762.この墓石って誰のだ?
「魔力を感じただって?」
「ああ。こっちの方に食材を仕入れに来る用事があったから、エスヴァリークの東から海を渡って来たんだ。そうしたら不思議な魔力の動き方を感じたから気になって降りてみたら、この神殿の前だったんだぜ」
「えっ、そうだったの?」
「ああそうさ。そしてこの神殿の中に入ってみたらいきなりこの女と鉢合わせて、しかも襲い掛かって来たからぶっ飛ばしてやったよ」
「そ、そうなんだ……」
海を渡って来たのは恐らく、船やワイバーンを使っての話では無くて彼自身がエンヴィルークの姿になって飛んで来たのだろう、とすぐに察しがついた。
それに幾らウルリーカでも、神である彼に敵う筈が無い。
ペーテル曰く「人間にしてはまあまあやる感じ」だったらしいが、結局は良い様にもてあそばれただけで最終的にはミドルバトルアックスでシャムシールを吹っ飛ばされて、その上でミドルキックまで腹に喰らってノックアウトされてしまったのだ。
そんな屈辱的な敗北を喫したウルリーカは、食材を縛る為に持って来たロープです巻き状態にされて床に寝かされていた。
「私をどうするつもりだ!?」
「決まってんだろ。お前をこれからありとあらゆる方法で尋問して、洗いざらい全て吐いて貰うのさ。なーに心配すんな。殺しゃしねえからよぉ」
「だったら舌を噛んで……」
その言葉を言い終わる前に、レウスが彼女の口に両手を突っ込んで無理やり上下に開かせる。
「ぐひゅ!?」
「そんな事はさせてたまるかよ。お前が死んじまったら知っている情報を知る事も出来なくなってしまうからな。ここで何をしようとしていたのかをこれから「はい」か「いいえ」で答えて貰わなきゃならんのによ」
「ぐ、げげ……はがががっ!?」
レウスに力任せに口をこじ開けられるウルリーカだが、その二人のやり取りを見ていたペーテルが口を挟んで来た。
「そこから先は俺様が変わろう」
「良いのか?」
「勿論だ。俺様は攻撃と破壊の神だからな。拷問なんてどうって事無いさ。それよりもお前達に見て欲しいのはそんな盗賊団のリーダーじゃなくて、この大きな墓石の下なんだよな」
「あー……それって誰の墓石なんだ?」
あのドラゴンとの戦いで全然気に掛ける暇も無かったのだが、そう言えばこの広い部屋にも誰かの墓石があったなあと今になって思い出すレウスは、ウルリーカの口が完全に閉じない様に細心の注意を払ってペーテルにバトンタッチ。
そのバトンタッチされた側のペーテルは、懐から汗を拭く為のタオルを取り出してウルリーカの口の中に突っ込んでおく。
こうする事で舌を噛んで死なれてしまうのを防ぐと同時に、これから拷問に掛ける為の下準備が完了した。
そしてレウスからの質問に答えるペーテルだったが、彼の答えを聞いたレウス達は絶句する。
「ああ、それ? それはお前の五百年前の仲間、ライオネルの墓石だよ」
「んえ!?」
「えっ、ちょっと待って下さい。確かライオネルの墓石って別の場所にあった気が……」
何時か何処かでレウスにその事を話した様な記憶があるティーナだが、そう言われても……と彼女に対して困った様な顔つきになるペーテル。
「って言われても、実際にそこにあるのがライオネルの墓石なんだから仕方が無いだろう。それよりも気になるのは、その墓石の下から妙に強い魔力が出ているのを感じるんだよ」
「魔力ですか?」
「ああ、そう言われてみると確かに感じるわね」
「ま、待てアレット。迂闊に触るな!!」
魔術師であるアレットが大きな墓石の下を覗いてみるものの、この下から感じる魔力の正体が魔物で無いとも限らないじゃないかとストップを掛けるソランジュ。
しかし、そこは神であるペーテルが続行を促す。
「大丈夫さ。その墓石の下からは敵意を感じねえから。だから安心して墓石をどけて、下に何があるのかを確認してくれや。その間に俺様はこの女をたっぷり痛めつけてやっからさ!!」
「殺さないでよ……?」
「だから心配すんなって。ほら、さっさと作業を始める!!」
アーシアの心配そうな確認に、妙に楽しそうな声色で返答したペーテルはウルリーカへの拷問を開始した。
「このっ、私にこんな事をしてただで済むぐほぇえ!?」
「済むと思ってますー。済むと思ってますからぁー!!」
「くっそぉぉぉ、お前ふざけんがはああっ!?」
ペーテルの馬鹿にした声と、ウルリーカの悲鳴交じりの怒声が響き渡るこの室内で、レウス達によってゴゴゴ……とその墓石が退けられて行く。
墓石にはライオネルの名前の他にも、町長の名前と町長の息子の名前まで彫ってある。場所を取らなくて良いのはありがたいが、せめて町長とその息子とはライオネルを別にしてやって欲しかったと心の中で嘆くレウス。
(あいつの事は俺、別に嫌ってなかったから何だか気の毒になってきた……)
墓石になってこんな扱いを受けているライオネルに心の中でそう思いながら、やっとの思いでこの重い墓石をどけてみる。
すると、その下から出て来たのは完全に予想外の品物だった!!