768.あいつの日記の行方
その先のページには、今までレウス達を散々ここまで振り回して来たガラハッドとエレインの事についても書いてあった。
エレインは元々パーティーメンバーの中でも口が軽いので、アークトゥルス殺害に関して余計な事をベラベラと喋ったりしないかどうか見張る意味も兼ねて、半ば強引に脅してガラハッドが自分の妻にしたのだと書かれていた。
エレインはアークトゥルスを殺害した後にパーティーメンバー達と一旦別れて、ライオネルと同じくこのエンヴィルーク・アンフェレイア中を旅していた。
しかしその途中でエスヴァリークの軍備拡大の話を聞いて、今度はエヴィル・ワンの代わりに彼が世界を支配する危険があると考えた。
「だからあいつはそれを止めようと向かった先で、逆にガラハッドに手籠めにされて……そして俺を殺した話をしない様に脅された、二重のステップでガラハッドの妻になったのか」
「しかし、かの勇者の軍事拡大に口を出して危うく殺されそうになった。それで身の危険を感じて逃亡し、秘密の日記をライオネルの墓に埋めたらしい」
「えっ、秘密の日記!?」
ちょっと待て、自分はそんな物の存在は今初めて知ったんだぞ。
そんなリアクションでかなりの驚きを見せるレウスに対して、ジークは手記を指差しながら頷いた。
「ああ。その手記の最後の方に書いてあるぜ。私を頼ってここまでやって来てくれたエレインに、私の墓に今までの旅や反省点等を日記にしたためて、私の墓の下に埋めようと決めたってな」
「でっ……でもあのカナカナの神殿の墓石の下からはあれ以外に何も出て来なかったですけど。もしかして今まで集めて来たあのメッセージ全てがあいつの日記だったとかって言いませんよね?」
「いや、それは俺に聞かれても困るんだが……」
しかし、それを聞いていたエンヴィルークから思わぬ話が出て来た。
『なあなあ、もしかしてそれってこのルリスウェンの話じゃねえんじゃねえの?』
「ん?」
『だからここの墓の話じゃなくて、別の場所にあるライオネルって奴の墓の下なんじゃねえのか?』
「別の場所……?」
『だって俺様、前に聞いた事があるぜ。この世界で活躍したライオネルが、ルルトゼルの村って所の英雄になって、そこで墓石を建てて貰ったって』
「あ……あーはいはい、そうか……もしかしてそれかも知れないな!!」
厳密に言えば、あれは墓石では無くて石碑なのだが。
考えてみれば、ライオネルはこのエンヴィルーク・アンフェレイアの中でもただ一人、あの人間を嫌っているルルトゼルの村へと出入りが許可されていた過去を持っている。
だがそうなると、あのカナカナの神殿にあったライオネルの墓石は一体何なのだろうか?
村長のボルド曰く、ライオネルがあのルルトゼルの村で一生を終えたとは言っていなかった気がするので、こうなったらもう一度ルルトゼルの村に向かってそれを確かめる必要がありそうだとレウスは考える。
しかしそれよりも先に、この手記を見せて貰ったのでとりあえず目的を達成したレウスは、エンヴィルークの背中に再び乗ってジークをヴァニール城まで送り届ける為にその場から飛び立った。
◇
「そう言う訳だから、もう一度ルルトゼルの村に向かう事になった」
「ああ、それは良いんだが……その後は何処に行く予定なんだ?」
「その後か……」
ペルドロッグのヴァニール城に戻って、城を守り抜いた一行と合流したレウスとジークは、これから先の行動について考えていた。
シンベリ盗賊団の連中を全て潰してリーダーのウルリーカも捕まえた。
カナカナの神殿にあったライオネルの墓石の下から発見された、エヴィル・ワンの身体の欠片をジークが持っていたライオネルの手記と一緒に、ルルトゼルの村に運ぶ事も既に村長のボルドに連絡して伝えてある。
すると残りは、身体の欠片を全て集められないカシュラーゼに対して各国で一斉攻撃を仕掛ける時が来たのだろうとレウスは判断する。
「攻撃を仕掛けるなら今がチャンスだろう。向こうは俺達の手の中にエヴィル・ワンの身体の欠片があるから、どう考えてもエヴィル・ワンの復活は不可能だ」
「そうね。確か今までの旅の中で仕入れた情報によれば、全ての身体の欠片を集めてそれを基にしてエヴィル・ワンの復活をするって言う話だったと思うから、結果的に全て集まっていないって事になるものね」
「それにこっちには神のドラゴンが二匹ともついていてくれるんだから、カシュラーゼを一気に叩き潰すんだったら確かに今がうってつけだな」
レウス、アレット、エルザの三人が揃ってそう言うものの、当のエンヴィルークは乗り気では無い様子である。
『ええー? 俺様もやるのかよ?』
「当たり前だよ。だってあんたはこの世界の監視者で、この世界が存続して行く為に世界を見守る使命をアンフェレイアとともに背負っているんだろう? それに俺達に協力するつもりが無いんだったら、カシュラーゼのレアナ女王を通じてあんなテレパシーのメッセージなんて送って来ないんじゃないのか?」
『う……まぁ、そりゃそうだけどよ』
だが、その乗り気が無いのも決して本心では無いと言うのを、今までの彼のやり取りや言動からレウスは見抜いていた。