810.地下の先で
その階段をぐるりと大きく回り込んで下りた先にあったものは、何時の間にこんな大きな場所を造ったのだろうと思わざるを得ない位に天井の高い部屋だった。
高さで言えば地上五階建ての部屋まで届きそうなのだが、そもそもここを造ったのは誰なのか?
それ以前に地下にこんな空洞を造っておいて、今まで良くこの上にある闘技場が崩壊しなかったなと思っている四人。
そしてその地下の空間には、建造されて何時でも発射する事が可能になっている大砲が鎮座していた。
この大砲を載せている砲台の存在こそが、アンフェレイアがこのエスヴァリークの闘技場から感じたと言う魔力の正体なのはすぐに察しが付いた。
「そりゃあこんなに大きな物があって、そしてここに鎮座していて魔力を感じない訳が無いわよね」
「連絡によれば、確かこの砲台にカシュラーゼから魔力を送り込まれて来ているって話だったな?」
「ええそうよ。だからこれだけを破壊しても根本的な解決にはならないんだけど、少なくとも相手の戦力を減らす事には繋がるわよ」
なので早速この砲台を壊してしまおうと考えるドリスだったが、そのドリスを含む四人の元に思わぬ所から思わぬ邪魔が入った。
「……ん!?」
「えっ?」
「何かが来る! 魔法陣が次々に現われているぞ!!」
「くっ!」
フォンの驚きにドリスがキョトンとしたのを見て、ニーヴァスが素早くその理由を説明する。
そしてその多数の魔法陣とやらを見つけたセバクターが素早くロングソードを構えるが、魔法陣から現われたのは全員が予想しなかった相手であった。
「へーえ、やっぱり待ち伏せしていて正解だったぜ」
「貴方は……確か、ユフリーって女と一緒に居たえーと……ドゥ、ドゥ……」
「ドゥルシラだ。そのユフリーから連絡貰って、こっちにも来るかも知れないから待ち伏せしてたんだけどよぉ、まさかこうやってちゃんと来てくれるとは思ってもみなかったぜ!!」
勝ち誇った様にそう言うドゥルシラの手には、前回の時と同じ様にハンドガンが握られている。
良く見てみれば彼の仲間達も彼と同じくハンドガン、それから見た事も無い武器を持っているのだがその中にはハンドガンの形と似ている物もある。
なので性能や使い方は恐らくハンドガンと同じか、もしくは改良して更に威力を上げた物だろうかと言う事しかドリスは分からなかった。
そしてその一団を率いているのであろうドゥルシラの姿を見たドリスは、一か八かで手に持っている魔晶石を彼に向かって投げつける。
「そう……じゃあ、前回と違って今度はこっちから行くわよっ!!」
「なっ、くっ!?」
投げ付けられた魔晶石。それを反射的にハンドガンで撃ち落とすドゥルシラ。
しかし今回ばかりは、そのハンドガンがどうやら仇になってしまったらしい。
何故なら、この砲台を木っ端微塵に爆破する為に作られた魔晶石に向かってそんなハンドガンの弾丸を撃ってしまえば、どうなるかは考えなくても分かる。
反射的に、ドリスは自分の出せるありったけの力で仲間の三人の男を地面に向かって押し倒した。
それとほぼ同時にドリスの背後でドゴン!! と大きな爆発音が響き渡ったかと思うと、それと同時に炎と煙がこの空間の中に舞い上がった。
間一髪でその爆発から逃れた四人だったが、敵もギリギリで逃れた様でこのままではまだまだ決着がつく筈も無い。
その爆発が収まると同時に、まだ何が起こったのかを理解出来ていない敵に向かって次の魔晶石を投げつけるドリス。
「うっ、うわああああっ!!」
「ひゃあああっ、爆発するううう!」
「さっ、下がれーっ!!」
ドリスの持っている魔晶石の爆弾が原因で、さっきの様な大爆発が起こった。
迂闊に彼女を撃てば大爆発が起こってしまうので、まさかのその魔晶石を投げつけて来る彼女をむやみに撃つ事も出来ずに逃げ惑うばかりの部下達。
そのリーダーでもあるドゥルシラは何とか反撃のチャンスを掴もうとするのだが、そこに一気にセバクターが肉迫する。
「ぬおっ!?」
「貴様の相手はこの俺だ」
一気にロングソードで斬り掛かられ、咄嗟に左手でショートソードを抜いて防御するドゥルシラ。
しかしギリギリの防御でしかもパワーで負けているので、防御自体は上手く行ったもののロングソードのパワーに負けてセバクターにぶっ飛ばされる。
更に追撃でセバクターの前蹴りが決まり、他の部下を巻き込みながら一気に後ろに飛ばされるドゥルシラ。
「ぐっは! くそっ、ふざけんなよっ……」
「おりゃあああああ!!」
「うおあっ!?」
前蹴りの衝撃を後ろに転がって和らげたのに、そこに投げ込まれる魔晶石にビビって更に後ろへと下がるドゥルシラ。
それを見て隙が出来たと確信したフォンとニーヴァスが、ドリスの持っている魔晶石を詰め込んだ袋の中に手を突っ込んで大量に砲台に向かって投げつける。
更にドリスは中身を全て敵に向かって投げつけ、退散の指示を出した。
「大爆発するわよ! さっさと逃げないと全員木っ端微塵よ!!」
「うっ、うおあああああっ!!」
「くっそ!」
「ここで死んでたまるか……!!」
騎士団院の三人を引き連れ、一目散に逃げ始めた四人の後ろで耳をつんざく様な大爆発が起こる。
それと同時に地下の空間が崩壊し始めたので、全速力で脱出する事しか考えずに四人全員が足を動かし続けた。