744.あっ、そうだったんだ……。
「そうか、彼がそんな事を……迷惑を掛けたな」
「いいえ、別に大丈夫です。でもどうしてまた、いきなり彼は俺と手合わせをしたいって話になったんでしょうね?」
遅れてやって来たヒルトン姉妹とソランジュにラニサヴを任せ、騒ぎを聞きつけた大公のラグリスに話をするレウスとサイカ。
ドリスからも話を聞き、あのルルトゼルの村からレウスと手合わせをした狼獣人のガレディが来ると言うので待つ事になったのだが、その間に騎士団長のラニサヴの過去についてラグリスから聞く事が出来た。
「あの男は……そうだな、あの若さで騎士団長の座に就任する位だし私も腕は認めている。だが……ちょっとプライドが高い一面があってね」
「プライド……」
「そう、プライドだ。彼はまだ二十歳なんだが、自分の実力でのし上がって来た努力家だ。元々は孤児の出身でね……孤児院で育った後に騎士団に入団したんだよ」
「あっ、そうだったんですね」
孤児院出身で、そこからこの若さで騎士団長にまで上り詰めるだけの実力。
それを考えると、五百年前の自分よりも確実に実力がある筈だとレウスは感心していた。
だが、レウスのそのリアクションに対してラグリスは表情を曇らせた。
「……とまぁ、ここまで聞くとなかなかの人物だと思うだろう?」
「え? ええそうですね。僅か二十歳で騎士団長の座に就くなんて、普通ではあり得ないですから」
「私も最初は彼を騎士団長にするか迷ったんだ。魔物の討伐をしたり盗賊の討伐をしたりして、騎士団長になれるだけの資質と実力は十分に実績を積み上げて証明して来たからな」
「迷ってたんですか?」
それだったら別に迷う必要なんて無いだろうに……と考えるレウスとサイカだが、どうやら彼の問題点は実力では無い様だ。
「ああ。言っただろう、彼はプライドが高いと。実力はある。実績もある。しかしそれを鼻にかけて傲慢な態度を日々見せている。この点だけはちょっとどうかなと思ったんだ」
「ああ……」
「騎士団員としては尊敬されているものの、人間としては尊敬されていない。元々ほら……自分自身が孤児であった事にコンプレックスを感じているみたいでな。それは騎士団長になった今でも変わっていないんだ」
大公のラグリスが見ている限りでは、周囲の馬鹿にして来る連中をどうにかして見返してやる事が出来ないかと色々考えているらしいラニサヴ。
騎士団長になれるだけの実力があり、そしてその実力が認められたので十分にもう見返す事が出来ているとレウスもサイカも思うのだが、彼自身はそうでは無いらしいのだ。
「武器があの二振りのサーベルだけしか使えないとか?」
「いいや、彼は武器は何でも使える。あくまでメインの武器は腰にぶら下げている二振りのサーベルであると言う話だ」
「んー……となると、やっぱりプライドの面なんですかね?」
「そうだろうな。だからそなたがしゃしゃり出て来て気に食わなかったのかも知れないな」
周りが認めていても、本人は納得していない。
そんな話もあるのだが、かと言ってそこは部外者の自分達がどうにか出来る話では無いので後は本人次第だろう。
それで自分を差し置いて指揮を執るレウスが気に食わなかったのだろうと考えるラグリスだが、気に食わないと言えばレウスもそんな相手が居る。
「まぁ、俺だって気に食わない相手は居ますよ。五百年前だってガラハッドの野郎はあんまり気に食わなかったし、今だって俺の両親やエドガー学院長やカシュラーゼのディルクって魔術師も気に食わない」
少なくとも、あんな気に食わない相手達にエヴィル・ワンの身体の欠片をこれ以上渡してなるものか。
このオーレミー城の地下牢獄から脱獄しようとした自分達を、今回の件で不問にしてくれたラグリス大公の期待を裏切らない為にも。
「それで、とりあえず作業は済んだのか?」
「そうですね。復興作業も順調に進んでいますし、それからエヴィル・ワンの身体の欠片も梱包作業が済みまして、後は引き取りに来るのを待つだけです」
「分かった。それではそなた達に後は任せるぞ」
しかし、その裏では確実にもう一つ別の話が進んでいた。
レウス達がまるで予想もしていない、このパーティーに対して不信感を蔓延させる話が……。