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71.何言ってんだお前?

「……で、その主人にお前がそうした暴行を受けていたってのは事実なのか?」

「事実ならお主にこんな事を話したりはしない」


 半壊状態のカフェをアレット、エルザ、客達が力を合わせてせっせと片付けている中、レウスはソランジュとカウンターの椅子に隣同士で座って事情聴取をしていた。

 マスターから渡された紙と羽根ペンを使い、彼女の話を聞いて今まで何があったのかを事細かに聞いているのだ。

 彼女……ソランジュ・ジョージ・グランは元々このベルフォルテの港町の一角を牛耳っている、とある美術商人の屋敷で使用人として働いていた。

 そこの屋敷の主人が、緑色の瞳を持っているソランジュの気の強そうな釣り目とセミロングの黒髪、引き締まった体躯に一目惚れしたのだと言う。


「しかも、あの男は妻子があるにも関わらず私に対してそんな事を仕出かしたんだ。私は当然断った。だが……それでも止めてくれなかったから私はこっそりと仕事を辞めて故郷に帰ろうとしたんだよ。ソルイール帝国には他にも仕事が沢山あるし、私自身がこんな所に居られなかった。だから秘密裏に脱走するべく荷物を纏め、そして逃げ出す予定だったんだ」


 そこまでは順調だった。

 だが、屋敷の主人は彼女を始めとして自分の身の回りを若い女ばかりで囲んで働かせると言う、いわゆる「ハーレム」状態にしていたらしいのだ。

 そこに、このベルフォルテの町に引っ越して来たソランジュが知らずに入って一年半。

 最初から主人が迫って来ていた訳では無く、まるで掛かるのが遅い風邪の様にジワジワと少しずつ迫って来て、気が付いたら屋敷の生活にも慣れて個人情報も色々と知られていたので逃げるに逃げられなかった状況らしい。


「でも、もう耐えられなくなってついに私は逃げ出した。そして今まで貯めた金を持って帝都のランダリルに向かおうとしていたんだが、あの男は美術商人のツテを利用して私を逃がさない様にするべくこの町全体に監視の包囲網を張り巡らせたんだよ」

「だから逃げるに逃げられない状態が、未だに続いているって事か?」

「ああ……現に一回私は捕まって、連れ戻されているからな。その時に私がそう言う暴行を受けて、軟禁状態になっていた。だがそんな時……屋敷に侵入者が現われてな」

「侵入者って確か、お前がさっきそんな事を言ってなかったっけ? ほら、俺があの女達に追い回される様になった……」

「そうそう、それだ」


 しかし、レウスのイライラはまたピークに達しようとしていた。

 羽根ペンを強めにカウンターの上に置き、腕を組んで足も組んで口元をひくつかせながらイライラの理由を指摘する。


「お前さー、言ってる事が無茶苦茶過ぎるんだよ」

「何がだ?」

「何がだ、じゃない。あの時言っていた事がまず無茶苦茶だったし、話に整合性が取れていないんだよ」


 レウスは女達に追い掛け回される切っ掛けになったあの時、自分に向かってソランジュが言ったセリフを何となくではあるが覚えていた。


『あっ、そこのお主!! お主はレオンだろ!? この女達がしつこくて困ってるんだよ!! ほら、お主に金を貸してやっていただろ!?』

『へ?』

『おい、あいつは誰だ?』

『数日前、お主達の屋敷に入り込んだ盗賊だ!! 私は確かに見たんだ!!』

『ちょ……おい待て! 何さっきから勝手な事を言ってるんだよ!?』


 こんなやりとりを交わして、追い掛けられて戦った自分。

 最初は自分が顔見知りの様に振舞っていたのに、そのすぐ後に自分が盗賊扱いになっていた。

 そこをレウスは指摘しているのだ。


「こんな整合性の無いセリフをポンポンと吐き出せるお前を、俺は信じる気には到底なれないね」

「……いや、あの、それは咄嗟に出てしまってな……」

「しかも逃げられる暇が無いって言ってたけど、あの女達の中の一人は、お前とあの女達はもう縁が切れているって言ってたんだよ。これはどういう事なんだ? 縁が切れていたんだったらそんな暴行云々の前にもうとっくに逃げ出せていると思うんだがな。これもしかしてあれか? この期に及んで俺をまた何か変なトラブルに巻き込もうとかそんなんじゃないだろうな? もしそうだったらお前を引っ叩いてさっさと立ち去らせて貰うぞ」

「それは無い! 絶対に無い!」

「ふうーん、信用なんか出来ないけどなー」


 今更力強く言われたって、話がメチャクチャな女の事を信じる気は既に無くなりつつあるレウス。

 ソランジュが言うには、ここのカフェに入り浸るようになってマスターや常連客に話を聞いて貰う様になって、そして自分がいかに劣悪な環境に置かれているかを力説する様になっていたのだが、今までのやり取りからそれも自分の気を引いて貰う為の作り話だとしても驚かないだろうと考える。

 だが、次の彼女の一言でレウスは驚きの色を隠せなかった。


「五人相手には流石の私も勝てそうに無かったから、ついお主の方にあの女達が行く様に仕向けてしまった。それは謝る。だが侵入者が現われたのは本当なんだ。あの屋敷の中に入って来た、赤毛の男女を確かに私は見た」

「何だって!?」


 立ち上がったレウスの手に当たったカップから、紅茶が派手にこぼれた。

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