751.敵を欺くにはまず味方から
「来て早々、大変な目に遭ったもんだな」
「ああ……全くだよ。まさか全てがあの盗賊団を捕らえる為に仕組まれていた事だったなんて、思いもしなかった」
「まあまあ、結局あのシンベリ盗賊団は一人を除いて全て捕まったんだから良いじゃない」
王都ペルドロッグにある、王城ヴァニール。
路地裏を抜けた先にある倉庫から連れて来られたレウス達は、騎士団によって手当てを受けながらこの国に来てからの一連の流れの裏で起こっていた話を「風の騎士」の異名を持つ騎士団長クリスピンから聞かされていた。
その傍らには、レウス達を裏切った筈のコルネールとアーシアの姿もあった。
何がどうしてこうなったのかと言えば、話はエレデラム公国でレウス達がこのルリスウェン公国に向かう準備を進めていた時までさかのぼる。
「……え? 俺達に裏切った振りをしてくれって?」
「そうなんだ。そなた達が元々カシュラーゼと雇用契約を結んでいたと言うのは、この国に来てからの調べで分かっている。それで今、ルリスウェン公国の大公にそなた達が向かうと話をしていたら、ちょっとこんな頼み事をされてね」
エレデラム公国の大公ラグリスが、話がスムーズに進む様にとルリスウェン公国の大公に連絡を入れた所、かなりリスキーな話を持ち掛けられたのだ。
それこそが、今回のコルネールとアーシアが裏切った振りをする作戦だった。
まず、今までレウス達が歩んで来たあらかたの話を、ラグリスがルリスウェンの大公に伝える。勿論その中には盗賊団と戦った話も含まれる。
そこで、ルリスウェン公国の方からその盗賊団の内の一つであるシンベリ盗賊団が最近国内で見掛けられる様になった、との話が出て来たのだ。
「だから私とルリスウェン公国の大公は考えた。そなた達が前にカシュラーゼと繋がっていたのを利用して、この機会にそのシンベリ盗賊団を一網打尽にしてしまおうとな」
「それで俺達に、レウス達を裏切った振りをしてくれって話を持ち掛けたんですか?」
「その通りだよ。しかも、そのシンベリ盗賊団らしき武装集団にこのオーレミー城に乗り込まれてしまっている訳だし、これはそなた達がルリスウェン公国に向かうに当たって解決出来るチャンスだと思ったんだ」
「うーん、そう言われましても私達にはシンベリ盗賊団との繋がりが無いんですよね……」
シンベリ盗賊団にどの様に取り入れられれば良いのか、全く分からないコルネールとアーシア。
しかし、そこは二人の今までの経歴を利用すれば良いのだと言われた。
「前にカシュラーゼと繋がっていた君達なら、まだちょっとした繋がりはあるんじゃないのか?」
「え、ええ……まあそりゃああるっちゃありますけど、俺達は傭兵ですから組織の末端中の末端ですよ」
「それでも別に構わない。重要なのは組織の中のポジションじゃなくて、組織に属しているか否かがなんだよ」
相手を騙すにあたって一番重要なのは、その騙す相手に親近感を持たれるかどうかだとラグリスはコルネールとアーシアに説く。
そして現在はルリスウェン公国の中で活動しているシンベリ盗賊団のアジトの一つを見つけたので、先にルリスウェン公国騎士団から何人かを潜入させておき、コルネールとアーシアの話を通した上で作戦を実行する流れになったのだ。
「それならそれで俺達にも話しておいてくれれば良かったのに」
「バッカだなぁ。お前達に作戦を話しちまったら潜入の意味が無くなっちまうだろうがよ」
「そうよ。味方を完璧に騙してこそ潜入作戦なんだから」
コルネールとアーシア曰く、もし先にレウス達に作戦を話していたとしたら絶対に何処かでボロが出ていただろう、とコルネールとアーシアが振り返る。
作戦決行までの時間も全然無かった訳だし、レウス達に詳しく話をしている暇が無かったのでこうして味方を騙す事になったのだ。
「俺とアーシアがあの取り引き現場の倉庫から離れた後、先に潜入していたルリスウェン公国騎士団員達が居るシンベリ盗賊団のグループと合流して戻ったって事さ」
「でもまさか、ここまで上手く行くとは私達も思っていなかったわよ。突発的な作戦だったとは言え、ちゃんと成功出来て良かったわ」
「いや、まだ成功したとは言い切れないんじゃないのか?」
「え?」
自分達の作戦の遂行能力とその結果に満足そうな表情を見せるコルネールとアーシアだが、それに対してレウスが疑問を呈し始めた。
「だってさっき、クリスピン騎士団長が言っていたけどさ。約一名を除いて全員逮捕、殲滅が出来たって話だったじゃん。だからこそまだ終わっちゃいないと思うんだ」
「何故そう思う?」
「盗賊団の残党って言うのはかなりしぶとい。俺は五百年前にそれを経験した事があるんだ。残党を指揮して新しく盗賊団を立ち上げたり、もう一度盗賊団を作り直して復讐に向かったりって奴等も居たからな」
そしてレウスが最も問題視しているのは、その逃げてしまった一名らしい。
「まさかだよ。まさかと思うけど……それってもしかすると、シンベリ盗賊団のリーダーのウルリーカじゃないだろうな?」
「ああ、そのまさかだが……」
「だったらすぐにそいつを捕まえないと、俺がまだ終わっちゃいないと言っている理由が分かる筈だ!!」