821.流砂バトル
ただし、どの方向にどんな町や村があるのかは分からないのでエンヴィルークも詳しくは言えない。
クリスピンはここで考えた。ここで無理に聞き出して町や村の心配をして頭が混乱するよりかは、さっさとその砲台を潰してこれ以上の被害が出ない様にするのが得策であると。
「なら、次の砲撃がある前にその砲台を潰しましょう」
『勿論だ。それじゃあ行くぜ。その流砂のある場所ってのはもうさっきの砲撃が飛んで来た方向から分かったからな!!』
場所が分かりさえすれば後は一直線に飛んで行くだけ。
しかし次の砲撃もあるかも知れないので慎重に、緊張感を持ったフライトで砲台のある場所に向かったエンヴィルークが、その砲台がある場所に近づいて様子を確認する。
神曰く、この場所に居るのはやはりカシュラーゼの連中で間違い無いらしい。
『くそっ、やっぱりカシュラーゼの待ち伏せの奴等が多数居やがるぜ!!』
「何人位居るかは分かりますか!?」
『大体五十人って所かな。だけどこんな場所にあらかじめ待ち伏せをこれだけ用意しておくなんて、どう考えてもやっぱ誰かから俺様達が砲台を壊しに行くって連絡があったって事だとうおあっ!?』
下の方から弓矢で狙われ、投げ槍を投げられて急旋回してそれを避ける。
お返しだとばかりに炎のブレスを地上に向かって浴びせ、それで敵達をばらけさせてから一気に接近する。
『よっしゃ、ここからなら行けるか!?』
「行けます!」
エンヴィルークの初動によって敵の戦力を分散させた所で、そのエンヴィルークの背中から飛び降りたクリスピンは上手く着地する。
下が砂地なので大したダメージも無い以上、ロングソードをすぐに振り被って敵に突っ込んで行ける状態のクリスピンは、まず自分に向かって来た一人を一撃で撃破する。
続けて二人目を回し蹴りで吹き飛ばし、三人目を心臓を一突きにして絶命させ、四人目をその心臓から引き抜いた刃を振り下ろして首を切り裂いた。
一方、二人目の回し蹴りで吹き飛ばされたカシュラーゼの手先がすぐに起き上がってまたクリスピンに向かおうとするものの、その前に上空から突っ込んで来たエンヴィルークの前足に吊り上げられてしまう。
『そらっ!!』
大きく身体を揺らしてその男を空中から放り投げ、地面へと叩きつける。
そのまま絶命してしまった男には目もくれず、今度はこの砂漠の暑さにも負けないレベルの炎のブレスを再び吐き出して何人かの敵を丸焼きにするエンヴィルーク。
しかしその瞬間、彼の目が思いがけない光景を捉えた。
『……流砂だ!!』
「うわっ!?」
存在は知っていたものの、実際にはまってしまうのはこれが初めてのクリスピン。
その流砂はかなり大きくてそして深いので、敵も味方も問わずに呑み込まれそうになってしまう。
それを阻止するべく、エンヴィルークはクリスピンのマントを器用に前足で掴んで彼を引っ張り上げた。
「た……助かりました!」
『別に良いって事よ。でもどうやら話は本当だったらしいな。この場所には流砂が沢山あるみたいだぜ』
まだ流砂が沢山残っているのだが、勿論その流砂に砲台が沈まない様になっているらしく、砲台の位置から考えてもこの辺りの流砂のリサーチはされているらしい。
しかしこんな状況では、敵味方問わずにその流砂に沈んでしまう可能性があるのでクリスピンは気を付けなければならない。
ドラゴンのエンヴィルークにとってはどうって事は無いのだが、人間であるクリスピンにとっては命取りになる可能性がかなり高い自然のトラップだ。
なのでその流砂から離れた場所で戦おうと頑張るクリスピンだが、敵はその流砂のトラップに引っ掛けようとするのでお互いに場所を考えて戦わなければならない状況である。
しかし、それよりも気になるのはどうしてこんな流砂ばかりの場所にわざわざ砲台を造ったのかと言う事だった。
(ハッキリ言えば立地条件としては悪い。人目に付きにくくて人が近寄らないのは良いとしても、それ以上にこんな場所で砲台を組み立てるその神経が私には理解が出来ん)
残っているカシュラーゼの手先を少しずつ確実に倒して行くと同時に、その疑問がますます大きくなって来るクリスピン。
何回も流砂に引っ掛かりそうになりながらも、その度にエンヴィルークが助けてくれる。
彼もまた、この世界の監視者としてこんなに危ない物をこのまま放置しておく訳にはいかないので、こうして一緒に戦っているのだ。
そしてエンヴィルークもその疑問を心の中に抱えていた。
何故こんな場所に砲台があるのか。ここにわざわざ建造する理由は何なのか。
その理由は、何度もクリスピンが呑み込まれそうになっているこの多数の流砂の『下』に存在していた。