないのかしら?」
「あ、それは私も思ったわ」
神様なんだからそれ位は朝飯前でしょ、とアニータに続いてアレットもそう意見をするが、かなり冷ややかな目つきでエンヴィルークは反対する。
『いや、それは駄目だな』
「どうしてよ?」
『根絶やしにしてしまったら、そもそもそっちのそいつの姉貴までも根絶やしになっちまうぜ?』
「あ……」
『それにレアナ女王だって居るんだし、むやみやたらにそんな事は出来ねえよ』
「だったらレアナ女王とティーナを助け出してから根絶やしにすれば良いじゃない?」
しかし、そのドリスの意見についてもエンヴィルークは首を横に振った。
『それも駄目だ。そもそも神だからと言って何でもして良い訳じゃない。俺様とアンフェレイアはこの世界の監視者だからな。世界が発展するには争いも当然ある。それを行き過ぎない様にするのは俺様達の役目だが、争いが起こるのを全て止めていたら世界の監視者として介入し過ぎる事になる』
「何その理屈……」
『だから人間や獣人達の争いは、かなり深くまで俺様達が介入して良い問題じゃないんだ。今回のカシュラーゼは明らかにやり過ぎだから、放っておいたらこの世界が滅亡する事になりかねねえ。だから俺様達も介入はしているが、決着はお前達で着けるんだ』
「なかなか上手く行かないものなのねえ……」
本音が出てしまったアレットとアニータを横目に、エンヴィルークは作戦の続きを話す。
『それでだな、あのでかい奴で魔術防壁をブチ破って中に突っ込めたとしてそこからが問題だ。そこからはスピードが重要になるからな。カシュラーゼの内部に詳しい奴が居れば地図とか作れるだろうけど、そう言うのが居ねえからとにかくしらみつぶしにお前の姉貴と女王を捜すんだ』
「そうだな。お主の姉とレアナ女王は確か地下に囚われていると言う話だった。となればレウスがあのでかいので攻撃をして魔術防壁を破壊した後に、私達がクルシーズ城の内部へと侵入するしかないな」
その作戦を立てるソランジュに対し、ドリスがふとこんな話を思い出した。
「それは良いけどさ……ソランジュ、確かエスヴァリークに来る前にイーディクトの地下を通ってカシュラーゼの地下に行った事があるって話をしなかったかしら?」
「ああ、そう言えばそんな話をしていたな。確かお主とティーナに会う前の話だったか。だけどその地下世界に関しては魔法陣で向かったんだ。そうなると、奴等が魔法陣を使えない様にしている可能性が高い」
「うーん、確かにそれはあり得るわね」
向こうだってあらゆる侵入の可能性を潰しているだろうし、何よりその魔術防壁はカシュラーゼ全土を覆ってしまっているのだから、割と簡単に侵入出来た前回とは違う。
とりあえず魔術防壁を突破して、それ自体を解除して貰わなければ駄目だろうと思っていた。
「そもそもそれを考えてみると、鐘が鳴る時に来いって言われてもその魔術防壁を解除して貰わなければ行こうにも行けないよな」
「あー、そうよねエルザ! だってそうしなかったら取り引きそのものが出来ないじゃない!」
「そうだろう? つまり、奴等は最初から貴様の姉を無事に生かしておく気なんか無いって話が、一番筋が通るんだ」
最初から不可能な取り引きを持ち掛け、そして悔しがっている一行の目の前で「取り引きは失敗だ」と言い出してティーナを殺害する。
こう考えれば全てが納得行くんだよ、と力説するエルザを冷ややかな目で見ているアニータとエンヴィルークは、お互いに心の中で考えが一致していた。
(それ、考え過ぎじゃないのかしら……?)
【おいおい、それって推測が行き過ぎてるぜ】