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828.因縁の対決、決着

「ここは……お前とギルベルトが俺の必殺技を見た鍛錬場じゃないか」

「そうだぞ」

「しかも途中の廊下で出会ったギルベルトまで連れて来て……一体何をしようって言うんだ?」


 エルザに連れられて、ギルベルトとともにやって来たのはあの最初のドラゴン襲撃前に魔術のテストをしていた鍛錬場である。

 まさかここで身体を動かして気を紛らわせようとでも思っているのか? と考えるレウスだが、実際は少し違うらしい。


「一言で言えば、貴様と私で手合わせをしようと思ってな」

「は? ちょっと待てよ。今はそんな事をしている場合じゃ……」

「向こうからの連絡を待ってばかりでは、貴様の精神がすり減るだけだろう。それにここにはギルベルト団長も居る事だし、何かあればすぐに動けるからな」


 確かに緊急事態なのは言う通りだが、気分を紛らわす事も大切だぞ、とレウスに提案したエルザだが、本当の目的は別にあるんじゃないかとギルベルトが疑問に思っていた。


「なぁ……エルザ。もしかしてお前は気分転換の意味もあるのかも知れないが、本当はアークトゥルスに対してリベンジをしたいんじゃねえのか?」

「えっ?」

「ああ、その顔は当たりだな。確か最初にお前がヴァレリアの田舎町で出会った時に、アークトゥルスに負けてしまったって話を聞いた覚えがあっからよぉ」


 考えをズバッと当てられてしまったエルザだが、実はそれ以外にもレウスに対して負けてしまった経験がある。

 イーディクト帝国の、あのサィードと出会った場所である地下の闘技場で行なわれた金網デスマッチでの敗北。

 あれで二度目の屈辱的な負けを喫しただけではなく、エスヴァリーク帝国の武術大会で自分は一回戦で負けてしまったのにレウスは決勝トーナメントを駆け上がり、そして優勝してしまった。

 彼よりも自分が劣っていると言うのか。このマウデル騎士学院の首席の学生である、この私がポッと出て来たあんな男に。

 幾ら五百年前の伝説の勇者だと言っても、心の中に残っているこのモヤモヤとした気持ちは未だに晴れてはいない。

 だからこそ、今ここでリベンジをする絶好のチャンスである。


「私だって、貴様に負けっ放しだった訳じゃない。貴様の戦い方や技がどの様なものなのかをずっと近くで見て来たんだ。それに貴様が寝ている間にも、私は自分の戦い方を見直して来た。今までずっと旅をして来て、成長したのは貴様や他の仲間達だけじゃない!」

「だから俺に勝てるって言いたいのか? そもそも、お前が鍛錬している所なんて俺は見た事が無いけどなあ」

「だから寝ている間にこっそり鍛錬していたと言っているだろう! 前に二回戦った時の私と同じだと思っていると、痛い目に遭う事を思い知らせてやる!」

「へぇーっ、随分な自信じゃないか」

「私は貴様に何時も地面に這いつくばらされていたんだ。そろそろ、私が貴様を地面に這いつくばらしてやる!!」


 そこまで言うのであれば、こんな状況ではあるがこっちも受けて立とう。

 レウスはエルザの誘いに乗る事にして、いよいよ最後になるであろう三回目の手合わせが幕を開けた。

 丁度この場所に一緒に着いて来ていたギルベルトがこの勝負を見届ける事に決めて、同時に審判も担当する。


「それではレウス・アークトゥルス・アーヴィン対エルザ・ミネルバ・テューダーの試合を始める! 両者、準備は良いか?」

「良いぜ……」

「何時でも行けますよ」

「良し、それじゃあ……始めっ!!」


 たった三人しか居ないこの鍛錬場の中に、その三人の内の一人であるギルベルトの合図が大声で響き渡り、それを切っ掛けに残りの向かい合っている二人が動き出した。

 そして向かい合っているレウスは、かつての勇者であるアークトゥルスとして全力で迎え撃つ。

 お互いに魔術防壁も何も無い状態から始まったこのバトルは、初っ端から激しい打ち合いを繰り広げる。

 通常、武器の関係性では斧が槍に強いと言う常識があるのだが、レウスの場合はそれを気にする様子も無くリーチの長さを活かしてエルザを自分の間合いに飛び込ませない。

 対するエルザは、やはりかつての勇者と言うだけあってかなりの強さを有していると実感する。


(やはり強い! この男……流石は勇者アークトゥルス!!)


 だが、その槍のスピードも見切れない訳では無い。

 レウスの攻撃のスピードをこうして見切れる様になった喜びを噛み締めながら、エルザはバトルアックス二本を軽快に振るって互角のスピードで戦いを繰り広げる。

 その証拠に、少しずつではあるがレウスとの間合いが縮まって来た。

 間合いを詰めさえすればこっちのペースに持ち込めると踏んだエルザは、しかし冷静に少しずつ距離を縮める事に専念する。

 焦って相手に隙を見せる事はしない、と攻める一方で冷静な判断が出来ていた。


(確かに前の二回のバトルと比べたら、スピードも上がっているしそれでいて動きも正確になった。前はちょっと粗削りな部分があったが、それが無くなっているのは確実に成長している!)


 だけど、とレウスは彼女の弱点も同時に見極めていた。


(エルザ、お前の弱点はまだ残っている。今からそれを教えてやる!)


 心の中でそう宣言したレウスは、バックステップで大きく距離をとって自分の間合いに持ち込もうとする。

 しかしそれに対してすぐに追いすがって来るエルザ。そしてそれをレウスは待っていた。


(そこなんだよ!)


 追いすがって来るエルザのバトルアックスを身体を捻って回避し、そのまま右の手首を掴むレウス。

 そして勢いを利用して手首を捻り、明後日の方向へと投げ飛ばした。


「うおあっ!?」


 地面に背中から叩き付けられたエルザはすぐに起き上がろうとしたが、その瞬間には既に彼女の目の前にレウスの槍の切っ先が突き付けられていた。


「……!」

「教本通りの動きがまだ身体から抜けていない。時には相手が想定外の攻撃や反撃を仕掛けて来る事があるんだ。それを覚えておけよ」


 ギルベルトがそれを見て、高らかにレウスの勝利を宣言する。


「勝者、レウス・アークトゥルス・アーヴィン!!」

「やっぱり貴様が最強か……何か、悲しい様で嬉しい様な不思議な感覚だ」


 地面に仰向けに倒れたままそう言うエルザは、何か憑き物が落ちたかの様な表情になっていた。


 十四章 完

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