717.騙されてたと知った側の反応
登場人物紹介にラニサヴ・リーベルトを追加。
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一方、ブローディ盗賊団と戦っていたアレットとエルザはその顔に二人とも焦りの色が滲み出ていた。
このままではまずい。
まずいと言うのはこの戦っている盗賊団の実力に対して焦っているのもあるが、ブローディ盗賊団のリーダーであるフランコが逃げてしまったのだ。
何故かと言えば、サイカとエルザがあのクルト湖の拠点で出会ったヴィストールと言う茶髪の槍使いが、リーダーのフランコを逃がしてしまったからである。
彼はこの拠点に二人とその仲間の騎士団員や科学研究員達が襲撃を仕掛けて来た時に、彼女達の内の一人であるエルザとその仲間であるサイカと初めて出会った時の事を思い出していた。
『あの……待ち合わせ場所ってここで良いんだったっけ?』
『待ち合わせ?』
『そうそう。ほら……このブローディ盗賊団で傭兵を雇うって話だったけど、貴方もブローディ盗賊団の人よね?』
『ああ、そうだけど』
『お、おいサイカ、貴様は一体何を考えて……』
『良いから、ここは私に任せて。貴女はこうした現場は初めてなんだから肩肘を張り過ぎよ。だからここは先輩の傭兵の私に任せてよね』
『い、いや……だから……』
『あー、ごめんね。この子は良い所のお嬢ちゃんだったんだけど、ちょっとお家の事情でトラブルを起こして、つい最近傭兵になったばっかりなの。だから色々と慣れていないから、私がサポートしているのよ』
『そうなのか……それで僕達の仲間になる為にここに来たって言うのか』
『そうそう。最近このブローディ盗賊団の中に傭兵を雇い入れたって話も聞いたのよね、だから私達もこの盗賊団の人に相談してみたら、この場所の手伝いをしてくれって言われてここまで来たの』
今でもこの時の会話が鮮明に思い出されると同時に、自分がこのエルザに騙されていた事はかなりの失態である。
「あんた達の仲間のせいで、部隊長のミリスは指を折られた状態で木に縛り付けられていた。それから副団長のアリスンは砂漠の拠点でやられてしまった。その二人は今も療養中でね。だから君達をここで通す訳には行かないんだよね」
「砂漠の拠点……ああ、それってソランジュにやられちゃったあの銀髪の」
「指を折られたミリス……そう言えばアニータがそんな事を話していたな。でも、これも貴様等ブローディ盗賊団との因縁にしか過ぎない。盗賊団と言うだけでそもそも捕まる様な事をしているんだから、結果的にそうやってやられても文句は言えないだろう?」
エルザの「貴様は何を言っているんだ」と言いたげなそのセリフに対して、彼女に騙されていた側の人間であるヴィストールは、穏やかな笑みを浮かべながらも目が笑っていない。
「良く言うよ。あんただって僕を騙していたじゃないか。あのサイカとか言う女と一緒にさ」
「それとこれとは話が別だろう」
「ふふ、そうかも知れないね。だけどこれであんたが僕と正式に敵対関係になったのには変わりが無い。だからここで仕留めさせて貰うよ!! 仲間の復讐もあるからなあ!!」
そう言いつつ襲い掛かって来るヴィストール。考えてみれば彼の槍による戦いを見るのは初めてかも知れないと考えるエルザも、即座にバトルアックスで応戦する。
しかし今は前回と違って自分ともう一人の仲間だけと言う状況では無く、アレットを始め多数の応援がここに居るのだ。
ブローディ盗賊団側もこの湖の広さから考えて、それなりに多くの人数を集めてここまでやって来ているみたいなので、戦力としてはまあまあ五分と言えるだろうか。
しかし、それを切っ掛けに始まったこのブローディ盗賊団との戦いに関してアレットとエルザが危機感を抱いたのはすぐだった。
(どんな相手が来ようと私は負けられないのだが、このまま戦闘が長引けばあのフランコと言うリーダーの男を逃がしてしまう!!)
「くっ、あの男に逃げられちゃうわよ!!」
「分かっている……くっ!?」
自分の心の中で思っている事と同じセリフをアレットから言われて、それに反応して気が散ったエルザにヴィストールの槍の鋭い突きが迫る。
それをギリギリでバトルアックスで弾くものの、やはりブローディ盗賊団の中で部隊を率いる立場にある彼だからこそ、なかなかの実力を持っているらしいとエルザは判断した。
それでもこの狭い林の中なので、槍使いの攻撃と言うものは限られて来る。そこをエルザは徹底的に攻める。
基本的に槍を振り回す攻撃をするのは、こうした林の中では木に当たる可能性があるのでご法度だ。
となれば残るは槍を振り下ろすか振り上げるか突き攻撃しか無いので、ヴィストールは槍を突き出す攻撃を主体にする。
そうすると今度はエルザがその槍の突きのスピードや精度に目が慣れて来るので、そこで突き出された槍の横に素早く回り込みつつバトルアックスを振り下ろし、槍の柄を切断した。
「っ!?」
「ふん!!」
立て続けに柄を切断してかなり短い棒の状態にしたエルザは、戸惑って隙だらけのヴィストールの顔面に強烈なハイキックを入れる。
「ぐあっ!!」
「終わりだ」
鼻血を噴き出してドサリと地面に倒れ込んだヴィストールを、騎士団員達とともに拘束してようやく決着がついた。
しかし、まだブローディ盗賊団が全員捕まった訳では無いのだ。