791.放浪癖のある国王
そして雨が上がった翌朝。
リーフォセリア王国に戻って来た筈が、一旦引き返してシルヴェン王国へと向かう事になったレウスはエレデラム公国に居る他のメンバー達に連絡を入れ、そのシルヴェン王国の王都シロッコで待ち合わせをする事にしたのだった。
「あっ、来た来た!!」
「全く……夜中に突然姿を消したと思ったらリーフォセリアに戻ってドゥドゥカス陛下を助けに行っていただと? 何がどうなっているのかここでもう一度説明して貰わないとな」
翌朝、起きてすぐにレウスとエンヴィルークの姿が無い事に気が付いたパーティーメンバー達は、その彼から連絡を貰って事態の把握に努めた。
しかし、レウスが言うにはシルヴェン王国の国王がルルトゼルの村で行き倒れになっていたと言う話だったので、何を言っているのかがさっぱり分からなかったのである。
仕方が無いので指示された通りにルルトゼルの村へと向かった一行は、やって来たレウスとエンヴィルークから再度の説明を受ける。
「……って訳で、俺はアンフェレイアから頼まれたんだ」
「頼まれ事を良くされるみたいだが、そこまで貴様は他の事に手を回している場合か? 今はカシュラーゼとの決戦に向けた準備を進めなければならないだろう?」
「ああ、それは分かってるさ。だからその為に俺は動いているんだ」
考えてみれば、シルヴェン王国の国王には自分達の誰も出会った事が無い。
それにせっかくシルヴェン王国で見つけたあの砲台に関しても、国から研究材料とする為に破壊しないで欲しいと言われている。
だが、それがあのアンフェレイアから連絡を受けた国王の指示だったかどうかも定かでは無いので、真相はその国王とやらに聞いてみた方が良いだろう。
そしてルルトゼルの村に入って獣人達に事情を話し、彼が居ると言う南区画の場所まで案内して貰う間に、コルネールとアーシアからそのシルヴェン王国の国王についての説明が入る。
それはどうして彼がここに居たのか、と言う疑問を解消してくれそうな他己紹介であった。
「俺達も実際に出会った事は無いんだが、シルヴェン王国に滞在していた時に聞いた事があるんだ。その国王様は放浪癖があるんだとよ」
「放浪癖?」
「そうなんだよ。一応、これから何処に行くのかって書き置きは残して行くのが不幸中の幸いらしいし、謁見とか執務とか大事な用がある場合にはそれなりにちゃんと仕事はしているらしいんだがな」
「えーっ……じゃあ何、もしかしてその国王様って部下もつけずに一人で何処かへ行っちゃうの?」
ドリスの驚き様にコルネールも苦笑いしながら頷く。
「ああ。俺達もそれを聞いてビックリしたさ。国王ともあろうお方が、まさか部下もつけずに一人で外出だぜ? しかも毎回、自分から普通にヘラヘラと戻って来るらしい」
「そうね。しかもその国王陛下は国内だけじゃなくて国外にも行っちゃうらしいのよ。まぁ、それなりに変装しているらしいし国内でもなかなかお目に掛かれない位に忙しいらしいから、正体がバレる事は二十回に一回位の割合らしいけど」
「そんなに放浪している事の方が驚きだがな。もしかして、お主達の言っているその国王って忙しいから逃げ出してリフレッシュする為にそうやって抜け出しているとか?」
「さぁな、そこまでは分からねえよ。でも今回ばっかりは俺がもしその国王の部下の立場だったら許せねえな。確か王都がカシュラーゼの砲撃で壊滅しちまったんだろ?」
「ええ、そうですわ」
それに関してはコルネールのみならず、アーシアだって今の返答をしたティーナだって他のメンバーだって同じ考えだ。
この緊急事態に一体何処をほっつき歩いていたのか。
しかもその結末が行き倒れになった挙句に、本来ならば人間が立ち入る事の出来ないルルトゼルの村に緊急保護されて意識が戻っていない状態だと言う。
「もしこの話をあの騎士団のレメディオスとかロルフとか、それからクラリッサが聞いたりしたら怒るでしょうね」
「うん。間違い無く怒られるし、普通に考えて城に軟禁させられて王都から出られない様に見張りまでつけられて……ってなるのが目に見えちゃうもんね」
サイカとアレットの意見が一致するが、エルザとレウスは別の人物を思い出していた。
「今の話を聞いていて、俺はサィードを思い出したんだが」
「私もだよレウス。まぁ、彼とその国王とは事情が違うからな」
サィードの場合は祖国が壊滅してしまって、それが切っ掛けで国外へと逃げ出さなくてはならなくなったパターン。
対してその放浪癖がある国王の場合は、自分から国外へと放浪しておいて行き倒れになってしまった自業自得のタイプ。
そう考えている二人だったが、メンバーの中で一番冷静なアニータがここで口を開いた。
「でも、その国王は放浪していたとは言え行き倒れになるまで一体何をやっていたのかしらね? だって普通は自分からヘラヘラと戻って来るって言っていたけど、今回は行き倒れになっていた。しかもルルトゼルの村のすぐそばで。これは何かあったとみても不思議では無い気がするんだけど」
「うーん……それもそうか……」
全ては本人のみが知る事。
レウス達はそれを胸に留め置きながら、アンフェレイアと待ち合わせ場所に設定している南の村長の家へと向かった。