749.裏取り引き
「見えるのか?」
「うん……ここからでもあのハンドガンだっけか、見た事も無い兵器を大金と引き換えに取り引きをしているのが分かるわ」
「そうか。じゃああのウルリーカの姿は見えるか?」
「うーんと……ちょっとエルザ、代わって」
「ああ」
シルヴェン王国で彼女の姿をレウスと一緒に見たのがエルザだったので、アレットは確信を得るべく彼女に望遠鏡を渡してその姿を確認して貰う。
「……ああ、確かにウルリーカに間違い無い」
「良し、分かった。だったら誰かがこの国の騎士団員達に話をして来てくれ。俺達はここで見張っているからさ」
「よっしゃ、じゃあ俺とアーシアが行って来るぜ」
「ああ、任せたぞ」
自ら連絡を申し出たコルネールとその相棒であるアーシアに任せて、残りのメンバーはあのウルリーカとその仲間達が何時あの倉庫から出て来ても良い様に見張りを続ける。
考えてみれば、既にブローディ盗賊団とダウランド盗賊団の二つの盗賊団を潰しているので、自分達と因縁がある盗賊団はこれで最後になる。
願わくばここで一気に潰してしまいたいレウス達だったが、そんな一行にまさかの邪魔が入る事になってしまった。
「おい、連絡して来たぜ!!」
「ああ、助かっ……え?」
「お前等の敵にちゃんと連絡して来たからよ。だからお前達はこれからあの倉庫の中に向かうんだよっ!!」
「え、あ、はぁ!?」
「おい……どう言うつもりだコルネール、アーシア!?」
レウス達一同はまさかの展開に驚きを隠せない。
しかしそれも無理は無いだろう。何故なら騎士団に連絡をしに行っていた筈のコルネールとアーシアが、厳重に武装した集団を率いて戻って来たのだから。
何が何だかさっぱり訳が分からないレウス達だが、勿論このまま「はいそうですか」と着いて行く訳には行かない。
なのでさっさとこの連中を片付けてしまおうとしたのだが、その前に敵が動く方が速かった。
「ふんっ、まさかこんな所であんた達と会うとはねえ?」
「……お主はウルリーカか。まさか私達を騙していたのか?」
「最初からみんなで手を組んでいたって事なの!?」
ソランジュとサイカが悲しみと怒りの混じった声で問い掛けるが、アーシアがそれに対して当たり前だと言わんばかりの声色で返答する。
「ええそうよ。だって私達はあなた達と同じ傭兵だもん。最初にあなた達と出会った時はブローディ盗賊団と契約していたんだけど、また出会った時はカシュラーゼ王国と契約していたから」
「な、何だと!?」
「そもそも、今もまだその契約は続いているからね。私達はあなた達を監視する為に送り込まれたスパイなのよ。こんな形でここで盗賊団を全て潰される訳には行かないからね!」
だからここでレウス以外全員死んで貰う、と考えたコルネールとアーシアの二人に連れられて、レウス達は無駄な抵抗をしない様に武器を全て取り上げられた上で倉庫の中へと連れて行かれた。
その倉庫の中では何個もの大きな木箱の中に、あのハンドガンと同じ物が沢山詰め込まれている。
しかもそれだけにとどまらず、見た事も無い筒状の武器が詰め込まれた木箱やパーツごとに分解されている状態で仕分けられた木箱等が大量にストックされていた。
恐らくこれを全て取り引きするのだろうと考えるレウスは、この取り引きごとこの連中をぶっ潰さないといけないと決意した。
「これ……まさかこれを世界中の裏の武器商人とかに売り付けるつもりじゃないでしょうね?」
「それ以外に何があるって言うんだ?」
「こ……こんなのが犯罪者達に流通したら世界中で被害者が出るじゃないのよ!?」
ヒルトン姉妹にそう返答するウルリーカだが、あのユフリーやドゥルシラが使っていたハンドガンみたいなのが世界中に行き渡ると考えただけでも恐ろしくなる。
なのでそれだけは絶対に阻止したいレウス達だが、まさかこの大事な時に限ってコルネールとアーシアが裏切るとは思ってもみなかった。
(いや……この二人は裏切ったんじゃないな。元々カシュラーぜのスパイとして俺達のパーティーに潜り込んでいたんだ)
それに気が付かなかった自分達が愚かだったのだと気付かされたレウス達だが、レウスにはまだ他にも気になる事があった。
「おい、コルネールとアーシアはまさかサィードにまで手を出した訳じゃねえだろうな?」
「サィード……ああ、それだったら心配しないで。まだ殺してないから」
「まだって事は、何時かは殺すつもりなの!?」
まさか自分達の幼馴染みにまで手を掛けようとしているのか、と驚くレウスやアレットだが、その反応もコルネールやアーシアにとっては想定内のものだったらしい。
「そうだよ。そもそも俺達はカシュラーゼ側の人間だから、計画の邪魔になる奴は王子だろうが次期国王だろうが幼馴染みだろうが、排除するに決まってんじゃねえか」
「まだこの事実をサィードが知らないだけでも幸せかもね。でもこれ以上気にしないで。あなた達を殺した後に、彼にもすぐに後を追わせてあげるから」