728.南西の地へ
「しかしまあ、何故こんなにドラゴンを開発したのか本当に疑問だ」
「そうね。もう私も飽きちゃったわよ。こんなドラゴンの連続は!!」
「そう言うなよ。文句ならカシュラーゼに言おうぜ」
翌日。
ソランジュとアレットが文句を言うのをなだめながら、レウスはコルネールとアーシアの後に続いてその南西方面へと向かっていた。
その群れを成していたドラゴンが向かったと思わしき場所は、地元民であるラニサヴ曰く平原のある場所かも知れないとの話だった。
「南西には大きな平原があるんだ。群れを成しているドラゴンが着陸出来るとなれば、多分そこ位しか無さそうだからな。だが、そう言うのは早めに言ってくれ」
「へいへい……それは昨日もこの後ろの連中に言われたよ」
クレームをつけるラニサヴに対して、溜息を吐きながら心の底から面倒臭そうに答えるコルネール。
何でもっと早くそのドラゴンの話を言わなかったんだ、とレウス達から同じクレームを受けたものの、その時はレウス達に関連する一連の流れですっかり忘れていたらしい。
あの脱獄の所から、湖の調査までの流れで忘れていたこの話を思い出したコルネールとアーシアをラニサヴが先導し、更にその後ろにコルネールとアーシアとレウス達が続く。
南西方面には南西方面を守っている騎士団の部隊がきちんとあるらしく、そこの人員達に話をつけておいたラニサヴ達は、特に会話も無しにその南西方面へと辿り着く事が出来たのだった。
「はぁ、天気が急に変わらなくて本当に良かったわね」
「全くだ。あんな突発的な豪雨がまた来るんじゃないか……と考えただけでも恐ろしいからな」
湖で、北の方へと急行する時に遭遇したあの突発的な大雨を思い出したアレットとエルザが遠い目になる。
その一方で、レウス達がその南西方面にワイバーンで辿り着いたまでは良かったものの、そこにはドラゴンと同じ位の衝撃的な光景が広がっていた。
「……え? これって……」
「な、何で? 何でここがこうなってんだ?」
おかしい、ここは平原の筈なのに。
レウス達が辿り着いたのは確かに平原である……地図上では。
しかし実際にこの平原までやって来た上で辺りを見渡してみると、そこには何と畑が一部に広がっているではないか。
すぐに現地の騎士団員達に話を聞いてみるべく、集まっていた部隊にラニサヴが確認しに向かったのだが、何とその騎士団員達もこの畑の事については知らなかったのだと言う。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。この畑ってかなり広いぜ? なのにどうしてこの畑の事をこの辺りを警備している騎士団の団員達が知らないんだよ?」
「お、俺に聞かれても……俺は各地方から上がって来た報告書に目を通して、異常が無い事をしっかり毎週確認しているんだ」
「じゃあ尚更おかしいじゃないのよ。だってこんな畑がこの平原にあって、しかもみんなの反応を見る限り無許可で造られていたみたいじゃない。それに気付かないなんて騎士団員達はどうしていたのよ?」
余りにもずさんな警備体制に対して、今度はコルネールとアーシアからラニサヴに対してのクレームが入る。
レウス達はそれを見ながら、確かにそうだなと思わざるを得なかった。
そもそも警備を担当している騎士団員なら、普段から巡回をしていればこんな大規模な畑が造られる筈が無い訳だし、もしこうやって畑が造られていたとしてもすぐに発見して途中でストップさせる事が出来る筈だ。
それすらも無かったとなれば、明らかに職務怠慢だと言わざるを得ない事態である。
「とにかくそれも現地の奴等に確認しろよ!! それからここで何が栽培されているのかもちゃんと確認しろよ!!」
「わ……分かった!」
怒声混じりにレウスにまくしたてられ、ラニサヴは再度現地の騎士団員に対して確認をする。
しかし、現地の騎士団員はこの畑で何が栽培されているのかは分からないのだと抜かしたのだ。
それは何故かと言えば、そもそもこの平原は天候が変わりやすいので魔物の発生率が異常なまでに少ない上に、各地にある町や村までのアクセスに関しても不便な事が多くて全然人間も獣人も商人のキャラバンも通らない場所らしい。
なので、時折りふと思い出してこの平原とその周辺の巡回をする以外では騎士団員も全く気に留めていなかったらしい。
「……それと、俺達はこの幸運の国の住人でもある。だから幸運がこの平原にもあると思い込んで見回りに来なくても良いものだと思っていたらしい」
「馬鹿過ぎんだろ! 他国の騎士団にこんな事言うのもなんだがさぁ……」
「事実、今までこんな畑が造られたとかはおろか魔物の被害も五年に一回あるか無いかのレベルだったし、この点に関しては我々の油断だ」
部下のかなり大きな失態でヘコんでいる様子のラニサヴだが、もう一つ気になる事がレウス達にはあるのだ。
「それはもう良いや。そっちは巡回の回数を大幅に増やせば解決すると思うが、問題はこの畑で何を作っているのかって話だろう?」
「ああ、それなんだが……さっきチラッと調べた限り、どうやらここで作られているのは麻薬らしいんだ」
ソランジュの疑問にラニサヴから出た答えは、とんでもない事実だった。