783.行き先変更
だが、そんな時に魔晶石が熱くなっているのが分かったので、レウスはエンヴィルークにスピードを落として貰って応答する。
「はい、誰ですか?」
『私ですレウスさん、アンリです!』
「あっ、アンリかよ!? さっき俺が通話しようと思ったのに出なかっただろうよ? そもそもドゥドゥカス陛下が何処に居るのかすら分からないから、俺はギルベルト団長と北の砂漠で待ち合わせする事にしたんだぞ!!」
先程通話が出来なかった恨みも込めて、魔晶石の向こうに居るアンリに向かって大声でそう叫ぶレウス。
しかし、その怒りも全て吹っ飛んでしまう話がアンリから伝えられる。
『そ……それなんですけど、どうやらドゥドゥカス陛下は北の海に向かったらしいんです!!』
「う、海ぃ!? こんな大荒れの天気の日にか!?」
『いえ、あの……昨日までは晴れていたんです。その時に出て行ってしまって、そのまま行方が分からなくなったんです。それで海の近くの漁村から目撃情報が得られまして!!』
こんな時に一体何をやっているのか?
正直、書き置きを残して来た以外に誰にも言わずにこうやって出て来た自分が余り言える立場でも無いが、あの陛下の考えている事が理解出来ないレウス。
(一体どうして、あの若い国王陛下は海の方になんか行ったんだよ。気は確かか?)
今の状況を考えると、きっと海は大荒れに決まっている。
風こそ余り感じないものの、もし落雷が海に直撃したら感電死は免れないだろうし、それ以前にドゥドゥカス陛下が海に落っこちたのかも分かっていない。
出来れば何処かの陸地で大人しく雨宿りをしていてくれればそれで良いのだが、一日以上行方が分かっていないとなるとやっぱり何処かで遭難している可能性が高い。
「分かったよ。それでその漁村ってのは何処にあるんだよ?」
『ええっと……ああ、その漁村なら地図で見た平原の右側の、北の突き当たりです』
しかし、この旅に出るまでリーフォセリアの田舎町から出た事が無かったレウスは、その平原の場所を聞いてもまるでピンと来ない。
そこでエンヴィルークに場所を聞いてみると、やはりこの世界の神だからかキチンと位置を知っているらしい。
「うー……エンヴィルークは分かるか?」
『ああ、大体の位置なら今の説明で分かった』
『エンヴィルーク……?』
「あーいや、気にしないでくれ。それよりも、そっちもその漁村に向かうんだろ!?」
『いえ、こちらは既にその漁村周辺の海を捜索する為に騎士団を派遣しています。しかしこの悪天候で捜索に向かう部隊の移動が難航しているんです!!』
「くそっ……分かったよ! だったら俺達もその漁村に向かって、色々と話を聞いてみっから!!」
とにかく、そのリーフォセリアの北にあると言う漁村へと向かってドゥドゥカスの行方をもっと問い詰めるべきだろうと判断したレウスは、ギルベルトにも連絡を入れて予定が変更になったのを伝えておく。
「……って事だから、俺達はその北の漁村に向かっている!!」
『分かったぜ。だったら俺もすぐそっちに向かうからそこで合流しよう!!』
ギルベルトとの通話を終了したレウスは、それと同時にエンヴィルークに再度スピードを上げる様に指示を出す。
そしてこの一人と一匹と言うシチュエーションを利用し、彼が何故あの中庭に居たのかも問い詰めてみる。
「ところでよぉ、あんたはどうしてこの時間に中庭に居たんだよ?」
『俺様か? 俺様はこの王国の強運ってのがどんなものか試そうとしてたんだよ』
「試す?」
『ああ。中庭に突然ドラゴンが現われたら、それで強運が起こるのかって』
「は、はぁ……?」
良く分かんない事を言い出したエンヴィルークに対して首を傾げるレウスだが、エンヴィルーク自身は本気らしい。
『魔物が突然城の中に現れたら、何か超常現象でも起こって俺様が撃退されるのかと思った。でも良く良く考えてみりゃあそれはあり得ないわな!! だって俺さまはこの世界の神様なんだからよぉ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
「錯乱状態かあんたは」
何か変な物でも食べたんじゃないだろうな、と思うレウス。
そんな彼がふと下を見てみると、そこには既に陸地では無くて大海原が広がっている。
このまままっすぐ南へと進めば、自分の故郷であるリーフォセリア王国へと辿り着ける筈なのだと思っていたが、それを邪魔する存在が徐々に近づいて来た。
「あ……」
『どうした?』
「雨だ」
『ああそうだよ。だってほら、もうすぐであの雷雨に突撃するからな!』
エンヴィルークの視線の先には、雷を至る所に降らせている厚くて黒い雨雲が。
神の自分はダメージを受けないかも知れないが、背中に乗っているのは五百年前から転生して来た人間のレウスなので、その落雷によるダメージを防ぐ為に思いっ切り高度を下げる。
「お……おいおい、何をっ!?」
『このまま高い所を飛び続けたら、落雷を避け切れずに突っ込んじまう可能性があるからな。その可能性を少しでも低くする為に、なるべく地面に近い高度で飛ぶんだよ!!』
「無茶するねぇ……」