76.だったら勝負だよ!!
「よう、お主達がここで食事しているって情報があったから来たぞ」
「いやちょっと待ってよ、何で貴女がここに居るのよ?」
「そうだぞ。貴様は屋敷の中で使用人達と一緒に残る予定だったんじゃないのか!?」
美術商人の屋敷関係で色々と情報提供をして貰った、あのお騒がせ女のソランジュが何故かこのサンマリアにやって来ていた。
彼女とはあそこで別れた筈だったのに、何故自分達の情報を集めてまで追い掛けて来たのだろうか?
その答えは、彼女自身が非常に簡潔に述べる。
「私も一緒にランダリルに連れて行ってくれ。行くアテがもう無いんだ」
「はい?」
「家を飛び出して来てこの町に流れ着き、こうして今の状況になってしまった。だから行くアテがもう無いし、これから先の事を考えると私を連れて行った方が良いと思うぞ?」
かなり自信満々にそう言うソランジュだが、三人にとって……特にレウスはファーストコンタクトがあんなものだったので、正直に言って一緒に行きたくない。
「いや……あのな、それはまずいだろ。俺とお前の出会いが最悪だったから良い思いが無いし、何より俺達に着いて来てどうするつもりなんだ?」
「どうするつもり? 私を連れて行けば色々と役に立つと思うぞ? これでも私は子供の時から長年武術と魔術の鍛錬に勤しんで来たんだ。それからお主達は違う国からやって来たのか?」
「まあ、そうだけど……」
「ならばソルイールは国単位で地元だから、私の方が地理にも詳しいと自負している。それでも認めて貰えないって言うのであれば、実際に私と手合わせをしてみてその強さを証明して見せても良いぞ」
そう言いながら、ソランジュは自分の獲物であるロングソードに手を添えた。
だが、今はまだ食事中なのでその食事が終わるまで待って貰う。
「話だけなら聞いてやる。まずは先に飯を食わせろ」
「……ああ、良いだろう」
◇
食事も終わり、カフェから出た一行は町外れの広場に集合した。
「で、腕試しをしたいって言うの?」
「そうだ。もし私がお主達に認められる程の腕であれば、一緒に連れて行って貰いたい」
「何を勝手な事を……」
「それに、私との出会いが無ければお主達がその赤毛の二人組の情報を手に入れる事も無かったと思うがな?」
「うっ……」
そう言われてみればそうかも知れない。
それにこの状況なら、多分断ってもしつこく食い下がって来るだろうと判断したレウスは溜め息を吐いた。
「分かった。なら手合わせしてやる」
「そう来なくてはな。それで、お主達の中で誰が相手なんだ?」
「……じゃあ、ここは俺がやるよ。ただしお互いに魔術は無しとしよう。純粋に武術の腕前だけを見て判断する。それでどうだ?」
「分かった。お主がどれ程の魔術を使えるかは知らないが、そう言うなら私も魔術は封印する。ただし手は抜くなよ。私は手加減が苦手だからな」
「ああ、良いぜ」
アレットは接近戦に不向きだし、エルザは油断から負けてしまう可能性があると判断したレウスは、自分でソランジュと戦う事にする。
自分の獲物である、やや短めのロングソードを構えて距離を取るソランジュに対して自分も槍を構えるレウスだが、当然ここで負ける訳には行かない。
一方のソランジュも、槍と比べればリーチに劣るが取り回しの良さではこちらが上だと信じてレウスを撃破するべく意気込む。
「では……参るぞっ!」
ロングソードを構えて向かって来るソランジュだが、流石に自分から手合わせを申し込んで来るだけあって並みの腕では無いらしい。
この広場の地面は石造りでしっかりしており、場所も広いので槍を存分に振り回せる。
なのでレウスは縦横無尽に槍を振り回し、突きや薙ぎ払いの攻撃を繰り出しつつたまに蹴り技でも攻撃を繰り出してソランジュを翻弄する。
(くっ……っ!!)
キン、カキィンと金属が打ち合わさる音が辺りに響き渡る。
槍が振り下ろされて来るので、ソランジュは地面をゴロッと転がって槍を回避するものの、またすぐにレウスの槍が襲い掛かって来る。
その槍もギリギリで回避し、低い姿勢を利用しての足払いを繰り出そうとするがレウスは咄嗟のジャンプで回避。
もう1度槍が振り下ろされて来るので、それを両手を使ってロングソードで受け止めるソランジュ。
ロングソードが槍の勢いでたわみ、彼女の顔面の近くまで槍の刃が近付く。
「……っ!!」
ソランジュも咄嗟の判断で、自分とレウスのパワーが拮抗しているのとそのたわみを利用して、ロングソードと槍が交わっている所を中心に飛び上がってグルッと空中で横に一回転。
レウスはソランジュの全体重を、瞬間的にではあるがその両腕で支える形になった。
ロングソードと槍がまた離れ、レウスは槍を再び突き出す。
その突き攻撃を身体を捻って回避し、ソランジュは素早くレウスの首目掛けてロングソードを振り下ろす。
「ぐぅ……っ!!」
咄嗟に間一髪で自分の首と肩でソランジュのロングソードを挟み込むレウスだが、ソランジュはそのレウスの姿を見て、思いっ切りロングソードを自分の方へと斜め下に引っ張る……仕草をした。
「このまま私が腕を引けば、お主の首を掻き切る事になるぞ?」
「くそ……この勝負、俺の負けだよ……」




