755.西の神殿
ワイバーンに乗って西の神殿へと辿り着いたレウス達は、その神殿の前で衝撃的な話をジークから聞かされていた事で盛り上がっていた。
「でもまさか、この場所があのカナカナだったなんて……」
「確かカナカナって、魔物の大行進があったって場所でしょ?」
「そうさ。小さなものから大きなものまで、ありとあらゆる魔物がそのカナカナの町を襲っていた。当時、その町の近くに山の中に魔物の巣となっている大きな洞窟があってさ、そこから多くの魔物がカナカナの町を襲って人間や獣人を餌にしていたんだよ」
「それを貴方達が潰したって?」
「そうだ。俺達は旅の途中でその話を耳にして、ドラゴンの討伐前にカナカナの町を通り掛かったのもあって、洞窟の方から迫り来る魔物の大軍を目にした」
だから助けた。
かつて、この話をリーフォセリアの国王であるドゥドゥカスにした時の事を思い出しながらレウスはメンバーへの話を続けた。
『お前の言っている話って、確か……カナカナの町で起こったって言い伝えのある、魔物の大行進の話か?』
『そうだよ……まさにそれさ。全部で五百体を相手にして大立ち回り。だけどこっちは十人にも満たないチームだもん、そりゃあこっちだって全力になるさ。この際だから言い訳させて貰うけど、あの状況で一人で大体百体以上を相手にするってなると、正直な話、民間人の避難までなかなか手が回らなかったしな』
『で、さっきも言った通り俺達はその魔物達を何とか全部倒した。けどその魔物達を倒して行く中で町長とその家族を巻き込んでトラブルになった。これは後で聞いた話なんだけど、そのカナカナの町ってのも凄くやばい町だったんだよ』
『やばい町って……どんな?』
『一言で言えば、その町の中で麻薬の精製やってたんだってさ』
『えっ?』
『だから、町ぐるみで麻薬の精製をやってたの。その麻薬ビジネスで裏の世界ではかなり儲けてたらしいんだけど、その指導者である町長を俺達が魔物を討伐する時に巻き込んで殺してしまったのを恨まれてな。それが真相だよ』
『それって、本当にお前達が悪かったのか?』
『俺達が?』
『ああ。僕は今の話を聞いている限り、どう考えてもそのカナカナの町の住人達の逆恨みや言い掛かりにしか聞こえなかったがな。確かに町長が巻き込まれたのは悲しいとは思うが、そんなあくどい事をやってたんだったらいずれ騎士団か何かに摘発されてたんじゃ……』
『いいや、それは無いね』
『何で?』
『だって、当時カナカナの町があった国の騎士団の連中は、その麻薬ビジネスを見逃す代わりに大金を貰っていたんだもん』
その実態は悲惨なものだった。町ぐるみで大規模な麻薬ビジネスをやって腐敗していた。
『な……それって賄賂って奴じゃあ……』
『そうだよ? そりゃあ何時まで経っても町長は捕まらない訳だし、麻薬ビジネスだって無くならない訳だよ。口止め料として多額の金を渡したとしても、町ぐるみでやってた麻薬ビジネスを考えるとそんなのははした金に過ぎないんだし。見逃して楽に金が手に入るんだったらそっちを選ぶ奴が多かったってだけの話さ』
『残念だけどこれが現実だよ、王様。もう五年の間、あんたもこのリーフォセリアで王様をやっているんだったら、多かれ少なかれそうした薄汚い話も出て来てんじゃないのか?』
『……』
『まあ、それで魔物達とカナカナの攻防戦をやって麻薬工場だった町中はほとんど壊滅し、挙句の果てに麻薬ビジネスの指導者だった町長を巻き込みで殺してしまった俺達は、カナカナの町の住人達から恨まれる事になった。貴重な収入源を潰されたんだもん、そりゃ当たり前さ。その時はまだ何で怒っているのか分からなかったからさっさとその場から逃げちまったんだけど、後になってその事実が分かった時からだな……戦いに対して、疲れを覚え始めたのは』
こうして以前ドゥドゥカスに、そして今回はパーティーメンバー達に過去の話を語ったレウスだったが、同時に悲しい記憶も話した光景が頭の中に蘇って来た。
その詳細を話す前に口に出した……歴史書に書かれている事の一部は嘘なのだと言う、あの話を。
『その通りさ。だけど……例えばとある町を……町をだぞ。村じゃないぞ。町を襲った魔物の集団が居た。そしてそこに俺達が出くわして、あっという間に片付けた。普通だったら俺達は賞賛されると思うだろ?』
『そうだな』
『でもその時は違ったんだよ。逃げ遅れた一般人を巻き込んで魔物ごと消し去ってしまったんだ。その結果……それが町の町長とその息子だって分かった途端、町の人間は俺達を褒め称えるどころか、町長殺しの重罪人として一斉に襲い掛かって来たんだよ』
『えっ?』
『信じられないって顔してるな。俺だってその時はあんたと全く同じ気持ちだったよ王様。今まで戦っていた魔物じゃなくて、今しがた救った町の、今まで味方だった筈の人間と獣人達が武器を手にして襲い掛かって来た。俺達ドラゴン討伐チームよりも、その町長の方が大事だった町人達から、俺達は逃げるしか無かったよ。悪魔だ、人殺しだって罵られながらなあ……っ!!』