733.晴れた冤罪
ハッハッハと高笑いをしながらそう言うエドガーを見て、更に怒りのボルテージが上がるレウスとアレットとエルザ。
しかし、その一方でコルネールとアーシアは別の事が気になっていた。
それは、この三人の元に自分達を導いたのは一体誰なのだろうか? と言う事だった。特にアーシアは黒いフード姿の人物を見かけてそれを追い掛けて来た張本人と言うだけあって、現在敵側の三人に合流している黒いフード姿の人物に注目している。
(体型からすると、あれは恐らく私と同じく女ね。胸の膨らみや腰の引っ込み具合から分かるわ)
明らかに自分と同じ女の体型なのを見抜いた彼女だったが、顔や髪形はフードを目深に被っていてさっぱり分からない。
そんなアーシアのやきもきしている感情が、この後そのフードとともに取り払われる。
「と言うか、この状況は一体何なんだよ? 説明してくれや」
「ふふ……そんなに知りたいのかしら?」
「当たり前じゃねえか!! ってか、あの麻薬畑だってお前達が仕組んだんじゃねえのかよ? そこのフードの奴がこっちをジーッと見てたって、俺の女が言ってたんだよ!!」
だからこうして追い掛けて来たんだ、とコルネールがゴーシュ達にそう言えば、ファラリアがフード姿の人物に指示を出す。
「そうねえ……じゃあこの人の正体をまず教えるわ。フードを取りなさい」
「うん」
ファラリアの指示でバサリと取り払われたフードの下から、見知った人物の顔が出て来た。
「あっ!?」
「貴女は……確か!?」
「久し振りね、アークトゥルスの生まれ変わりとその仲間達」
フード姿の人物の正体に、レウス達の中で一番驚いた表情を見せているのはティーナとドリスのヒルトン姉妹である。
それもその筈で、それはかつてレウスとともにワイバーンで空中のドッグファイトを繰り広げた内の一人だったからだ。
「あんたはダウランド盗賊団のリーダー、メイベル・ローズ・ダウランドだな!!」
「貴様もこの話に加担していたって事か!!」
「ええそうよ。まぁ、加担していたって言っても途中からなんだけど」
「何の話だ? 途中からだって?」
意味深な事を言い出したメイベルに対してエルザが問えば、メイベルはフードを脱ぎ捨てて前にインパクトを残した紫色のコート姿に戻った。
「ええそうよ。全てはこの三人が貴方達をはめる為に仕組んだ計画。そして今も、その話は続いているの」
「ますます訳が分からないですわ。貴方達が何を企んでいるのか、全て話して貰わないと気が済みませんわね!」
「そう? だったら話してあげるわ。私はあなた達への復讐が目的。そしてこの三人は貴方達を罠にはめるのが目的。そして、ここでその罠にはまって貰うの」
「罠だって?」
この場合の「罠」と言うのは恐らく物理的なものではなくて、今の自分達に掛かっている冤罪の総仕上げ的なものだろうとレウスは察した。
そして、それはどうやら当たりだったらしい」
「うん。でも私は断片的にしか聞いていないから、このファラリアに頼むわ」
「えー……まぁ、ここで話しちゃっても良いか。この計画は貴方達に、麻薬の栽培をしていた犯人だって言う罪を被って貰うのよ。ここで公国騎士団と戦って力尽きた様に見せ掛けてね!」
「な……何だって?」
「見てみなさいよ。この武装している集団の服装は見覚えがあるでしょ。騎士団長のラニサヴさん?」
ファラリアにそう言われてラニサヴが武装集団の服装を見てみると、絶望と驚愕が入り混じった感情が彼の心を支配し始めた。
「ま、まさかこれは……騎士団の制服じゃないか!?」
「ええそうよ。アーヴィン商会はカシュラーゼのおかげでこっちにも裏家業の取り引きを広げる事が出来ているの。それが切っ掛けで何人もの仕立て屋と知り合ってね。こうやってエレデラム公国軍を装っているって訳」
「そうそう。そっちも騎士団が来ている訳だし、頭を守る為の甲冑だってつけているから誰が誰だか分かるまい?」
「何てゲスな集団なの……!!」
怒りでブルブルと身体が震えるドリスだが、そんな彼女もヘラヘラと笑い飛ばしてゴーシュは続ける。
「いやあまさか、私の妻がこんな名案を思い付くなんて感激しちゃったよ」
「なーに言ってんのよ、もうっ!」
この状況なのに、ファラリアはゴーシュの頰に口づけをする。
色々な意味で殺してやりたいレウス達だが、まだ冤罪の話は終わっていない。
「君達がこうして西へ向かって移動しているって話を聞いたから、それだったらって思ってこっちに誘導しちゃおうと思ってさ。この平原は人気の無い場所だったし麻薬の栽培にも丁度良い場所だし、何よりドラゴンの餌にもなるし……」
「そしてお前達がドラゴンを追い掛けてここまで来たからな。本当は騎士団に偽の情報を流して誘い込もうと思ったんだけど、手間が省けて助かったぜ!!」
想定外の事もあったが、それもまた結果オーライ。
麻薬の栽培に便乗して息子を罠にはめて麻薬栽培の犯人に仕立て上げ、そして摘発に来た騎士団と同士討ちをさせる。
これでカシュラーゼには疑いの目を向けられないと言う計算だ。
「もう五百年前の戦いなんか古い。これからは頭脳がものを言う時代だ、我が息子よ。頭は使う為にあるんだ」