780.監視体制
とりあえず、その事を三人で他のメンバーに伝えておく。
もしかしたらコルネールが、いや……コルネールとアーシアがカシュラーゼに情報を流しているのではないかと言う疑惑が出て来ているので、疑わしい以上は報告が必要だと思ったからだ。
特にレウスには念入りに話をしておく。
かつて仲間に裏切られて殺された彼からしてみれば、また仲間に裏切られて自分が殺される羽目になるかも知れないからだ。
「コルネールが?」
「ええ。私はハッキリと聞きましたわ」
「……そうなると、前に俺達に対してアーシアと一緒に言っていた一連の流れが気になるな」
あの倉庫での取り引き。
それからエレデラムの大公ラグリスが言っていた、コルネールとアーシアに対しての頼み事。
『……え? 俺達に裏切った振りをしてくれって?』
『そうなんだ。そなた達が元々カシュラーゼと雇用契約を結んでいたと言うのは、この国に来てからの調べで分かっている。それで今、ルリスウェン公国の大公にそなた達が向かうと話をしていたら、ちょっとこんな頼み事をされてね。だから私とルリスウェン公国の大公は考えた。そなた達が前にカシュラーゼと繋がっていたのを利用して、この機会にそのシンベリ盗賊団を一網打尽にしてしまおうとな』
『それで俺達に、レウス達を裏切った振りをしてくれって話を持ち掛けたんですか?』
『その通りだよ。しかも、そのシンベリ盗賊団らしき武装集団にこのオーレミー城に乗り込まれてしまっている訳だし、これはそなた達がルリスウェン公国に向かうに当たって解決出来るチャンスだと思ったんだ』
『うーん、そう言われましても私達にはシンベリ盗賊団との繋がりが無いんですよね……』
『前にカシュラーゼと繋がっていた君達なら、まだちょっとした繋がりはあるんじゃないのか?』
『え、ええ……まあそりゃああるっちゃありますけど、俺達は傭兵ですから組織の末端中の末端ですよ』
『それでも別に構わない。重要なのは組織の中のポジションじゃなくて、組織に属しているか否かがなんだよ』
カシュラーゼと繋がっていたからこそ、こうして頼みを聞いて貰えるのではないかと思っていたラグリス。
そしてその話は見事に聞いて貰える事になったのだが、当然レウス達には話をしていなかった。
『それならそれで俺達にも話しておいてくれれば良かったのに』
『バッカだなぁ。お前達に作戦を話しちまったら潜入の意味が無くなっちまうだろうがよ』
『そうよ。味方を完璧に騙してこそ潜入作戦なんだから』
『俺とアーシアがあの取り引き現場の倉庫から離れた後、先に潜入していたルリスウェン公国騎士団員達が居るシンベリ盗賊団のグループと合流して戻ったって事さ』
『でもまさか、ここまで上手く行くとは私達も思っていなかったわよ。突発的な作戦だったとは言え、ちゃんと成功出来て良かったわ』
ここまでがその一連の流れだったのだが、そのティーナの目撃情報と聞いた内容が全て本当だとしたら、本当はまだカシュラーゼと繋がりを持っているのではないか?
裏切った振り「をしていた振り」と言う二重の演技をしていたのではないか?
そうなるとあの二人はかなりの演技派だなと思いつつ、これからあの二人をそれとなく監視して何処かで妙なアクションを起こしたら一気に問い詰める作戦を立てるレウス。
「裏切ったにしろ裏切っていないにしろ、コルネールが妙な事をしているのは確かだな。俺もなるべくコルネール……とあいつの相棒のアーシアを見張る様にするけど、なるべくあの二人が目の届く範囲に居る様にしてくれないか」
「ええ、それは勿論ですわ」
「ゼフィードの話も全て向こうに流されていたとしたら、それで向こうが対策を練る確率も高いしね」
「今まで通りに振る舞いながら、あの二人を監視するのはちょっと難しいけど……それでもやるしか無いわね」
しかし、その作戦は翌朝になって出鼻を挫かれる事になってしまった。
オーレミー城に寝泊まりをする流れになったレウス達だったが、その夜は自室で一人で寝られるレウス。
以前の様に男女同室と言う事も無く、今日はゆっくりと寝られると思っていたのだが、その時ズボンのポケットの中に携帯している通話用の魔晶石が熱を帯び始めたのだ。
(誰だ? こんな時間に……)
他のメンバーは疑わしいコルネールとアーシアを含めて既に寝てしまっている筈なのだが、もしかしたら何か急な用事があって自分に通話を求めて来ているのかも知れない。
なのでその通話に応答したレウスだったのだが、相手は全く予想もしない人物だったのだ。
「……はい?」
『あっ、レウスさんですか!?』
「えっ……誰だ?」
聞き覚えの無い声。
その知らない声が何故自分の魔晶石に通話する事が出来たのだろうと考えているレウスだったが、それはどうやら勘違いだったらしい。
『リーフォセリアのアンリです!! お忘れですか!?』
「アンリ……あー、アンリ!? あのキザなアンリか!?」
声を聞くのが久し振り過ぎてすっかり忘れていた、リーフォセリアの騎士団員アンリ。
しかし、そのアンリから更に衝撃的な話が出て来たのだ。
『そうです! ですがそれよりも……ドゥドゥカス陛下が貴方へのメッセージを残して行方不明になったんです! 至急来ていただけませんか!?』
「え?」
このエレデラム公国の強運は、思わぬ形で敵の方に味方をしてしまったらしい。
十三章 完