807.まさかの……
増援が来た以上、そうと分かればソランジュとエルザの方にかなりの安心感が生まれる。
反対に、まさか騎士団にまで増援を頼んでいたとは思ってもみなかったエジット達はここで一気に連中を叩き潰す作戦に出た。
あいにく、砲台に設置されている大砲に魔力エネルギーを充填して発射するまでには、もう少しだけ時間が掛かってしまうからだ……。
「ちっきしょう……こうなったらお前等から血祭りだよおおおおっ!!」
「それっ!!」
「えっ……うっ、うわあああああっ!?」
意気込むエジットに対してソランジュから投げ付けられたのは、彼もまたカシュラーゼと接する中で見覚えがある魔晶石の爆弾であった。
それをいきなり投げられてあたふたするエジットに向かって、今度はエルザの強烈な右の前蹴りが叩き込まれる。
「ぐふぉ!!」
「エルザ、爆発するぞっ!!」
「ぬんっ……分かったぞ!!」
エルザに警告すると同時に、更にもう三個の爆弾を投げ付けるソランジュ。
砲台を爆破する為にはこんな数じゃ足りないが、とりあえず今は妨害勢力を全て片付けるのが先である。
全体重を乗せたエルザの前蹴りでそのまま吹っ飛んで行ったエジットの手の中で、最初の大爆発が起こった。
更に投げつけた小型爆弾が次々と爆発して、砲台へと繋がる道を塞いでいた敵達が次々にその爆発の中に呑み込まれて行く。
そしてその横を身軽な動きですり抜けたソランジュが、袋の中に残っていた全ての魔晶石を砲台に向かって投げつけてすぐに離脱する。
「エルザっ、ここから離れられるだけ離れるんだ!!」
「な、何を!?」
「あるだけの爆弾を撒いて来た。この広場に大穴が開くレベルのな!!」
「何だってえ!?」
「良いから走れっ、さっきの爆発とは比べ物にならないレベルのが来るぞ!!」
言われるがままに踵を返して駆け出した瞬間、背後からまるで強い突風に吹かれたかの様な爆発が起こる。
しかしそれが追い風になり、その後に起こった更なる大爆発から逃がれる為のスピードアップに貢献する。
「走れ走れ走れっ、走らなければ爆発に呑み込まれるぞ!!」
「うっ……うわあああああああああっ!!」
身体がバラバラになってしまう様な地面の揺れを感じつつ、まるで火山の噴火を思い出させる大爆発から全速力で逃げ、気が付いてみれば森の出入り口まで一気に走り抜けていたのだった。
流石にこの距離を走り抜けた二人は体力が切れ、ぜーはーと息を切らしつつ遠くで黒煙と炎を噴き上げている森の広場の状況を確認する。
そしてそれを見て、エルザがポツリとこんな本音を漏らしたのだが、その瞬間ソランジュの表情が変わった。
「流石にやり過ぎだったんじゃないのか……?」
「何を言っているんだお主は。そもそもあの砲台と同じ物が原因で、シルヴェン王国の首都もルルトゼルの村も砲撃されただろう」
それを考えると、再起不能な状態にまでしておくのが妥当だとソランジュが諭す。
「幾ら学院の中で首席だと言っていても、机の上で受ける授業と実際の戦場は違う。今まで学院を離れてこうして世界中を回って来て、それが分からない様であれば戦うには向いていないんじゃないのか?」
「うっ……」
悔しいけど図星でもある。
戦場では躊躇や油断、そして敵の心配をするのは自分の命取りになってしまう。
それを学院の授業の中でも教わって来た筈だし、自分の叔父でもあるエドガーからも言われて来た話なのに。
実際に戦場に出てみて、その現実を実感していた筈なのにまだ甘さが残っていたと言うのか。
心の中で自問自答をするエルザだが、その前にあの砲台の前で先程空の方にに見掛けたワイバーンの軍勢がようやく森の出入り口に到着した。
しかし、そのワイバーン軍団を率いていたのは思わぬ人物だったのだ!
「待たせたな。と言ってももう終わった様だが……」
「えっ!?」
「あ……あれっ、シャロット陛下!?」
どうしてシャロット陛下がここに居るのだ?
先程、まさかのエジットと再会した時よりも驚きを隠せない二人。何故なら彼に連絡を取った時、彼は「ワイバーンでそちらに騎士団を向かわせる」としか言っていなかったのだ。
だからてっきりシャロットは城に居るものだとばかり思っていた二人は、まさかの人物が登場した事でパニックである。
そんな二人の様子を見たシャロットは、彼女達が何を考えているのかを察した。
「何だ、もしかしてここに儂が居るのがそんなに驚きか?」
「それは驚かない方が異常ですよ。まさかシャロット陛下が直々にこの場所に来られるとは……」
「いやあ、あの連絡を受けていても立っても居られなくてなあ。久々に血が騒いだって言うか……はっはっはー!!」
「笑い事じゃないでしょうに。とにかくここは危険ですからすぐに離れますよ」
まさかの再会に、まさかの増援部隊を率いる存在。
そんなまさか続きのイーディクト帝国での砲台破壊もこうして終わったのだが、まだまだ砲台は残っている。
それを示すまず一つ目が、このイーディクトの南の隣国カシュラーゼを超えて更に南にある、エスヴァリーク帝国での話だったのだ。