769.データは取れたよ
「どうなさるのですか、ディルク様!!」
「そうですよディルク様! そんなのんきに人肉のハンバーグ食ってる場合じゃないですよ!!」
人肉でこねられているハンバーグを頬張るディルクに向かって、ドミンゴとライマンドが今までの状況を説明しながら彼を急かしている。
何故ならば、自分達があのパーティーメンバーの中に送り込んでいるスパイがこの危機的状況を報告して来たからである。
「カシュラーゼに居る生物兵器のドラゴンを残して、残りの九匹のドラゴンは全てあの連中に倒されてしまったんですよ!?」
「そうですよ! それにエヴィル・ワンの身体の欠片はあのルルトゼルの村の中に集められているって言うんですよ!! あのカシュラーゼを凌ぐとも言われている武装集団に!!」
「エレデラムの湖の中からはおかしな金属のパーツが幾つも見つかったって報告もありましたし、それを貴方はのんきにこうしている場合ですか!」
魔術師を纏める立場の男、それから騎士団で上層部に位置している男からそれぞれ矢継ぎ早に詰め寄られているディルクだが、そんな彼はハンバーグを飲み込んだ後にテーブルの上のグラスを手に取り、それに注いである血の様に真っ赤な赤ワインを優雅な動作で飲み干した。
そして置いてあったナプキンで口を拭うと、そのレウス達の動向をギャーギャーとうるさく報告している二人に向かって椅子を回転させて対面する。
「そんなに騒がないでよ。せっかくの夕食タイムが台無しじゃないか」
「騒ぎたくもなりますよこんな状況じゃあ!!」
「そうっすよ! 逆にあんたはのんき過ぎるんですよ。もっと危機感を持ってですねえ……!!」
「誰がのんきに構えているって言ってるんだ?」
「え?」
聞き覚えのある第三者の声が響く。
ドミンゴとライマンドが同時に声のする後ろを振り返ってみると、そこにはディルクの愛弟子ラスラットが右手に紙の束を持って立っていた。
「あんた達がああだこうだ言っている間に、ディルク様はちゃんとやる事はやってんだぜ?」
「そ、そうなのか?」
「一体何をしてるってんだよ? まさかまた実験だけをしているって話じゃあ……」
「まぁ、実験っちゃ実験だけど……今までのエヴィル・ワン復活に向けた数々の実験とは訳が違うんだよな。……と言う訳でディルク様、その実験データを持って来ました」
「ふむ。じゃあ見せてよ」
いきなりこのディルクの実験室に現われて、しかも訳の分からない事を言い出したラスラットがその右手に持っている紙の束をディルクに向かって差し出す。
それを受け取ったディルクは、紙をじっくりと見てはペラリとめくり、更にもう一枚ペラリとめくってみてから満足そうに頷いた。
「へー、なかなか良いじゃないかこれ」
「そうですよね? 現地で実験させてみた結果を見た時、俺もびっくりしましたから。ケルベロス三体を相手にして、それからドラゴン五匹を相手にさせてから、「こいつに勝ったらお前達は自由だ」って餌で釣った奴隷達を三百人送り込んでもこの結果ですもん」
「その連中には一斉に襲い掛からせたの?」
「勿論です。ケルベロスもドラゴンも奴隷達も同時に襲って貰いましたけど、結果は同じでしたよ!!」
ディルク以上に満足そうな笑みを浮かべて結果を報告するラスラット。
しかし、それもこれも全てはそのディルクの提案から始まった事なのだとラスラットが言うので、ドミンゴとライマンドは一体何の話なのかを把握するべく説明を求める。
「あ、あのー……報告中に申し訳ありませんが、一体何のお話をされているのでしょうか?」
「話からするとまた新型の兵器の話みたいですけど、何がどうなっているのか俺達にも教えて欲しいんですけども……」
「あー、そうだったね。これはかなり危険な実験だったから僕とラスラットの二人で進めていた実験だったから、君達が知らないのも当然だよね。それじゃ今から説明するよ。あのアークトゥルスの生まれ変わりを倒す事が出来る秘密兵器をね!!」
自分の近くに来て貰ったドミンゴとライマンドに対して、ラスラットから渡された実験データの紙の束を使って説明を始めるディルク。
その説明を聞いて行く内に、ドミンゴとライマンドの表情がどんどん複雑になる。
「凄い……ですけど、これは危険過ぎる様な気がします」
「俺も同感ですね。もしこれが暴走したら、俺達だってただじゃあ済みませんよ」
「だからだよ。この新開発兵器にはちゃんと保護者をつけてあるから心配しないで。僕だってこれが暴走したら、この国そのものが壊滅してしまうかも知れないのは分かっているよ」
ディルクのセリフに続いて、彼の弟子であり今回のその実験を進めていた一人でもあるラスラットからも話がある。
「さっきも説明した通り、魔物や奴隷を使って既にこいつの性能は実証済みだ。そしてこれからこれをそのルルトゼルの村に送り込む。幾らルルトゼルの連中が相手だとしても、今まで集めたデータを基に作られたこれが相手になるとしたら、流石に無事じゃ済まねえだろうからな!!」
狂気的な笑みを浮かべるラスラット。
逆に言えば、この兵器が失敗したら自分達の野望は潰えてしまう危険性もあるのだと言う事も彼とディルクはきちんと分かっていた。