722.Proceed to the scene immediately!!
「な……何だと!?」
「毒を散布する兵器ですってえ!?」
アレットとエルザは驚いていた。
レウスから咳混じりの連絡が来た時には、最初は何を言っているのかが良く分からなかった。
それが聞き取れる範囲から話を聞き、そしてあの自分達が倒したヴィストール以外のブローディ盗賊団の連中から話を聞き出して、北に向かったフランコが何をしているのかがようやく分かった。
しかし、それが本当だとしたらレウス達のチームに毒が散布されている話になるので、一刻も早くその現場に急行してレウス達を助けなければならないだろう。
と言っても、その毒は魔術防壁をすり抜ける上に低い場所に溜まるらしいので、レウス達の元に辿り着いても対処法が分からないのが問題だった。
「くっ、とにかくその現場に急行したいんだけど……私達まで巻き添えになったらどうしようもないわよ!!」
「とにかくその毒を吸い込まない様に、口や鼻を布か何かで覆って向かうんだ!!」
「解毒剤は無いのかしら?」
「聞き出した限りでは時間が経つと抜けるらしいから、とにかく私と貴様でレウス達を助けに向かうぞ。それから他のチームにも連絡を入れておけ!!」
エルザの指示に従ってすぐに連絡を入れたアレットは、ここに来るまでに乗せて来て貰った騎士団のワイバーンをそれぞれ一匹ずつ借りて現場に急行する。
他のチームも騎士団員や科学研究員達を現場に向かわせてくれるらしいが、彼女達と一緒に動いていたチームの騎士団員や科学研究員達はブローディ盗賊団の面々を捕まえた上で色々と尋問しなければならないので、このチームから向かえるのはアレットとエルザだけである。
「どうやら私達が一番最初に現場に着く事になりそうだな。急ぐぞ!!」
「そうね!!」
連絡もしたので、後は現地に向かってレウス達を助け出すだけ。
そう考えるアレットとエルザは、大空へ飛び立って一気にその北の地域を目指し始めたのだが、ここで思わぬ事態が起こり始めた。
「……え!?」
「あっ、雨だ……」
東の方からやって来ていた雨雲が、徐々に勢力を増していたのにようやく気が付いた時には、小雨からすぐに本降りの大雨になって来たのだ。
このエレデラム公国の「幸運の国」と言うのは、自分達にとっては「不幸の国」に他ならないのだろうかとアレットもエルザも思ってしまう。
「ぷはっ、ぶっは……っ、な……何なのよこの雨はあっ!?」
「くそっ、どうしてこんな時に限ってこんな大雨が降って来るんだ!?」
今までのエピソードを振り返ってみると、魔物達や外国人達に限定して立て続けに不幸が襲い掛かっている気がして仕方が無い二人。
現に自分達も外国人なので、こうして仲間の緊急事態にこんな邪魔が入っているのかも知れないと憤りが激しくなる。
雨によって視界が遮られて、ワイバーンをコントロールする手元もその雨によって滑りがちになる中で、必死にコントロールしながら北へ向かう。
だがその二人の視界に、更に絶望的な状況が飛び込んで来たのはその時だった。
「お、おいアレット……あれは何だ!?」
「あれは……まさか、ワイバーンの群れ!?」
東の方からやって来る、ワイバーンの群れがこの雨の中からうっすらと見える。
それがエレデラム公国騎士団員や科学研究員達の増援なのか、はたまたそのブローディ盗賊団の増援なのかはまだ定かでは無い。
だが、こんなに立て続けに自分達に不幸な事が起こっているのであれば、自分のこの予想も当たってしまった様であるとアレットは更に絶望した。
「ちょっと、あのワイバーン達が外から来て来たに飛んで行くみたいだけど、あれって多分ブローディ盗賊団の面々よ!!」
「その望遠鏡で見えるのか!?」
「うん、エレデラム公国騎士団の制服姿じゃないし、かと言って科学研究員の人達が着込んでいるエレデラム公国のエンブレムが背中に大きく刺繍されている白衣姿でも無いのよ、あのワイバーンに乗っている人間や獣人達は!!」
だとしたらますますまずい。
このままあの連中を向かわせてしまったら更にレウス達がピンチに陥るのが目に見えているが、かと言って自分達二人だけではあの連中を一気に倒せる気がしない。
なので、ここはあの連中よりも先にレウス達の元に辿り着くべく更にスピードアップする二人。
そして、その二人の姿を見つけたブローディ盗賊団のワイバーン集団およそ五十名も、彼女達を追い掛けてスピードを上げた。
「くっ、あなた達に構っている暇なんて無いのよっ!!」
「どけどけっ、道を開けろっ!!」
向こうも自分達の事を敵だと判断したらしく、執拗に追いすがって来るワイバーンの群れを回避しながらアレットとエルザはレウス達の元へと突っ走る。
相変わらず雨は降っているものの、それは相手にとっての条件でも同じ。
それにこの長い旅路を通して、エルザの高所恐怖症も少しずつではあるが薄くなっている様なのと、アレットのワイバーンを操るテクニックも少しずつ進歩している様である。
それもこれも、全てはここまでレウス達と旅をして来たからであるし、そのレウスがピンチなのに仲間として助けに行かない筈が無かった。




