767.まぁ、こんなもんだろ
敵の増援部隊と、ヴァニール城から自分達を追い掛けて来ていたシンベリ盗賊団の連中を全員地上へと叩き落として振り切ったレウス達は、ジークの道案内に従ってようやく森の中の広場へと辿り着いたのだった。
「良し、ここまで来れば何とか大丈夫だ。後はここから城に居るクリスピンに俺の無事を報告して、それから例のあれを渡してやる」
「あれって?」
「そりゃあお前、あれっていやあこれだろ」
そう言いながら、ジークは懐から謁見の間で最初に対面した時にレウス達に見せてくれたライオネルの手記を取り出した。
だが、それを見て最初に反応したのはレウスではなくてエンヴィルークだった。
『何だ、そのきったねえ手帳はよ?』
「これは俺の五百年前の仲間がつけていたって言う手記だよ」
『へー、それがね。まあ良いんじゃねえのか。増援の奴等もここに来るのかと思ったら、結局俺様達が撃退して来た奴で全部だったみてえだからよ』
「じゃあ早速連絡しますか」
レウスにそう促され、ジークは魔晶石を使ってヴァニール城に居る筈のクリスピンに連絡を入れておく。
「ああ……俺だが。ああ、うん。ああ……そっちは何とかなったんだな。こっちも何とか無事だ。それとあの五百年前のドラゴンの身体の欠片は?」
魔晶石の向こうから聞こえて来る会話からして、どうやら向こうでも無事にウルリーカの脱走とエヴィル・ワンの身体の欠片を奪取されてしまうのを阻止したらしい。
これで何とか無事に話が終わったらしいので、ヴァニール城に戻る前に約束通りのライオネルの手記をレウスに見せる事にしたジーク。
だが、そこに書かれていたのは衝撃的な事実だった。
「約束だから見せてやるけど……後悔するなよ?」
「えっ、それってどう言う意味ですか?」
「まあ、見れば分かるよ。一応俺は忠告したからな」
「は、はあ……」
ジークの忠告とやらに首を傾げながらも、レウスは彼から手帳を受け取って最初の一ページ目を読んでみる。
だが、そこに書かれていたのは確かに読み上げるのも辛い内容だった。
『この手記を見ている誰かに、私達のパーティーについて記しておこうと思う。私達は魔竜エヴィル・ワンの討伐部隊として結成された五人組だ。そして私達は、パーティーのリーダーであるアークトゥルスを殺した』
「お、おう……そうだったな」
あの時、背中からガラハッドに刺された感触は今でも思い出せる。
その感触を思い出して眉間にシワを寄せながらも、続きを読んで行くレウスにはかなりショッキングな内容だった。
『それについてまずこの私、ライオネルは最初こそアークトゥルスを殺した後に全員で相談した通りに口裏を合わせたものの、一緒に旅をした仲間を殺した共犯になった罪悪感に耐え切れなかった。その後、結局私はかつてのパーティーメンバー達から離れて一人でまたこのエンヴィルーク・アンフェレイア中を旅する事にしたんだ』
「罪悪感はちゃんと感じてくれたらしいな。でも俺を殺した一人だと言うのは間違い無いから同情はしたくない」
レウスにそう呟かれながら、自分の残した手記がまさかその殺した相手の生まれ変わりに読まれているなんて夢にも思っていないだろう。
彼の横でそう考えていたジークは、その手記の続きを読むのを促す。
「思い出に浸るのは後にして、最後までまずは読もう」
「そうですね。あんたの言う通り後悔するかも知れないですけど」
そもそも読んで後悔するなよとか言っていたのはオメーじゃねーかと心の中で呟きながら、レウスは手記の続きに目を通す。
『旅に出た後に色々な町や村を回り、魔物を討伐したりギルドの依頼をこなして生活していた私だったが、その時にトリストラムが新しい国の建国に携わると聞いた。それを聞いた私はワイバーンで彼女の元に向かったが、そこで彼女から心が抉られる物を見せられた』
「それが……ええと、俺達が旧いウェイスの町で見つけたあの殺害現場の映像か」
ライオネルがトリストラムから聞いた話によると、アークトゥルス殺害に関して口裏を合わせたまでは良かったが、後になって良く考えてみると「何か違うよなー」との感想が出て来た。
だが彼女は気が余り強くないので、結局パーティーメンバーの誰にも言い出せずそのままになってしまった。
「で、イーディクトを建国した後にあの旧いウェイスの町に映像の入った水晶を遺したって事か。水晶の記録に関しては都合の悪い部分はカットされた……と言うよりもそもそも記録していなかったんだな」
『と言うか、そもそもそんなにお前は嫌われていたのかよ?』
「みたいだな……」
心を抉られているのはライオネルのみならず、五百年後に転生したアークトゥルスの生まれ変わりもそうだった。
確かにこの手記の内容を読み進めて行くに連れて、ジークの言う通り読んで後悔する様な内容を色々と見る結果になっているレウス。
しかしここまで読み進めてしまったのだから、こうなったら最後まで読んでやると決意したレウスは次のページをめくった。
この先に何が書いてあっても、それを全て受け止める気持ちを持ちながら。