777.修復完了
その青白く輝き始めたゼフィードの姿は、時間帯も相まって何処か神秘的に見える。
しかしまだ魔力エネルギーが十分では無いらしいので、このまま一晩放っておく事にしてそのまま就寝を迎える一行。
この人型の金属の塊が一体どんな性能を持っているのか、どんな力を発揮してくれるのかレウス達にとっても、それから神であるエンヴィルークにとってもかなり興味深かった。
だが、この話を聞いていたのはここに居るメンバーだけでは無かったのである。
「ええっ、あの金属パーツの塊が動き始めたあ!?」
「どうもそうらしいよ。現地でその光景を一緒に見ていた彼からの話だったから、これは間違い無いだろうね」
「そ、それじゃ向こうにとってはかなりの戦力になるんじゃないですか、ディルク様!!」
命からがらルルトゼルの村から逃げ出して、このカシュラーゼに帰還したディルクの弟子のラスラットは、ドミンゴとライマンド伝いにしか話を聞いていないのもあってかなり動揺している。
しかしそんな自分の弟子を見て、ディルクは平然とした表情で赤ワインを呑んでいた。
「落ち着きなよ。確かに向こうにとっては戦力になるかも知れないが、まだあれをあの連中が動かせると決まった訳じゃない」
「しかし……」
「それに戦いに使えるって分かったら、そのエンヴィルークってドラゴンの言う通りに戦う為の道具としてその金属の塊……ええと、あの何だっけ……ゼフュードだかゼファードだかそんな名前のそれを使うでしょ。その為にスパイとして潜入して貰っているこっちのメンバーだって居るんだし」
それと、とディルクは話を続ける。
「仮に動かせたとしても、その金属の塊は魔力を動力源として動かしているんでしょ? だったらその魔力を使えない様にさせれば、エネルギー切れを起こす筈だからね」
「確かにそれはそうだとは思いますが、何かアイディアでもあるんですか?」
「勿論さ。科学技術だろうが工学技術だろうが、この国の魔術技術の前には敵わないって言うのを証明してやれるだけの設備は用意してあるんだから。まぁ……それは普段のこっちにとっても影響があるんだけどね」
「……?」
いまいち、この師匠が言っている事が掴み切れないラスラット。
そんな彼を目の前にして、ディルクはさっさとエヴィル・ワン復活の実験を進めるべく動き出した。
◇
その翌朝。
湖の野営地で目を覚ましたレウス達は朝食を摂った後、早速昨日の続きとばかりにゼフィードの起動が出来ないかを試みる。
そんな一行の元に、話を聞きつけたルリスウェン公国の大公ジークが率いる工学研究員達が護衛のクリスピン達とともにやって来た。
「よう……待たせたな」
「これはこれはジーク大公、ようこそ我がエレデラム公国へ」
「そんなかしこまった挨拶なんかいらねえよ。それよりもこれか? 例のゼフィードって金属の人型の塊は」
ワイバーンから降り立ったジークは挨拶を交わし、ゼフィードを見上げて目を輝かせた。
その主君を見つめて、同じ騎士団長であるクリスピンとラニサヴはこれからそれぞれの研究員達によるこの新兵器の起動を心配していた。
「どうなるんだろうな、これは……」
「それは私にも分からないな。だが研究員を連れてはるばるここまで私達はやって来たんだから、それに見合うだけの性能を見せてくれる事を願うばかりだ」
早速研究員達が起動させるべく色々と調べ始めてみるが、その起動方法については実はもうすぐに出来る所まで迫っていた。
「あのレバーを直せば出来るって?」
「私達が回収したあの二つをくっつけて、動く様にすれば何とかなりそうですって?」
ソランジュとサイカが発見した、あの赤い金属の棒と奇妙な形の金属パーツ。
あれを欠けている部分にくっつけて動かせる様にしてみれば、それでゼフィードが起動出来るかも知れないとルリスウェンの工学研究員が提案してくれた。
なのでレウスがそのパーツ二つを受け取り、指の先に炎を出して金属部分を熱して少し溶かし、細かく指先を動かしてパーツをくっつけてみる。
「んん……こんなもんかな?」
二つともガッチリとくっついた事を指で触って確認して、そのレバーが前後に動く事を確認してみる。
前日の夜からずっとこの魔力エネルギーを充填する為の土台の上に乗っかっているので、エネルギーとしてはもう十分に蓄えられている筈だ。
そう思いながらまずは赤いレバーをゆっくりと奥に押し込んでみる……と、それだけでパアッとコントロールルームの色々な装置が動き出した。
「……これは!?」
初めて目にする光景に何が何だか分からないながらも、もう一つくっつけてみた奇妙な形の金属パーツをゆっくりと前方に押し込んでみる。
すると今度はガコンと音がした直後、このゼフィード自体が大きく動き出したのだ!!
「うお、お、おおっ!?」
慌てて金属パーツを手前に引いてみるレウスだが、今度は後ろに向かって動き出す。
また慌てて、この奇妙な形のレバーを中央部分に戻してみると動きが止まってくれた。
「と、止まっ……た?」
「どうやら動かす事には成功したみたいだな」
その様子を外から見上げ、クリスピンとラニサヴは新たな時代の幕開けを感じていた。