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735.準備は進む

「報告ですっ! ダウランド盗賊団があのアークトゥルスの生まれ変わりの連中と、エレデラム公国で交戦状態に入った模様です!」

「ふーん、ああそう」


 バタバタと慌ただしく部屋に飛び込んで来たドミンゴに顔を向ける事もせず、黙々と作業を続けるカシュラーゼの魔術師ディルク。

 彼は今までアークトゥルスの生まれ変わりのパーティーから奪い取ったエヴィル・ワンの身体の欠片を使い、着々とそのエヴィル・ワン復活の準備を進めていた。

 しかし、部屋に飛び込んで戦況報告をしに来たドミンゴにとってそのリアクションは想定外であった。


「ああそう、じゃないですよディルク様!! 分かっていらっしゃるんですか、この状況!?」

「分かってるよ。分かっているからこそ僕はこの返事なの。それ以外に用が無いんだったらさっさと持ち場に戻って仕事仕事」

「分かっていらっしゃるのですか……?」


 キョトンとしたドミンゴに対して、大きな培養器の前でいそいそと準備を進めていたディルクはその作業の手を止めて、ようやく彼の方を振り向いて答え始める。


「勿論さ。そもそもあのアークトゥルスの生まれ変わり連中が何処で何をしているのかって言うのは、僕達が求めなくても勝手に入って来るだろう」

「それはまあ……確かにあの者達と関わっているのが、こちらの軍勢の者達ばかりですからね」

「だからだよ。今回だってあの獣人だけの村からエレデラム公国の中に入るって言うのは、今まであいつ等から奪い取った五百年前のメッセージとかで分かっているからね」


 昔の勇者達が残してくれたメッセージ。

 それがこうして自分達の役に立ってくれている事をありがたく思いながらも、まだ他にもレウス達が行きそうな場所を予想する事は簡単なんだ、とディルクは薄ら笑いを浮かべながら言う。


「エヴィル・ワンの身体の欠片は、現在の世界の中で覇権を握っているそれぞれの国の中にあるって言われているからね。だから次にあの連中が向かうとしたら、まだその覇権を握っていない残りの二つの公国……エレデラム公国かその北にあるルリスウェン公国のどっちかしか無いだろうってのは、ずっと前から予想していた話さ」

「ええ……それはこちらの軍議でも同じ様に話されていましたね」


 だからこそ、先回りをしてあの連中が手に入れた物を奪い取る算段を立てたり、連中の邪魔をして色々な事をしてみたり大砲を造って砲撃実験をしてみたりするのは普通に簡単だった。

 しかし、今の段階で手を組んでいる盗賊団連中があのアークトゥルスの生まれ変わり連中をストップさせるのは難しいとディルクは考えている。


「でも、あの連中は確実に力を付けて来ている。それに盗賊は所詮盗賊だからね。あのブローディ盗賊団の連中だって負けちゃったんだし、今回のダウランド盗賊団の女だってあのアークトゥルスの生まれ変わり達を止めるのは難しいね」

「し……しかし万が一止められたって事もあり得るでしょう?」

「その時はその盗賊団の実力が、あの連中より上だったって事でラッキーじゃん」


 でも、十中八九あの盗賊団如きではレウス達は止められない。

 ディルクは最初からあの盗賊団連中にレウス達を止めて貰うつもりで契約したのではなく、時間稼ぎの傭員として活躍さえしてくれればそれで良いのだと思っていた。


「そもそも、あの連中よりも更に信頼できるのが味方に居るじゃない」

「ああ、あのアークトゥルスの生まれ変わりの両親とマウデル騎士学院の学院長ですね?」

「そうそう。それがちゃんと仕事してくれれば良いの。今回はあの連中を罠にはめて冤罪を掛けて時間稼ぎをしてくれていたみたいだし、そして一気にそこで叩き潰してくれれば本当は嬉しいんだけど……あ、あのアークトゥルスの生まれ変わりは生かしておく様にちゃんと言ってあるから」


 今まで手に入れる事が出来たエヴィル・ワンの身体の欠片だって、レウスが居なかったら集められない物もあった筈だ。

 それを考え、レウスだけは生かしておくべきだと考えているディルクだが、予想外の事については頭を悩ませている。


「でもさぁ……あのエメラルドグリーンのドラゴンって何なの?」

「へ?」

「報告にあった奴だよ。アイクアルに突如として現われたドラゴンで、ルルトゼルでも目撃情報があるあのドラゴン」

「ああ、自分を神だと言っているって噂の……」

「そうだよ、それだよ!! あのドラゴンだけは僕の計画に無かった!! しかもあのドラゴンにエヴィル・ワンの身体の欠片とライオネルの弓が預けられちゃったそうじゃないか!!」


 自分達が派遣している、あのアークトゥルスの生まれ変わりが率いているパーティーの中に潜ませているスパイからの情報。

 それを聞いたディルクは、流石に自分でも神を相手にするのは無理だと頭を抱えてしまっていた。

 その不思議な色を持っているドラゴンについてリサーチを掛けさせても、現時点ではノーデータ。全くもって事態が変な方向に向き始めている。

 そんなディルクの様子を見て、ドミンゴが意外な事を口に出した。


「それでしたら……交換条件を持ち掛けてみるのはどうでしょう?」

「え?」

「相手との交渉も戦術の一つですよ。ディルク様」

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