819.再建計画
一国の国王が一般人に、しかも他国からやって来た外国人にビンタを受けると言うあり得ない展開が起こっているその頃、アイクアル王国が地元の人間であるティーナは王国騎士団長のフェイハンと合流し、ワイバーンでレイベルク山脈の頂上へと向かった。
あの砲台を破壊したレイベルク山脈にこうしてまたやって来た訳だが、やはりここに来て正解だったと思う光景が二人の目の前に広がっていた。
「どう思いますか? フェイハン騎士団長」
「あたしは……そうねえ。とりあえずこの人を倒さなければならないって思っているわ」
レイベルク山脈の頂上にワイバーンで乗り付けた二人は、まさかの人物と再会していた。
今までの旅路で出会って来た敵達の中でも、かなりの実力者の部類に入る黒髪の男……あのディルクの弟子であり凶暴さにかけても師匠に負けず劣らずらしい、ラスラットがこのレイベルク山脈にやって来ていたのだ。
以前、ここで出会ったブローディ盗賊団は既に壊滅してしまっている。
そしてそのブローディ盗賊団のリーダーであるフランコと、今こうしてこの目の前に居るラスラットを、まさにこの山脈の頂上であるここから下に向かって投げ落としたのがアンフェレイアだった。
「またここに来たのに、どうしてこうやって邪魔ばっかり入るんだろうな?」
「それはこっちのセリフです。貴方がどうしてここに居るのかは大体見当がつきますよ、ラスラット。大方……ここでまた砲台を造ってあの大砲を造って、そして砲撃をしようって算段ではありませんか?」
「ああ、そうだよ。と言うかそれ以外にここに来る意味なんてねえしよぉ」
既に目的を隠そうともしないラスラットは、こうしてまたここであのアークトゥルスの生まれ変わりの仲間と出会ってしまった事に対して嫌悪感しか覚えない。
一方、そのアークトゥルスの生まれ変わりの仲間であるティーナとフェイハンの二人も、まさかこんな場所であのディルクの弟子に出会うなんてと思ってしまう。
しかしポジティブに考えてみれば、こうしてここに来た事によってラスラットが進めようとしていた再建計画を断念させる事が出来る。
そう考えていたティーナだったが、その一方でフェイハンがおかしな事に気が付いた。
「あら? そう言えば貴方の部下はどうしたの?」
「部下は居ない。今回は下見の予定だったからな。幸いにも騎士団が居ないからこうしてまたやれるんじゃないかって思っていたんだが、そこでこうやって見つかってしまうなんて本当についていない……ん?」
いや、待てよとラスラットが考えを改め始めた。
そしてその顔に凶悪な笑みを浮かべ、愛用のロングソードを腰から引き抜いた。
「この状況はもしかしたら、色々と利用出来るかも知れないな……」
「どう言う事かしら?」
「別に深くは聞かなくても、何か良からぬ事を考えているのは間違い無さそうですわ、フェイハン騎士団長」
「その通りだ。今ここで引き下がれば見逃してやっても良いんだがなあ?」
それは余裕か、それとも虚勢か。
どちらにしてもティーナとフェイハンは引き下がるつもりは無いのだし、何よりルルトゼルの村から逃げられてしまった以上は、ここで再度きちんと捕まえなければならない。
「何を言っているのか良く分かりませんが、引き下がるつもりはありません」
「そうか。だったら俺としてもあんた等二人をぶっ潰してここに大砲を造らせて貰うとしよう」
「そんな事はさせないわよ。騎士団長のあたしが阻止してやるわ!」
そう言いつつ弓を構え、すぐに矢を引き絞って射るフェイハン。
その矢は狂い無くまっすぐにラスラットに向かって飛んで行くものの、その矢をロングソードの薙ぎ払いで切り飛ばして回避するラスラット。
そこに今度は一気にティーナがロングソードで斬り掛かるものの、そのロングソード使いのテクニック面ではラスラットの方が上らしく、簡単にいなされて回し蹴りで頭を蹴られて気絶してしまった。
「ぐへっ!!」
「くっ……!」
当然、それを見ていたフェイハンは次の矢を引き絞るものの、そこに向かってラスラットは先制攻撃でエネルギーボールを発射する。
その飛んで来たエネルギーボールを回避しながら横っ飛び状態で矢を発射するフェイハンだが、既に動き出していたラスラットはその動きで矢を回避し、一気にフェイハンに接近。
三本目の矢をつがえようとした騎士団長だったが、そのつがえる動作は幾ら速くてもそれなりの時間が掛かる。それに接近戦闘では矢よりもロングソードの方が手数として圧倒的に有利だ。
向かって来るロングソードの切っ先を避けながらバックステップで徐々に後退するフェイハンだが、気が付けば後ろが崖になっている場所まで追い詰められてしまった。
「……っ!?」
「死ね!」
「ぎゃふっ!?」
ロングソードで腹を突き刺された上に、前蹴りで蹴り飛ばされたフェイハンは弓を握りしめたまま崖下へと落ちて行ってしまった。
その様子を見て満足げに微笑んだラスラットは、未だに気絶しているティーナの元へとゆっくりと歩み寄ってその肉体を見下ろして呟いた。
「さて、こいつはなかなか使えそうな道具になりそうだぜ……」