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795.原始的な方法

 それは、一行の元にやって来た村長のボルドによって伝えられる。


「話の途中で悪いんだが、私からちょっと大事な話がある」

「あっ村長、何ですか?」

「その……そちらのシルヴェン王国のトリスティ陛下の迎えの話なんだが、騎士団の人手がどうしても足りないって話になって、代わりに急遽食堂のコック長とその部下の女の人が来られるらしいんだ」

「ええっ、そうなんですか!?」

「ああ。だからそれまでは君達がここに一緒に居るしか無さそうなんだ。勿論、放浪していた陛下がこちらにいらっしゃると言う事なので大急ぎで来られるって話だったから、もうちょっと待っててくれよ」

(別に重大な話でも無い気がするけど……)


 心の中でそう突っ込みを入れるアニータに背を向け、ボルドは家から出て再び復興作業の続きと尋問の続きをするべく去って行った。

 そして残された一行によってまた押し問答が続くのかと思いきや、その様子を見ていたエンヴィルークが思わぬ事を言い出したのだ。


『じゃあさー、模擬戦をやってそれだけの実力があるって分かったら一緒に連れて行けば良いんじゃねえの?』

「お、おい何を言い出すんだ!?」

『だってよー、国王様は譲る気が無いし、かと言ってこっちも譲る気が無いだろ。だったら原始的な方法で決着をつけようぜ。それで勝った方の言う事を聞く。これでどうだ?』

「うーん……」


 今までそんな決着方法が無かった訳では無いのだが、こんなに身分の高い相手に対してやるべき事じゃ無いだろうと考えるレウス。

 しかし、当の本人は割と乗り気らしい。


「私はそう言うのは嫌いでは無いがな。シルヴェン王国は小国だが、それでも武力を始めとして力が無いとは言わせない。勿論、私だって世界中を駆け回ってこうして集めた情報を持って帰る途中だったからな」

「でも行き倒れになっちゃってた訳ですよね?」

「おいちょっと待てサイカ、それは失礼だぞ」


 その発言に対してはエルザが嗜めるが、トリスティ本人は事実だと思っているので特に否定はしない。

 それ所か、戦う為の理由として使う始末である。


「だからこそだ。行き倒れになってしまう位ではまだまだだと言う事だし、私はまだ国に帰らずに砲台を壊すべきだと思ってな」

「ちょっと言っている意味が分からないです」

「それならそれでも良い。とにかく私はついて行くと決めたのだ。決闘でも何でもやってくれて構わないが、私は強いぞ」


 その一言に反応したのが、パーティーの中でレウスの次に強いと自負しているティーナだった。


「へぇー、言うじゃないですか。でしたら私と勝負するのはいかがでしょう?」

「ね……姉様?」

「ちょっとちょっと、それじゃさっき反対していたのが嘘みたいじゃん」


 唖然とするドリスと、言動に矛盾があるんじゃないかと指摘するサイカ。

 しかし、それでもティーナは珍しく引き下がろうとしない。

 こんなに積極的なティーナを見るのは初めてかも知れないと思いつつ、彼女とトリスティの成り行きを見守るレウス達。


「そうか、貴女が私の相手になってくれるのか?」

「ええ。言っても分からない様な方には、やはり実力行使で分かって頂くしか無いでしょう?」

「良いだろう。病み上がりだが、あなた達の治療が良かったおかげで十分に戦える。迎えが来る前に始めよう。そして私に勝負を挑んだ事を後悔する羽目になる」

「随分な自信ですこと……」

「貴女では私には勝てない。その理由と、本当の戦いと言うものを教えてやる!」


 本人も言っている様に病み上がりの身でありながら、かなりの自信を見せるこのトリスティ。

 レウスから言わせて貰えば、初対面の上に実力を一度も見た事が無い相手と戦う上でこの自信の表われっぷりは、かなり尊敬に値するものである。


「何だか物凄い自信満々だったけど、ティーナは自信あるのか?」

「無いんだったら私もこうして自分からは勝負を挑んだりはしませんわ」

「そりゃまあそうだけど、でもあの男は相当自信ありそうだったぞ。しかもシルヴェン王国の国王陛下ともなれば、かなりのテクニックを有していそうだけどな」


 実際に戦った事が無いので何とも言えないのだが、これで自分で言っている通り強かったら納得出来る。

 逆に弱かったとしたら、レウスの記憶の中で後世に語り継がれる笑い話のランキングで上位に入る事は間違い無いと思える展開だ。

 実際にシルヴェン王国に行った事があると言うアニータでさえも、トリスティの強さについては聞いた事が無いと話す。


「国王が民衆の目の前で戦うなんて事はありえない。それに戦争でだって、自分が前線にでも立たない限りでは一緒に出撃した騎士団員や魔術師達が目撃する事もありえないと思うわ。それにパフォーマンスで人前に出て戦うにしても、その時は国王が勝つ様に相手もわざと手を抜く筈だしね」

「実力がまるで未知数だからな。しかし逆に考えれば、知らない相手と戦うのはティーナも怖いだろう」


 イーディクトの皇帝シャロットの様に、実績で皇帝になったとか言うならまだその実力を推測する事は出来るのだが……。

 こうして、油断ならない相手とのバトルが家の外で幕を開けた。

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