776.起動、ゼフィード
しかも、そのレウスの意見に賛同したのが彼であった。
『仲間云々の事に関しては俺様は何も言わないが、とりあえず戦力として使えるかも知れないって言う意見には賛成だな』
「え、ええ~?」
「本当にそう思っているのか?」
困惑するアレットと、厳しい声色でそう尋ねるエルザに対して賛成派のエンヴィルークは頷いて続ける。
『ああ。これをこうして組み立てて何とか立たせたのは、恐らくこの国の大公であるあんたの命令で、そこの騎士団長にやらせたんだろ?』
「確かにそうだ」
『だったらよぉ、動かす動かさないは別にしてもこれを研究したいって言う気持ちはある訳だ。このエレデラム公国は科学に秀でた豊かな自然のある国だから、研究するにはうってつけだろ?』
「そ、そうか?」
『そりゃそーだろ。だって科学力に秀でているからこれを研究するんだし、平原とか山とか色々あるから町や村に迷惑を掛けずに動かす事だって出来る』
しかもこれから壊してしまうんだったら、わざわざこれからルリスウェンの奴等が来てくれるのにそれも無駄足になってしまうだろうと付け加える。
その後に、エンヴィルークは別の視点から物事を見ていた事を説明し始めた。
『それによぉ、こいつを壊さずに研究するってーのは別に悪い事ばっかじゃねえだろうよ』
「え?」
『考えてもみろよ。このゼフィードって金属の塊には、今までの科学技術や光学技術では前例の無い技術が使われているかも知れないだろ? 何も戦いの事ばかり考えなくたって、その使われている技術をこれからの生活にフィードバックする事だって出来るかも知れねえじゃねえか』
「それは……まぁ、確かにそうだな」
「何だかエンヴィルークらしくない発言だな……」
ハッとした表情になるラニサヴと、この世界で攻撃と破壊の神と呼ばれているエンヴィルークにしてはかなり実用的な意見を述べるものだと感心するレウス。
それに対して、エンヴィルークは仁王立ち状態になっているゼフィードを見ながら呟いた。
『俺様だって神の片割れだよ。エンヴィルーク・アンフェレイアって世界の名前の片方を背負っている自覚はあるさ。それよりも今日はあれだろ、この野営地の準備を進めてここに寝泊まりするんだって話も聞いたから、俺様もここに寝るよ。どうせ明日にならないとルリスウェンの奴等も来ねえんだろうし』
「そうだな。それじゃ今日はこれ位にしておくか」
実際に起動出来るかどうかは時間が足りないので、エンヴィルークの指示に従って今日は寝る事にする。
彼自身はゼフィードを置いていた土台がどうなっているのかを見に行く為に、湖の上にあるその土台の上にゆっくりと乗ってみる。
【まさか乗った瞬間、沈んじまうとかそんな事はねえよなぁ……?】
しかし、そのまさかだった。
土台の上にそっと片足を乗せただけでも、ゴボゴボと音を立てながらその土台が湖の中に沈み始めてしまったのだ。
慌ててその土台から右前足をどけるエンヴィルークだが、鋭い爪が土台の一部に引っ掛かってそのまま持ち上がった!!
【ありゃ? これってもしかして結構軽いんじゃねえの?】
水面から持って来るのに苦労しそうだと思い、その場所が場所だけに移動するのは後回しにしていたと言う土台。
しかしいざ引っ張ってみれば、エンヴィルークが軽々と持ち上げられる程の重さしか無かったのだ。
慌ててこの場から去るのを止め、今度は両足の爪を上手く引っ掛けて持ち上げるエンヴィルーク。引っ掛ける場所は一目見て分かる通りの、ゼフィードが仁王立ちしていたと思われる土台の出っ張りであった。
落とさない様に慎重に陸地まで運び、レウス達が準備を進めている野営地の近くにその土台をそーっと置いた。
「お、おい……あんた何してるんだ?」
『持って来る予定は無かったんだけど、気が付いたら持って来ちまってた。でもこれで持って来る手間が省けただろ?』
「まぁ、そりゃそうだけど……その上にこのゼフィードを乗せられるのか?」
『やるだけやってみるか』
夕暮れまでにはまだ時間がある。
しかしこんな事ならやっぱり仲間のドラゴンを呼んで来るべきだったと思っているエンヴィルークは、仕方が無いのでレウス達と騎士団員達がここまで乗って来ているワイバーンに鳴き声を聞かせて呼び寄せる。
人間の姿になれるとは言え、やはり元々はドラゴンであるが故に同じドラゴンとドラゴンの亜種とも言えるワイバーンを、こうして声一つで動かす事も出来るのだ。
自分達よりも遥かに上の存在であるエンヴィルークに呼ばれた五匹のワイバーン達は、本来であれば何処か別の場所に移動させる為に縛られているロープをそれぞれの爪に引っ掛けて、さっきの土台と同じく壊れない様にそーっと上空へと持ち上げた。
そして直立姿勢になったゼフィードを、今度は土台の上にゆっくりと下ろして元々あった出っ張りにそれぞれの足の裏が上手くはまる様に着地させる。
するとその瞬間、ブゥン……と音が立ったかと思うとゼフィードの身体が青白く輝き始めたのだ!!
「うお……!?」
「あ、あれ……これってもしかしてあの日記に書いてあった通り、地面から魔力を吸い取って動力源にしているって事?」
「どうやらそうらしいな」
レウスもアレットもエルザも驚きを隠せない。
こうして、湖の底に沈められていたゼフィードがようやくまた起動し始めたのだから。