720.邪魔者参上!
しかし、今はそれよりも迎撃態勢を築く方が先である。
今の話を聞いている限りではもうすぐここに来る筈なので、レウス達の間に嫌でも緊張が走る。
(何処からでも来るなら来てみろ。その時は俺達が総力を挙げて捕まえてやる!)
心の中でそう意気込むラニサヴ。
このエレデラム公国が幸運の国だと言われている以上、今までの騎士団の活躍にだって幾度と無く幸運が訪れて来た。
大型の魔物達との戦いで運良くその魔物の集団に連続して雷が直撃したり、盗賊団の実態を調べて摘発する任務では現地に向かってみたら既に仲間割れが起きていて摘発する手間が省けたり、とある小国が全軍で攻め込んで来た時はその小国そのものが先に魔物達に襲われて壊滅してしまい、結局戦わずして勝ってしまった。
そんなこんなで幸運のエピソードには事欠かないのだが、今回はコルネールとアーシアの手引きによって一度ではあるがレウス達の脱獄を許してしまったり、何時の間にか他国を拠点にしていた筈の盗賊団にこうして入り込まれていたりと、その幸運に揺らぎが生じ始めているのを実感しているラニサヴ。
(まさか、このアークトゥルスの生まれ変わりとか言う連中がこのエレデラム公国に災いをもたらしているんじゃないだろうな?)
この連中がこの国にやって来てから、徐々にイレギュラーな出来事が増えて来ている気がする。
いや、まだそのイレギュラーな出来事が少ししか起こっていないので確証は持てないのだが、レウス達がこの国に来たのもほんの少し前なので、それを考えてみるとやっぱりこの国に災いをもたらしているのはこのレウス達なのでは? とラニサヴは考えてしまう。
そんな疑念が心の中に生まれ始めたラニサヴ達の元に、一匹のワイバーンが少しずつ迫っていた。
そしてそれは、この幸運の国と言われているエレデラム公国に対して新たなる災いをもたらすものだった。
念の為、魔術防壁を迎撃部隊の全体に掛かる様に展開している上に探査魔術も併用して、そのフランコが何時何処から来ても良い様に警戒していたその矢先、バッサバッサと翼が羽ばたく音が聞こえて来た。
その音に気が付いたラニサヴが、望遠鏡を取り出してそのワイバーンに乗っている人物の姿を確認する。
「あ、あれは……?」
「何だ、あのワイバーンは? 誰が乗っている?」
「ええっと……紫色の髪の毛に、黄緑色の服を着ているガタイの良さそうな男だな」
「そ……そいつだ!! 敵襲だーっ!!」
ラニサヴの報告でフランコの接近を確信して叫び声を上げたレウスは、ポケットから取り出した笛をありったけの力で吹き鳴らした。
◇
(相手は大勢で、今のこっちは俺一人しか居ないってなると……やっぱりこれを使うしか無えか)
まさか、このタイミングで自分達と騎士団が遭遇するとは思ってもみなかったフランコ。
しかもそれだけで話は終わらず、まさかあのアイクアル王国のレイベルク山脈の頂上で大砲を破壊されてしまった時からの因縁であるレウス達と再び出会う時が来るなんて、自分は何てついていないのだろうかとヘコんでいる。
このエレデラム公国が「幸運の国」だとフランコも知っているのだが、どうやらその幸運は現時点で自分には縁が無いらしい。
ならばその幸運を自分から引き寄せるべく、せっかく高い金を払って手に入れたこの新兵器を使おうと決意する。
(ただなぁ……これを使うと俺にもダメージが来る可能性が高いんだよなぁ……)
それを使うと自分もやられてしまう可能性があるのが不安だが、相手が騎士団や科学者達の軍勢に加えて「あの」レウス達まで居るとなれば、一気に殲滅するのはこれしか無いだろうと覚悟を決めた。
さっきはあのアレットとエルザの二人の襲撃から先に逃げてしまったのだが、自分を逃がしてくれたヴィストール達は果たして上手くあの二人を退けて逃げられただろうか?
その辺りが心配になりながらワイバーンで北に向かって飛んでいたフランコは、下の方にその軍勢が見えて来たのを見つけた。
(あれか……)
ここからは時間との戦いだ。
ただでさえバッサバッサと翼を動かしているワイバーンに乗っている為、この羽ばたく音で下の軍勢に気付かれてしまう可能性は高い。
だったら気付かれてしまうのを前提で、その気付かれてから弓や魔術で攻撃されてしまう前に先制攻撃で一気に勝負をつけるべく、フランコは例の兵器を取り出した。
(俺も使うのは初めてだから、正直に言って半信半疑なんだが……まぁ、高い金を出したんだからちゃんとそれに見合った効果が出てくれりゃあそれで良いんだ!!)
そう考えながら、フランコは懐から取り出した黒い正方形の金属の塊を構える。
その金属の塊はこれ一個で終わらずに、懐の中にもう二、三個はしまってある。その記念すべき(?)第一個目をなるべく軍勢が密集している所に向かって投げ付ける。
「全員、逝っけえええええっ!!」
彼の叫び声とともに投げ付けられたその四角い物体は、そのフランコの接近に気が付いてレウスが吹き鳴らした警笛から始まった迎撃の間をすり抜けて、勢い良く地面に叩き付けられた。