827.足りないメンバーは誰だ?
「まずは今回の任務、ご苦労だった。おかげで大砲による砲撃を免れたので感謝するよ」
「それはどうも」
「けど、まだ他にもメンバーが居るからその時にまた改めてお礼をさせて貰おう。とりあえず、今はこの城の中で待機していてくれ」
インハルト城に戻ったレウスは、ギルベルトにドゥドゥカスの元から離れない様にと言っておき、自分は与えられている客室で待つ事になった。
クリスピンはあの地下の話を他のメンバーにもしたと言っていたので、それを考えると誰が足りないのか分かるかも知れない。
そう考えたレウスは彼に通話を試みたのだが、向こうも忙しいのか通話に反応してくれなかった。
仕方が無いのでラスラットからの連絡を待ちつつ、他のメンバーにも連絡を入れてさっさと戻って来る様に仕向けたのだが、通話に応答するメンバーとしないメンバーが半分ずつであった。
(参ったな、これじゃあ誰が人質になったのかがまだ特定出来ないじゃないか)
とにかく今は待つしか無い。
今までの疲れもあり、レウスは眠ってしまう事にする。
まさかカシュラーゼが人質を取って来るとまでは思っていなかったのだが、自分の考えが甘かったのだろうとここで反省する。
そのまま夢の中の世界に入り込んだレウスは、ギルベルトが起こしに来てくれるまで起きなかった。
「おいっ、起きろアークトゥルス!」
「ん……んえ?」
「仲間達が一人を除いて全員戻って来たぞ!! さぁ、さっさと起きてお前も合流だ!!」
「ほ……本当か!?」
「嘘ついてどーすんだよ。だからさっさと起きろっつの!!」
ギルベルトに起こされてそのままドゥドゥカスの執務室まで向かうと、そこには確かに一人を除いてパーティーメンバー全員が揃っていた。
「あっ、遅かったじゃないレウス!!」
「おいっ、こんな時に貴様は何を寝ているんだ?」
「そうよ。かなりの緊急事態じゃない!」
「お主がラスラットからあの連絡を受けたって聞いて、私達も驚いたぞ」
「とりあえず、今はその連絡を待っている状態よね?」
「それにしても……ティーナが人質に取られるとは困った事になったわね」
「あ……」
メンバーそれぞれの声を聞いたレウスは、ここで残りの一人……ティーナが居ない事に気が付いた。
そう、人質に取られてしまったのはティーナなのである。
あの時のメンバー振り分けでアイクアル王国へと向かったティーナ、そしてそのティーナと合流してレイベルク山脈の様子を見に行ったアイクアル王国の騎士団長フェイハン。
そのフェイハンからの連絡があり、崖の下に落ちたもののその先にあった林がクッションになって助かったらしい。
しかし、その前にラスラットに刺された腹の治療をしなければならないので魔晶石で部下に連絡を入れて迎えに来て貰ったのだと言う。
「鎖かたびらを着込んでいたから傷はそこまで深くなくて、一応応急処置はしたらしいんだが、本格的に治療をしなければならないので迎えに来た部下達の一部に山頂の様子を見に行って貰ったらしい」
「だけど既にそこにティーナの姿は無くて、俺の所に連絡があったって事か……」
ソランジュは頷く。
ティーナがどうなっているのか分からない今、カシュラーゼがさらった事だけは分かる。
なので、ここはカシュラーゼに乗り込むべきだとギルベルトが言い出した。
「だったらよぉ、今すぐに騎士団全部動かしてカシュラーゼに乗り込もうぜ!!」
「それはダメだよギルベルト」
「どうしてですか、陛下!?」
「だってさぁ、向こうから連絡を待てって言われているんだよ。なのにそれを無視してカシュラーゼに乗り込んだら、それだけでティーナが殺されてしまわないとも限らないじゃないか」
『そうだぞ。ここは待つべきだと俺様も思う』
「……はっ、かしこまりました」
不服そうな表情を浮かべながらも、ギルベルトはドゥドゥカスとペーテルの二人に説得されて引き下がる。
しかし、その連絡で向こうが何を言い出すか分からないのがかなり怖い所である。
「くっそ……これじゃあまるで蛇の生殺しだぜ!!」
「そう言われても、今は待つしか出来ないな。とりあえず向こうからの連絡があったらすぐに動ける様に準備だけはしておこう」
エルザのそのセリフに全員が同意して、胸の中がモヤモヤしながらずっと待つしか無いのである。
しかし向こうからの連絡はその日には無く、更に翌日も無く、その翌日も来なかったのである。
「やっぱりあの通話はハッタリだったんじゃないのか!? 何も連絡が無いってどう言う事だ!?」
「落ち着けレウス! パーティーのリーダーである貴様が取り乱したら私達まで不安になる!!」
「だったらどうすれば良いんだ? こうしている間にもティーナは……!」
「と言うか、貴様はこの時代に来る前の旅でこうやって仲間を人質に取られたり、そう言う人質事件に遭遇した事は無かったのか?」
「無かったね……だから俺に取っては初めての経験だ。だから俺はどうしたら良いのか……」
まさかの勇者らしからぬ取り乱し方。
このままではまずいと考えたエルザは、レウスをある場所へと連れ出した。