799.古代兵器vs神
その一方では、ここに来る前に一度練ってみた砲台破壊計画に関してそれぞれの騎士団長から情報を貰っているパーティーメンバー達の姿があった。
ラニサヴとクリスピンであれば、今までアンフェレイアとトリスティが手に入れた砲台の位置情報を元にして、何か別のルートを探し出してくれるのではないかと考えたのだ。
「こんな所にあったのか……だとすれば、我がルリスウェン公国ではこっち側から回り込んで行った方が良い。ここは砂漠なんだが流砂があるんだ」
「ここにですか?」
「そうだ。私の元にも以前から騎士団の部隊の中でこの流砂の餌食になる者が現われてな……」
国の西と東にある砂漠の、西の砂漠に建造されているとの情報を得たアンフェレイアとトリスティ。
西にある砂漠の中と言えば、あの分身の術を使って戦う相手を惑わせていたカシュラーゼのドラゴンが居た、カナカナの神殿がある場所だった。
その砂漠は以前知った通り、なかなか人が寄り付かない場所でもあるので騎士団の巡回の目は届き難い。それを利用して砂漠からかなり外れた所に砲台を建造していたらしいのだ。
その建造の過程でカナカナの神殿を発見して、あのドラゴンを向かわせたと考えると更にしっくり来る話にもなる。
「わざわざ流砂がある場所に砲台を造るだけの技術も驚くのだが、一番はその立地条件だろう。流砂に呑み込まれたらそれで絶命してしまう可能性が限り無く高いから、迂闊に近付いて破壊されない様にしたのだと思う」
「砂埃も凄かったりしますか?」
「ああ。以前向かったカナカナの神殿とは違い、ここは海から離れている場所だからな。見晴らしは良いけどその大量の流砂のせいで近づく旅人も商人も居ない。人目につかない様に砲台を建造するにはうってつけの立地だろう」
砲台の建造に必要な資材は、ワイバーンを使えば幾らでも海を超えて更に東から持って来られる。
この辺りも考えた上での立地条件だったのだろう、と推測するクリスピンの話に従って進軍ルートの見直しを考えていた。
そしてその間にも行なわれていたレウスのトレーニング開始から二時間が経過し、大体の感触を掴んだ所でいよいよエンヴィルークとの手合わせが始まる。
『適応能力はそれなりに高い様だな。やっぱり五百年前に勇者として活動しただけの事はありそうだ』
「それはどうも。で、いよいよあんたとやるのか?」
『そうだ。テストとしてはまず俺様が繰り出す数々の攻撃を全てブロックする事。必要なら反撃をしても良いぜ。それから火炎放射の攻撃もするし、空中戦のテストもやるぞ』
「分かった。ぶっ壊さない程度に頼むぞ」
『そっちもコントロールをミスして壊さない様にしてくれ。そっちの学者達が将来の研究材料として使いたがっているみたいだしな』
エンヴィルークが指示した方向には、不安と期待が入り混じっている表情でゼフィードを見ているルリスウェンとエレデラムの学者達が居る。
勿論、壊さない様にしたいのはレウスだって同じであるが手合わせをする上で多少の傷がついたりするのは仕方が無いと思ってくれ、と心の中で呟いた。
『それじゃあ始めようか! 俺様もワクワクして来たぜ!!』
「お……おう……」
本当に壊さない様にしたいレウスのそのリアクションを切っ掛けに、まずはレウスに向かってエンヴィルークが突進。
それをレバー操作で避けるレウスだが、画面で見ていると身体まで一緒に動いてしまう。
どうも画面越しに見ると言う感覚に慣れないのだが、これもゼフィードを動かす上では慣れなければならない。
その避けられたゼフィードに向かって素早くターンしたエンヴィルークは、次にゼフィードの両足を目掛けて突進する。
『ガアアアッ!!』
「そらっ!!」
それに対して、レウスは右の前蹴りでエンヴィルークの顔面を蹴った。
鋼鉄の足の裏が顔面にめり込み、想像していた以上の衝撃に悶えるエンヴィルーク。
『あっ……づづづ!! すっげえなこれ、かなりいてえ!!』
(あんまり痛そうに見えないけど……)
アレットがその様子を見ながら突っ込みを入れる目の前で、今度は前足による連続引っ掻き攻撃を繰り出すエンヴィルークに対して、レバー操作で足を上げてガキン、ガキンとブロックするレウス。タイミングはバッチリだ。
「よーし、大体分かって来たぞ!!」
未知の兵器にも少しずつ慣れて来た所で、次にエンヴィルークの尻尾を振り回す攻撃をジャンプして回避。確かに背中に背負っている丸いカバンの様な部分から出ている噴射口から、魔力エネルギーを放出して浮遊力にしているらしい。
ここまでの対処テクニックを見て十分だと判断したエンヴィルークは、その翼で大空に舞い上がって今度は空中戦へ。
今しがた使った噴射でレウスの操るゼフィードも空中戦へ移行し、まずは火炎放射のブレスを受ける。
「ぶほっ……!?」
『ガアアアアアアアアアッ!!』
火炎放射で目くらましをしてからの突進攻撃。
だが、レウスは炎の中に動けくエンヴィルークの影を画面越しに見つけたと同時にゼフィードの右腕を動かし、その突進して来る巨体のドラゴンを空中のパンチで横殴りに叩いた。
『グガッ!?』
「おりゃああっ!!」
『ギャアウッ!!』
更に噴射を強めて体当たりを食らわせ、そのままエンヴィルークを地面へと一気に叩き付ければ、このゼフィードの威力を神に証明するには十分だった。