790.行き倒れ
「はっ?」
『だからぁ、その人が行き倒れになってこの村の南の出入り口で発見されたのよ!!』
またややこしい話が出て来てしまった。
アンフェレイアから大砲の話をして貰ったのは良いのだが、それと同時にまさかの人物がまさかの場所で行き倒れになっていたらしく、緊急措置と言う事でルルトゼルの村で保護した人間の若い男が居るらしい。
その男はアンフェレイアもレメクの姿で見た事がある人物なのだが、何でこの人物がこの場所で倒れているのかがまず疑問だったのだ。
「俺だったらとにかくその男の意識が戻って、それからさっさとその国に連れて帰るよ。だってそうしないと戦争が起こりそうだからさ」
『そうよねえ。でも、私が行く訳にもいかないしこの村の人達はその国の人達と面識無いだろうし、ましてやこんな身分の人に対して何かをするって言うのは……ねえ?』
アンフェレイアの言いたい事は分かる。
自分がもしアンフェレイアの立場だったとしたら同じ様に考えるだろうし、まさか「シルヴェン王国の国王陛下」がそんな場所に居るとは夢にも思っていなかったからだ。
『とりあえず、この前この村で貴方達の話を聞いた限りではシルヴェン王国にも行った事があるらしいから、私の情報に従って全ての大砲を破壊しに行くついでに、この人をシルヴェン王国まで送り届けてくれないかしら?』
「お、俺達が!? エンヴィルークも一緒に!?」
『そうよ。だって一緒に居るんでしょ? そしてこの会話を聞いているんでしょ? だったら話が早いじゃないのよ』
そう言われてレウスはエンヴィルークの方を見るが、当の本人は口パクで『そいつの説得は諦めろ』と言ったのである。
「分かったよ……だったら先にそっち行くから。……それでその国王様は何て言っているんだ?」
『いえ、まだ何も……』
「えっ?」
『行き倒れになっていて回復魔術を掛けたんだけど、意識が戻っていないのよ。だからついでに貴方達の方で意識を取り戻す手伝いもして貰えないかなーって』
「おいおいおーい……じゃあ明日の朝で良いか?」
『ええ。でもなるべく早く来てよね』
思った以上に事態は深刻らしい。
南の出入り口と言う事は、どうやらアイクアル王国との境目で発見された様なのでシルヴェン王国に戻る途中だったのか、それとも王国から出て来てそのまますぐに行き倒れになっていたのか?
そして、自分の王国があの砲撃によってぶっ壊されたと言うのに行き倒れで発見されるなんて、彼は一体何をしているというのか?
ハッキリ言って謎が深まるばかりである。
とにかく現地に行って話を聞かないとどうしようも無いので、レウスは今の会話を聞いていた通話を終わらせてから三名に了承を得る。
「……ってな訳なんだけど、ドゥドゥカス陛下が見たって言うそのドラゴンも心配なんだよな」
「確かにそれはある。だけど今更それを心配しても仕方が無いと思うから、僕達はとりあえず雨が止んだらカルヴィスに帰るよ」
「そうですね、それが良いと思います。あー……それとほら、お前は黙って出て来ちまったんだろ? だったらちゃんと仲間の女達には連絡しておけよ。それから……さっきこのエンヴィルークから聞いたんだが、そのコルネールってのとアーシアってのが怪しいのも気をつけろよ」
「分かってるさ。それじゃあさっきの会話通り、明日の朝に出発する」
大砲を破壊する前に、自分の胃が破壊されてしまいそうな事態に陥っているレウス。
少なくとも、その国王とやらが自分達が村に到着する前に意識を取り戻してくれる事を願ってやまないのだが、雨が止まないのはもっと困る。
「エンヴィルークから見て、この雨って明日の朝には止みそうだと思うか?」
『分かんねえよ。神の俺でも自然現象ってのは時にありえない動きをするから予想がつかないんだよな。ほら……物語とか作っていると、自分が動かそうと思った登場人物がおかしな動きをするなんて事があったりしないか? あれと一緒だぜ』
「そ、そうなの……?」
あいにく、そうした芸術方面には疎いレウスはそう言われても全然分からない。
しかしそこに反応したのが、本を良く読むと言うドゥドゥカスだった。
「あー、それは確かにあるよね」
「えっ……陛下はご理解されているのですか?」
「うん、分かるよ。僕もアークトゥルスと同じで自分でそうやって物語とかを作ったりはしないんだけど、臣下の何人かがそう言う趣味を持っているのが居てね。そんな話を聞いた事があるんだ」
創った張本人でさえも、時に訳の分からない動き方をするのが創作品と言うものらしい。
それを伝えられたレウスは「そんなもんなのか」と納得したのだが、その思い掛けない動きにこれからどう対応するのかも必要となって来るだろう。
事実、今がその「思い掛けない動き」の真っ最中なのだから。
「シルヴェン王国に連絡しようにも、連絡先が分からないしな……」
「えっ、俺達みたいに交換してなかったのか!?」
「ああ……その場限りの出会いだと思ってたからな。まぁ……とにかくその国王さんに会って意識を取り戻して貰えば連絡してくれるだろうよ」




