770.ここに来てあの報告?
『それじゃあ、俺様がこのセットをルルトゼルまで持って行けば良いんだな?』
「ああ、悪いけど頼むよ。俺達はちょっとエレデラムに用事が出来たからな」
『ったく、何で俺様がお前達のパシリなんか……』
神である自分をパシリに使うなんて、本当に良い度胸をしているなとブツブツ呟くエンヴィルーク。
本当はレウス達も一緒に向かう予定だったのだが、思わぬ所から思わぬ連絡が入ったのでそちらを優先しなければならなくなったのだ。
「でもまさか、このタイミングでエレデラムから連絡が来るかしらね?」
「仕方無いだろう。あの湖の中から発見された謎の金属パーツに関して新たな話があるって言われたんだから」
それも大公のラグリスから直々にその連絡がレウスに入ったので、このままカシュラーゼに向かって突っ込みたい気持ちで一杯だったレウス達にとっては、思わぬ形で足止めを食らってしまった。
一体あの金属パーツに何があるのかと考えるレウス達だが、肝心な事は現地で報告するからとラグリスに押し切られてしまった。
「だから俺達は一旦エレデラムに向かって、それからルルトゼルにあるライオネルの石碑に向かうよ」
『わーったよ。村長にも連絡入れたってんなら向こうにも話は通じているみたいだし、とりあえずここで一旦お別れだな』
「ああ。それから大公と騎士団長にも世話になりました」
「別に気にするな。俺達としてもあの神殿の墓石の下から凄い物を見つけてくれて、お前達には感謝しているからな」
「そうだな。何かあったら私達にすぐに連絡を入れてくれ」
そう言うエンヴィルーク、それからルリスウェンのジークとクリスピンにも別れを告げて、ワイバーンに乗り込んだレウス達は一旦エレデラム公国のラグリスとラニサヴの元へと向かった。
◇
「見つかったのって、結局組み立ててみたらこうなったんですって?」
「そうだ。そなた達が見つけてくれたパーツを組み合わせてみたら最終的にこうなったんだ」
見上げる視線の先。
レウス達があの湖の中から発見したパーツの数々を組み立ててみて、そして湖の周りに散乱していたゴミを全て入れられそうな場所に入れてみた。
すると地上から四階部分まである建物と、ほぼ同じ高さにまでなった金属の塊が完成したのである。
「明らかにこれは人型って感じだけど、五百年前にこんな物があったの?」
「いや……俺もこんな物は見た事も聞いた事も無かったな。だがこうやって目の前に立っている姿を見るとかなりの威圧感を覚えるんだ」
それは恐らく、この人型の金属の塊が大きいからと言う理由だけでは無い様に思えるレウス。
しかし組み立ててみたは良いものの、まるで動く気配が無い。そもそもこの金属の塊は動く様に造られていた物では無いのかも知れない。
前回このパーツの数々を見た時に、ふと思い出した旧ウェイスの町で遭遇したあの四足歩行の金属の塊。
もしあれと同じジャンルの兵器と言う可能性もあるのだが、かと言ってどうやって動かすのか見当がつかないレウス達。
だがその中で、強運の持ち主である大公のラグリスがその強運を使ってこの金属の塊の秘密を発見した。
「しかしこれは、単純に銅像の様な物として造られた物じゃ無いと思うんだけどなぁ……」
ラグリスがそう言いながら、仁王立ちになっている左脚のかかと部分に左手をついて寄り掛かってみた次の瞬間、カチッとかかとの裏が思いっ切り凹んだのだ。
「うわっと!?」
「えっ?」
異常事態に慌ててその場から飛び退くラグリスだが、今度は背中の部分がプシューッと音を立てて外側に開いたかと思うと、そこからガシャンと音がして背中の内側に繋がる金属製のハシゴが降りて来たのだ。
それを見たレウスとラグリスは、お互いに顔を見合わせて同じ事を呟いた。
「乗れって事かな?」
「乗れるんじゃないですか?」
「えーっと、じゃあ君が乗ってくれよアークトゥルス」
「な、何で俺なんですか!?」
「君が五百年前の勇者だからだよ。ほらほら、さぁ早く!!」
「ちょ、ちょっと……そんな無茶苦茶な!!」
しかしこのままだと話が進みそうに無いので、レウスは仕方無くこの金属の塊の秘密を探るべくハシゴをカンカンと上って、背中の奥へと辿り着いた。
(こりゃあ……凄いな。俺にはさっぱり何が何だか分からないが、色々なボタンやレバーがある。迂闊に触るとおかしな事になりそうだ)
背中の奥にはもう一つ階段があり、それをもう一度カンカンと上がってみると一人しか座れないスペースに辿り着いた。
椅子の目の前には多数のレバーやボタン、それから裏の世界のカシュラーゼで教えて貰った画面があり、恐らくここでこれを動かす為の人員が必要らしいと言うのは分かった。
しかし、そのレバーの中の一つに違和感を覚えるレウス。
「あれっ、何だこりゃ?」
思わずそうやって口に出てしまうのも無理は無かった。
何故ならそのレバーは、見て分かる程に途中でポッキリと折れていたからだった。
そしてその隣にある二本のレバーが刺さっていたであろう場所は、根本から折れていたのである。