78.ギルドと冒険者ランク
本当は一刻も早くランダリルに行きたい気持ちを抑えて、レウス達はギルドで請け負った仕事をこなして交通費を稼ぐ事に専念する。
この一連の流れで分かったのは、新しくパーティメンバーに加わったソランジュが四人の中で最もランクの高い冒険者だと言う事だった。
「ところで、貴女の冒険者ランクってどの位なの?」
「私はお主達よりも上のBランクだぞ。あの屋敷の使用人を辞めたら近々Aランクへの昇格試験を受けようと思っていたんだ」
「えっ、そんなに高いのか!?」
「嘘……かなり凄いじゃない。確か私とレウスより一個下の十六歳だったわよね。その年齢でそのランクは素直に尊敬しちゃうわ……」
ギルドの依頼をこなして、サンマリアのカフェで夕食を摂っていた一行はギルドランクの話になった。
そこでソランジュの年齢と冒険者ランクを聞いたアレットとエルザはかなり驚いていた様子だったが、ギルドへの登録しかしていないレウスにとってはイマイチピンと来ない。
「それってそんなに凄い事なのか?」
「凄いなんてものじゃないわよ。もしかしたらこの国で噂になっている若手の冒険者よりも強いかも……」
「それは買い被り過ぎだ。その若手の冒険者って多分エジットさんの事だと思うが、あの人は別格だ。武術も魔術も超一流だからな」
そのエジットとか言う冒険者の話はさておき、アレットとエルザは自分達の身分を明かさない為に「隣国の騎士学院に通っている知り合いから聞いた話」として、レウスに冒険者ランクの話とソランジュの凄さについて説明し始めた。
まず、アレットとエルザがCランクの冒険者として登録されているのは、マウデル騎士学院のシステムが関係している。
学院長のエドガーが冒険者だった過去もあり、騎士学院では将来的に騎士団に入る事が出来なかった生徒達の救済措置の一環として、ギルドのランク連動するシステムがあるのだ。
騎士学院入学時点でEランクの冒険者として登録される騎士見習い達は、二年に上がると自動的にDランクに昇格する。
そして三年に上がるとCランクにステップアップし、卒業と同時にBランクの冒険者の資格が与えられる。
ただし、学業が優秀な生徒には学年ごとに与えられる冒険者ランク以上のランクが与えられる。
その一人がアレットであり、彼女は魔術の成績が良かった事でエルザと同じくCランクの冒険者として認められているらしい。
一方のエルザは学院トップの実力なのに何故かCランク。
この差は一体何なんだと疑問を覚えるレウスだったが、当の本人から話を聞く限りではマウデル騎士学院の中で在学中に上げられるランクはCランクまでと決められているらしい。
本来ならとっくにBランクになっていてもおかしくない実力を持っているエルザだが、そこはエドガーが叔父だと言う事もあって我慢しているのだとか。
「じゃあ、どうしてその編入して来た人はEランクのままなんだ?」
「それはその人が学院に編入して来たからだ。編入者は学年に関わらずランクはEランク。そしてキチンと進級出来るかどうかでランクは変わる。来年そのが三年に上がる事が出来れば、その時点でCランクになるんだ。だが進級出来なければその人はEランクのままだ。例えそれが、Aランク以上の冒険者ランクを持っている位の人間や獣人だったとしてもな」
「そうなのか。でもそれだとあの赤毛の連中はどうなるんだ? あいつ等も冒険者としてやってるんじゃないのか?」
「さあな。あの連中に関しては分からないから何とも言えん」
そう言いつつチキンステーキを頬張るエルザの横から、ソランジュが補足情報をくれた。
「ちなみにAランクになると無条件で各国の騎士団に入団出来るぞ。騎士団に入る為には筆記試験や実技試験があるんだが、Dランクでは馬術が免除、Cランクではそれに加えて体力テストが免除、Bランクでは筆記試験も免除。Aランクでは実技試験が全て免除になるから、形ばかりの面接で余程変な事を仕出かさない限りは必ず入学出来るって、ソルイール帝国騎士団の知り合いから聞いた事があるんだ」
「そーなんだ。じゃあ冒険者としてランクを上げる方が楽な場合もあるって事か」
「時と場合によるがな。お主達が言っていた騎士学院の場合だったら私は間違い無く騎士学院を卒業してランクを上げるだろう」
つまりどういう手段でランクアップをするのかは個人の自由である。
ソランジュは軍属には興味が無いらしく、騎士団に所属していた両親の影響で五歳の時から武器を振るっていたのだが、堅苦しい生活は嫌だと反発して十四歳の時に家出。
その後はギルドの依頼をこなして冒険者としてのランクを上げつつ、この町に流れ着いたらしい。
ギルドへの登録は十三歳から可能なので、二年間依頼をこなして過ごして来たのならBランクなのも納得出来る。
「元々私はソルイールの生まれでは無いのだが、家出をしてこの国に流れ着いて過ごした時間も長い……。この国でも色々な場所に出掛けて魔物退治に材料採集をして来たからもう一つの地元みたいなもんだ」
「……そもそも、貴様の本来の地元は何処なんだ?」
食べ終わったエルザがフォークを置いてそう問うと、ソランジュのやや切れ長の目が若干細まった。
「私の地元は東の隣国イーディクト。そこならもっと色々と案内が出来るかも知れない」




