832.手土産の正体
「何事だっ!?」
「わ、分かりません!! 確認して来ます!!」
「うおあっ!?」
警報に続いて、部屋全体がドカンと言う大きな音とともに揺さ振られる感触が伝わって来る。
まさか地震か何かか!? と思っていたのだが、実際はそれよりも凄い事が起こっていた。
それは確認をしに行ったドミンゴと一緒に部屋にやって来たエドガーによって、このカシュラーゼの王都エルヴァンとクルシーズ城に何が起こっているのかが伝わった。
「おい、やばいぞ!! 大きな金属の塊が空を飛んで、そして表の方の取り引き用の部隊を蹴散らしている!!」
「は?」
「ちょちょちょ、ちょっと待て。一体あんたは何を言っているんだ?」
エドガーからの報告に間の抜けた返事をするディルクと、もっと詳しい説明を求めるラスラット。
その二人の師弟コンビに対して、今度はドミンゴが見たままを話し始める。
「あっ、あの……私達が見た限りはかなり大きな金属の塊が空を飛んでいるんです!! 赤い身体をしている人型の金属が、蹴りや殴打を駆使してここに攻撃をして来ています!!」
「ごめん、やっぱり意味が分からない。何がどうなっているのかさっぱりだから僕も一緒に見に行ってうわあっ!?」
再び揺さ振られるこの城の中。
地下にある筈なのにそこが揺さ振られると言う事は、城全体に物凄い力が掛かっているのではないかと推測するディルク。
とにかくその人型で、赤い大きな金属の塊とやらの正体を掴まない事にはどうにもならないので、ディルク達は地上世界と地下世界の両方を監視しているコントロールルームへと急いだ。
そしてそこで見た光景は、確かに城に向かって空中から蹴り攻撃を仕掛けて来ている人型の赤い大きな金属の塊の姿であった……。
◇
「くっそ……まだまだ扱いが難しいな!!」
昨日空を飛ぶ猛特訓をしていたレウスは、徐々にこのゼフィードの挙動に慣れて来ていた。
しかし、そもそもが未知の金属兵器であるが故にまだ扱いには慣れていないのが現状である。
それでも約束通りにここまでこうして突っ込んで来たのだから、もう後戻りは出来ない。
(上昇噴射システム、オン!!)
新たに発見した緑と赤のボタンの内、緑のボタンを押し続けて上昇。
そしてある程度までの高さを稼いだら、次は赤いボタンで噴射システムを止めてそこから一気に降下しつつ、足を突き出して空中からの蹴りを仕掛ける。
実際、これでこのカシュラーゼ全体に掛かっている魔術防壁を蹴り破って中に入る事が出来たので、かなりの威力がある事はそれで既に実証済みである。
レウスは昨日の猛特訓の時の感触を思い出しながら、必死にレバーとボタンを操作して文字通り揺さぶりを掛ける。
そしてそれで気を引いている間に、別動隊がペーテル改めエンヴィルークの指示を受けて動いていた。
「レアナ様のテレパシーによる道案内を良く聞いておけ! これも昨日の打ち合わせ通りに進むんだ!」
「分かった!」
エルザが先頭に立ち、次々にクルシーズ城の中へと乗り込んで行くレアナ救出部隊。
そもそもレウスに一人で来いと向こうからの連絡があった筈なのに、どうしてこの様な状況になっているのか。
それはその連絡が来た時まで話はさかのぼる。
「向こうもさ、結局エヴィル・ワンの身体の欠片を全て渡したからと言ってティーナを絶対に返してくれるとは思えないぞ。何せ、あの連中は何回も俺達の中にスパイを潜り込ませたりしていた訳だから、裏切りの連続で大体やりそうな事は見えているんだ」
「だったらどうするんだ? まさかお主、ティーナの救出を諦める気じゃないだろうな?」
「そんな事は思っていないさ。向こうは裏切りが得意な奴等の集まりだからな。だったら今度はこっちから約束を裏切ってやれば良いんじゃねえかと思ってさ」
しかし、それに対して反対意見を出したのはティーナの妹であるドリスだった。
「約束を裏切る? ちょっと待ってよ、そうしたら姉様が!!」
「それは分かってるよ。でもなぁ、それ以外にも俺がこれから話す作戦を考えたのはちゃんとした理由が二つあるんだ」
「二つ?」
ドリスの問い掛けにレウスは頷き、その二つを話し始める。
「ああ。まず一つ目……幾ら何でも俺一人であのエヴィル・ワンの身体の欠片を全て持って行くのは不可能だ。つまりこんな条件を提示して来た時点で、向こうにはティーナを無事に返す気は無いと言えるね」
でも、一つだけ出来そうな方法があるとレウスは続ける。
「あのエレデラム公国で見つかった、ゼフィードって金属の塊にエヴィル・ワンの身体の欠片を括り付けるんだよ。あれだったら確か新事実で空を飛べるって言ってたし、大きな身体の欠片だってロープか何かで厳重に括り付けて運べる筈だからな」
「あっ、その手があったわね。でもイメージすると何だか気持ち悪いわ」
身体の欠片を括り付けたまま空を飛行するゼフィードをイメージして、正直な感想を述べるサイカ。
そんな彼女に構わず、レウスは二つ目の理由を話し始めた。