785.Rescue the Survivor!!
いきなり何を言い出すんだこの人間は、と言いたいエンヴィルーク。
そもそもトカゲと言うものは舌で匂いを感じる……と言うよりもフェロモンを感じてそれで獲物を判別している生物なので、犬や狼とはまた違うんだと言いたい。
しかし、レウスにそれを説明しても彼はエンヴィルークがやってくれると信じてくれているらしい。
「俺はあんたを信じてるよ。だって、あんたは神なんだからさ」
『おいおい、無茶苦茶言ってんじゃねえよ。俺様だって出来る事と出来ねえ事があるのさ』
「だったら、あんたはこの世界の監視者として一国の国王を見逃すつもりなのか?」
『え……う、わ、わーったよ!!』
「な、なぁレウス。さっきから何の話を……」
「ちょっと黙っててくれおっさん。虎のあんたよりも確実に居場所を特定してくれる筈さ」
自分に対して、この初対面の茶髪の男の素性と今までの話を聞こうとしたギルベルトを黙らせたレウスは、この神の片割れを信じてドゥドゥカスの居場所を探って貰う。
そのブレスレットの匂いを嗅いでみて、ある程度の匂いを覚えた彼はクンクンと鼻を利かせてみる。
『んー、こりゃあちょっと鼻じゃ無理だな。嗅覚よりも舌をベローンってこうやって出してみて……よっしゃ、分かったぜ!!』
「え……もう分かったのか!?」
「おおー、やっぱり神様だぜ。それでドゥドゥカス陛下はどっちに居るんだ!?」
『この匂いの残り方からすると、やっぱりここから北の方だな。それも海の近くから匂いがして来てんぞ!!』
「よっしゃ、だったらすぐに向かおう!!」
と言う訳で、エンヴィルークの匂い感知に全てを託したレウスは窓から外に出て、この豪雨の中で彼に本来のドラゴンの姿に戻って貰う。
勿論それをするつもりだった彼は、ズボンのポケットから取り出した瓶の中の液体を飲んで、その大きなドラゴンの姿に戻ってレウスを背中に乗せた。
その姿を見たリーフォセリア王国騎士団長のギルベルトは、このドラゴンが一体何なのかをその時点で察した。
「おいレウス、ひょっとしてこのドラゴンって……」
「話はドゥドゥカス陛下を助けてからだ。その時には全部説明するから、あんたはこの王国騎士団の団長としてすぐにドゥドゥカス陛下をお迎え出来る様に準備しておいてくれっ!!」
それだけを言い残し、レウスを乗せたエンヴィルークはこの相変わらず降り続く豪雨の中に向かって飛び立った。
「良し、行くぞ!!」
『任せておけっ!!』
降りしきる豪雨の中なので視界は最悪。匂いを辿れと言われてもこの状況では人間のレウスには到底不可能だ。
しかし、神であるエンヴィルークの匂い感知度合いはレウスのそれを遥かに凌駕する。
それを信じて海の方へと向かうレウスとエンヴィルークだが、この豪雨がその行く手を阻む原因になっている。
しかも前にエンヴィルークが言っていた通り、豪雨に加えて多数の落雷が飛行高度を上げられない原因になっているのだ。
落雷は時と場所を選ばずにこの二名に襲い掛かる。
「ぶほっ!?」
『すげえ近くに落ちやがった!!』
エンヴィルークの左斜め前の木に直撃したその落雷は、一瞬で木を消し炭へと変化させてしまう。
強運の国と呼ばれているエレデラム公国を離れたせいだからなのか、その後もやけに近くに落雷が連続して落ちて来ている。
これは流石に、自分達を狙って来ている誰かの陰謀によるものかも知れないと考えるレウスだが、エンヴィルークはこの状況を普通の自然現象だと考えている。
「くっそ、おい……この異常に雷が降って来る状況が自然現象なのかよ!?」
『そうだよ。自然の力ってのは怖えんだぞ!!』
「そ、そりゃー分かるけどよぉ……うはっ、また落ちて来た!!」
今度は自分達の目の前に連続で落ちて来る雷。
その雷の餌食にならない様に低空飛行しか出来ないので、匂いを辿った先にある林を抜ける時にそれが顕著になる。
二度、それから三度と雷が木々に落ちて火災を巻き起こすものの、いずれこの雨で鎮火してしまうのでそっちは放っておいても問題無さそうだ。
しかし、エンヴィルークは右へ左へとその大きな身体を動かして進むので、やたらと複雑なルートをドゥドゥカスが通ったらしいとレウスは考える。
「どうしてこんなルートをあの国王は通ったんだろうな!?」
『俺様に聞かれたって分かんねえよ。だが、こうやってこっちに来た以上は何らかの目的があったってこったろ!!』
「陛下には近づいているのか!?」
『ああ、匂いが段々強くなって来てんだ。もうすぐでこの林も抜けるし……って、おおっとこっちだ!!』
林を抜けて左へと急旋回し、すぐに右へ直角に曲がる。それからまたすぐに直角に左へ曲がり、再び直角に右へと曲がる。
すると潮の匂いがレウスにも分かる程に強くなって来た。どうやらかなり近いらしい。
『ここを左に曲がって……良し、後はもう真っ直ぐだ!!』
そのエンヴィルークの言葉通り、真っ直ぐ進んだ先の暗い海に浮かぶ紫色の人影が、雷の光に照らされてハッキリと見えた。
「ドゥドゥカス陛下ぁーっ!!」
それは間違い無く、リーフォセリア王国の現国王であるドゥドゥカス・マッツ・フォーセルだった。