833.魔術防壁の破り方
「それから二つ目だけど……こっちは相手が納得するかも知れないものだ。あのゼフィードを使って身体の欠片を運べば、当然向こうには文句を言われるだろう。何でそんなものを使って持って来たんだってな。だけど、俺一人で来る様に言われているんだからその約束通りにしたんだ、と言えば事実なのだから向こうも言い返せないだろ」
「分かると言えば分かるけど、そもそもそれで納得してくれるかしら? 向こうはちょっとでも自分に不利な条件だったら目くじら立てて凄くごねそうよ」
「別に納得して貰おうとは最初から思っちゃいない。ただ、ある程度の説得力が必要だと思っただけさ」
アレットの疑問にそう答えたレウスは、自分が考えたこれからの作戦を話し始める。
「で……だ。この緊急事態だし、時間が無いから早速行動しよう。まずはエレデラム公国に理由を説明して、ゼフィードを動かさせて貰うんだ。……それとエンヴィルーク、レアナ女王にテレパシーで連絡を頼めるか?」
『良いけど、何を伝えりゃー良いんだ?』
「カシュラーゼの領土全体に掛けられているって言う、あの大きな魔術防壁を停止させられないか伝えてくれないか。それかもしくはあんたがカシュラーゼに突っ込んで、それで魔術防壁を破れないか試してみてくれないか?」
それに対して、エンヴィルークは渋い表情を見せつつ答える。
『……とりあえず前者は出来るけど、後者は無理だ。魔術防壁をブチ破るんだったら、生物の体内にある魔力に反応させない様にしねえとな』
「うーん、やっぱり無理か……」
『そうそう。仮に魔力が無ければ魔術防壁をすり抜けられるかも知れねえけど、この世界でそんなケースを見た事がねえからイメージでしか語れねえよ、俺様も』
だからこそ、自分が出来るのはカシュラーゼのレアナに連絡を取る事だけである。
そして連絡を取ってみたのだが、今の彼女はとんでもない事態になっていたのである。
『女王のレアナか? 俺様だ、エンヴィルークだ』
『えっ、エンヴィルーク様!? あ、いや、今はちょっと取り込み中なんです……!』
『どうした?』
『実はその……牢屋の中に居るんです。ティーナさんと一緒に閉じ込められているんです!』
『何だって!?』
おかしい。
だって彼女は塔の中に幽閉されていた筈なのに、今は何でそんな場所に居るのだろうか?
それをエンヴィルークが尋ねてみると、レアナは以前の出来事を絡めて話し始めた。
『あの……ここから抜け出して城の中に渡った事がありましたよね?』
『ああ、あったな』
『残っていた足跡からそれがディルク様達にバレてしまいまして、それで迂闊な行動を取れない様にと地下の世界の牢屋に閉じ込められているんです!』
『そう言う事かよ、くそっ……参ったな!!』
そうなればティーナと一緒にレアナも処刑されてしまう可能性が高い。
そもそもは取り引きの時に、無理をしてでも入れてくれる様にするべきだと思っていた。
だが、肝心のレアナがこうなってしまった以上はその魔術防壁をどうやって解除するかが問題になって来る。カシュラーゼの領土をドーム状に覆う形でかなり大きな魔術防壁が張られているのだが、それを解除しない事には人間であろうが獣人であろうがゼフィードであろうがカシュラーゼの領土には踏み込めない。
それについて全員がうーんと頭を悩ませて考えているのだが、そこで閃いたのがエルザだった。
「なぁ、確かあれって魔晶石を動力源にするんだよな?」
「魔晶石って言うかゴミを動力源にすると言うか……とりあえずその後の調べで分かったんだが、内部で燃やせる物があれば何とか動くには動くらしい」
「そうなのか? だったらパワーは落ちるが、魔晶石を使わない状態で上空から一気に突っ込んで行ったらどうだ?」
「ど……どう言う事だ?」
いまいち彼女の言いたい事が掴めないレウス。
その彼に対して、エルザはエンヴィルークの方を向いて更に細かく説明を始めた。
「だから結局の話、動けば良いんだろう? 魔力を感知させない様にすれば良いんだろう? だったら話を聞く限りでは、あのゼフィードの起動をせずにドームの内側に入り込ませれば良いと思うんだがな」
「まぁ……それはそうだけど、起動するまで時間が掛からないか? その間に地面に激突したら終わりだぜ?」
「だから一瞬動力源を絶って、そしてまた起動するんだよ。要は魔力を感知させなければ、魔術防壁を超えられる筈だからな!」
「うーん……」
本当にそれで上手く行くのだろうか?
とりあえずやってみなければ分からないので、レウス達はまずエレデラム公国へと向かってゼフィードでカシュラーゼに乗り込む特訓をする事にした。