69.情報収集の結果
「あの女は何処に行った? それからあの女の名前はなんて言うんだ?」
「さあ……分からないわね。もう私達とは縁が切れてるし。でも、屋敷に居た頃はこの港町の外れにある「サンマリア」ってカフェに良くお茶を飲みに出かけていたみたいだけど。彼女の名前はソランジュ・ジョージ・グランよ」
「分かった。ソランジュだな。ならそのカフェに行って捜してみる」
「うん。襲い掛かってごめんね」
「こっちも少しやり過ぎたから謝る……すまなかった。だが今度からはしっかり事実を確認してくれ。それとあんただけじゃなくて、路地の中で伸びているあんたの仲間四人も纏めて全員、さっさとここから立ち去ってくれよ」
「そのつもりよ。じゃあね」
ロングソード使いの女と別れたレウスは、憎しみの感情を抱いたままその女に教えられたカフェ「サンマリア」へと向かう。
あのソランジュとか言う女のせいでとんでもない事になったのだから、少しでも文句を言ってやらなければ気が済まない。
だがその前に、アレットとエルザにもこの事を連絡しなければならない。
情報収集の後に集合する場所は港のあの船の停泊地点、と決めているのでそこに現れずに勝手に居なくなってしまったらまずいだろうからだ。
(あの女、エルザとは違った意味でタチの悪い出会い方だったな)
エルザもエルザで最初はいきなり戦いを仕掛けて来たのでかなり迷惑したものだったが、今回のソランジュと言う女には戦いになる様に仕向けられた。
考えれば考えるだけイライラして来るレウスの前に、そのエルザとアレットが戻って来たのはそれから少しした時の事だった。
「あら、もう情報収集終わったの?」
「……まあな」
「何だか凄く機嫌が悪そうだが……どうしたんだ?」
情報収集の時に別れた彼と雰囲気が明らかに違うので、二人は顔を見合わせて困惑している。
その二人に対し、レウスは酔っ払いに絡まれた所からあの五人組の女とのバトルまでを伝えた。
「本当に迷惑なのね、その女」
「そうだな。貴様も苦労したんだな」
「全くだ。で、俺はこれからそのサンマリアってカフェに向かう予定なんだが、そっちは何か情報が手に入ったか?」
「あ……うん。それなりには」
「ここで立ち話するより、貴様の目的地であるそのカフェに向かいつつ話さないか?」
「ああ、それもそうだな」
確かにその方が時間を効率的に使えるので、港の人間にカフェの場所を教えて貰ってから歩き出したレウスは、一緒に着いて来る事にした二人から情報収集の結果を聞き始める。
「セバクターはやっぱりここに来たみたいだ。しかも赤毛の二人組と一緒だったらしい」
「そうか……だったらこれであいつ等が手を組んでいるのは確定だな」
「私も同意見よ。まさか学院の英雄のあの人がこんな事を仕出かすなんて……最初は信じられなかったけど、こうなっちゃった以上はもう認めるしか無いのよね……」
エルザが集めた情報を聞き、アレットは憎しみと悲しみと悔しさが入り混じった顔で呟いた。
マウデル騎士学院の英雄として尊敬されていたセバクターの凶行が確定した事で、自分が今まで憧れていた人間があんな人だったと分かってしまった以上、こうなるのも無理は無いだろうとレウスは思ってしまう。
一方で、そのアレットからも闘技場の事で気になる話を手に入れたらしい。
「最近、闘技場の方でメキメキ実力をつけているって噂の、若手の冒険者が居るんだって」
「へえ、それは興味深いな。私達より年下か年上か……幾つなんだ?」
「さあ……詳しい事は分からないけど、まだ二十代前半とか何とか……」
「へー、となると冒険者として活動してるって話だし、ドラゴンの身体の欠片について何か情報が得られるかも知れないな」
しかし、それに対して口を出すのはレウスだ。
「おいちょっと待て。リーフォセリアでドラゴンの欠片を狙って爆破事件が起こったって話がこっちに流れて来たら、無闇にそれを探るのは良くないだろう」
「どうしてだ?」
「考えてもみろ。少し調べれば俺達がリーフォセリアからやって来たって分かるのは簡単だろう。しかもこの制服姿だし、俺達が爆破事件に関わっているかも知れないって知られたら「今度はソルイールのドラゴンの欠片を狙いに来たのか」って面倒な事になるだろう」
「あ、そうか……」
「まあ、この国にそのドラゴンの欠片があれば……の話だけどな。なんせ俺がアークトゥルスとして生きていた五百年前とは色々と違うんだし、あの頃の仲間達が何処でどうやって国を興したのかもこれから調べる予定では居るんだけど」
「あー、確か貴方こう言ってたわね。ドラゴンを倒した後に身体に衝撃を受けて、気が付いたらこの時代に生まれて来ていたって」
「もしかしたらその時の仲間に殺されたのかも知れないけど、結局それは分からずじまいとも言っていたな」
「そうなんだよ。だからあの時ドラゴンを倒して俺と一緒に居た五人の奴等が、結局どうなったのかってのは分からないんだよな」
そんな話をしていたら結構な距離を歩いていたらしく、目の前には何時の間にか目的地のカフェ「サンマリア」の出入り口があった。
この中に、自分を巻き込んだあの黒髪の女が居る筈だと信じて、レウスは怒りを前面に押し出した表情になりつつ木製のドアを強めに押し開けた。




