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5.報告

 住んでいるこの小さな田舎町を離れ、レウスは今この学生達と一緒にマウデル騎士学院に向かっている。

 それもこれも、レウスの目の前に現れたあの「ヌシ」として有名なギローヴァスをレウスが一撃で粉砕してしまった事が切っ掛けの一つだ。

 だが、それ以上に厄介なのはこの赤いコートの女……エルザの事だ。

 アレットから聞いた話によると、このエルザはマウデル騎士学院の学院長の娘で、しかも現役の学生の中で学院トップの成績を誇っているらしい。

 そんな彼女を倒したと言う事と、ギローヴァス粉砕の活躍でそのままマウデル騎士学院への同行が決まってしまったのだ。


 だがその前に、五百年以上前から転生して来たレウスをここまで育ててくれた自分の両親に挨拶しに行くのが先だった。

 マウデル騎士学院の一行には町の中の酒場で少し待っていて貰い、レウスは一旦町の中心部に程近い自宅へと向かう。

 とは言ってもすぐに帰って来る事になるので、一時の別れと言うだけの話だが急に居なくなるのはやはりまずいだろうとの考えからであった。


「あら、お帰り。結構遅かったわね」

「ただいま。……父さんはまだ帰って来てないの?」

「お父さんならまだよ。今日は仕事が立て込んでいるから遅くなりそうだって言ってたわ。どうかしたの?」

「マジかよ……こんな大事な時に限って居ないなんてタイミング悪すぎだな」

「……?」


 だったらまずは目の前に居る自分の母親だけにでも話しておかなければならないだろう。

 レウスは意を決して、自分が騎士学院にこれから向かうと言う話を始めた。


「母さん、俺……これからマウデル騎士学院に行く事になった」

「えっ……いきなりどうしたのよ?」


 料理をしていた手を止め、ビックリした表情で母親はレウスの顔を見る。

 それもそうだろう。今までこの田舎町から出ようとも思っていなかった自分の息子が、遠く離れたマウデル騎士学院に行くなんて突然言い出したのだから。


「と言うか、その言い方だともう決定事項なの?」

「ああ。色々あってね……」

「いや、その色々って言うのを話してくれないとお母さんは納得出来ないわよ」


 確かにその通りなので、レウスは今までの出来事を真剣な目つきで話し始める。

 何時も通り森の中で採集活動をしていたら、エルザやアレットが率いているマウデル騎士学院のメンバーと出会った事から始まった事。

 その後のエルザとのバトルを経てギローヴァスはエルザ達が倒した事にして話を進め、騎士学院に着いて来て欲しいとの話を受けたと言う事を、目の前で真剣な表情のまま聞いている自分の母親のファラリア・アーヴィンに向けて。

 その話を黙って聞いていたファラリアは、レウスの話が終わったとみるや真っ先にこんな質問を投げ掛ける。


「……でも、いきなりそう言われてもねえ……レウスはその騎士学院に入学しようと思っているの?」

「えっ……いやいや、俺は入学する気なんて無い。むしろ断りたいんだけど、どうしても着いて来て欲しいって言うから行くだけだよ」

「そうなの?」

「ああ。そもそも俺は騎士になんて興味は無いし、槍や体術の稽古を父さんに付けて貰っているのだって、今日みたいに魔物や人間に襲われた時から身を守る為だけに使うものだからさ」

「そうよねえ……私は別に行くのは構わないんだけど、でもやっぱり貴方の口から一応お父さんにも話しておいた方が良いわよ。お父さんは今はあんなだけど、若い頃にその騎士学院で腕を磨いて、世界各国を巡って名を馳せた冒険者だったからね」

「ああ、そう言えば酒を呑みながら良く武勇伝聞かされたよな」


 転生したレウスを今まで育てていたゴーシュ・アーヴィンは、今でこそ商家を引っ張っている大黒柱だが、まだ若い時には冒険者として名を馳せた人物である。

 レウスも転生前は冒険者だったので時を超えた後輩と言う事になるが、いかんせん五百年以上前とはエンヴィルーク・アンフェレイアの世界地図も変わってしまっているので、初めて聞く地名や王族の移り変わり等がそのゴーシュの話で分かったのだ。

 そのゴーシュが一体どう言うかは分からないが、自分の武勇伝を嬉しそうに息子に話す位だから、自分が行く事を快く承諾してくれるかも知れない。


 が、どうやらその事をゴーシュに話すのはここでは無くて別の場所になりそうだ。


「あ、そう言えば今日は丁度お父さんがその騎士学院に備品を届けに行くって言ってたわね」

「あれ、そうだったっけ?」

「そうよ。貴方がまだ寝てる内に出てったわよ。ここからだと王都まで大体半日程だから結構距離があるわよね」

「そうだな。だから往復で四日程になるのか。帰りは父さんと一緒に帰って来られたら帰って来るよ」

「ええ、それが良いわね。王都まで行くなら王都までの乗り合い馬車が町外れから出ているけど、騎士学院の生徒さん達も乗せて行くって訳にはいかないの?」

「うーん……」


 本当ならそれが一番確実で安全なのだが、それを了承してくれるかどうかはまた別問題だ。

 レウスは愛用の槍と王都までのお金と貴重品を用意して、騎士学院のメンバーが集まっている酒場に向かい、訳を話してから馬車の件を話してみる事にした。

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― 新着の感想 ―
ほんとにそう。連れて行こうて発想もおかしいし、付いていく決断も意味不明。 街の危機に対して活躍したんだから町長がお礼をとかで町長の所にお呼ばれなら分かるけど学校は別都市にあるしで全然関係ない機関だもの…
[気になる点] >「えっ……いやいや、俺は入学する気なんて無い。むしろ断りたいんだけど、どうしても着いて来て欲しいって言うから行くだけだよ」 う~ん・・・入学する気ならともかく、 その気もないのに着…
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