811.これ以上ぶっ壊されてたまるかよ!!
エスヴァリーク帝国でのドリスが引き起こしている大爆発から少し時間は遡り、西の隣国ヴァーンイレスにおいては担当となったアニータが国王となったサィードとともに、イレインの案内のもと砲台に辿り着いていた。
「まさかこんな場所にあったなんて……」
「俺達だってまさかこんな場所にあるとは思ってもみなかったぜ。でも確かに、誰も寄り付かない様な場所って言えばここ位しかねえだろうなぁ」
三人が今居るのは、このヴァーンイレス王国の領土内ではあるのだが大陸部分から離れている場所。
地図で見ると、このヴァーンイレスと北の隣国カシュラーゼとの間にある小さい島がそこにあたる。
ここは元々無人島であり、現在でも誰も住んでおらず魔物の棲み家となっている。戦争によって壊滅する前の王国騎士団もここは人が住んでいないと言う理由から見回りもする事無く放置されている状態が続いていた。
しかし、アンフェレイアの話によるとこの無人島の中で砲台があるのが分かったらしい。
「この島は完全に盲点でした。ですが良く考えてみれば、この立地条件からすると確かに砲台を建造するには最適の場所でしょうね」
「そうね。この島自体がヴァーンイレスとカシュラーゼの丁度中間にある事、それから無人島で騎士団の目が届いていない事、そもそもその監視対象から外れていた事を全てひっくるめて考えてみると、カシュラーゼがこの島を絶好の建造場所として考えても何ら不思議じゃないわね」
それに元々ここはサィードの国ではあったのだが、カシュラーゼを筆頭とする連合国に占領されていてやりたい放題だった上に、国を取り返したのがつい最近。
まだヴァーンイレス国内にウジャウジャ居る連合国の残党を討伐し終えきれてないのを考えると、島までまだまだ目が行き届いていないのも仕方が無いと言える。
今回、アンフェレイアからの報告が無ければ恐らく知らない内に砲撃を受けてしまい、何が起こったか分からない内にその砲撃で絶命していただろうと考えると、サィードもイレインもブルルッと身震いをしてしまう程だった。
「とにかく、今回の破壊作戦では俺達三人しか来られなかったんだからさっさと破壊しちまうぞ」
「まぁ、まだまだ他にもやる仕事が沢山ありますしこっちに大勢で来たらここに居るであろうカシュラーゼの敵達にも破壊作戦がバレてしまいそうですし」
「だからバレない為にここまでこうして来たのよ。とりあえず島の中を色々と見て回りましょう」
「そうだな」
サィードもイレインも、この島の内部には生まれてから一度も立ち入った事が無い。
戦争前は大陸の中だけの移動で十分だったし、国を取り返した今でも自分達のヴァーンイレスを滅ぼしたカシュラーゼが北にあるのだから、こうして何かしらの目的が無い限りは近づく理由が無い。
アニータもこの中に入るのは初めてなので、その初めての島にワイバーンで上陸した三人は島内部の探索から始める。
「見る限りでは自然豊かな島だし、キャンプとかをするにはもってこいの場所だけどね」
「ああ。カシュラーゼが北に無かったら観光リゾートとして開発しても良い位だが、あの国がそれを知ったら何をしでかすか分からねえからな」
「今でも無断で侵入されているみたいなのに、こんな状況じゃなかったとしても合法的にここの島を自分達の領土にしようと交渉するとはとても思えませんからね」
それに、とイレインは自分の予想を続ける。
「ここは無人島ですからやりたい放題も良い所でしょうね。確か砲台関係の報告によれば、カシュラーゼの本拠地から魔力を引っ張って来てそれで各国に設置されている砲台に魔力エネルギーを充填しているらしいですね?」
「ええ、そうよ」
「でしたらこの場所はますます有利でしょう。海底を通してこの無人島に魔力エネルギーを引っ張り込めば、幾らでも我が国の中に向かって砲撃をする事が出来る。持って来て頂いた地図で見ても分かる通り、ここはカシュラーゼから一番近い砲台の設置場所ですからね」
「そもそもヴァーンイレス内部から注目されていない場所でもあるから、砲台の設置も楽勝だっただろうしな」
ここにあるらしい砲台をぶっ壊したら、またここにカシュラーゼの力が及ばない様に王国騎士団から部隊を編成して駐屯地を造ろうと考えるサィード。
今はこのヴァーンイレスに戻って来た人員、それから傭兵上がりの人間や獣人を中心とした志願者で騎士団員が構成されているが、ここに駐屯させる人員はカシュラーゼとの繋がりが無いかどうかをキッチリ確かめてからでなければ不安しか無いのである。
「これ以上俺達の国をぶっ壊されてたまるかよ。何としてもここにある砲台を壊さなきゃな」
「その為に私達はここに来たのよ。この島は意外と広そうだから探索には時間が掛かるかも知れないけど、でもアンフェレイアからある程度の場所を聞いてあるからやみくもに探す必要はそんなに無いと思うわ」
アンフェレイアの話によれば、この島の北側の方でその砲台を見たらしい。
確かにカシュラーゼとの立地条件を考えれば北側に設置した方が良いだろうし、今回ここにやって来た自分達の様に迎撃を恐れて南から回り込むしか近づく方法が無くなる。
だから探索も兼ねてさっさと北側に向かうべく進み出した一行だったが、やはりそう簡単にはいかなかった。