715.ゴミ拾い
そう思いながらここまでやって来たレウス達は、大勢の騎士団員達や科学研究員達と一緒にまずは湖の中の様子を確認する。
「……あれ?」
「どうした?」
「ここからじゃ全然何も見えないな」
今は昼間なのでその赤いシルエットが見えそうだと思ったのに、よっぽど湖の底に沈んでいるのかそれとも場所が違うだけなのか、全然そんなものは見えない状況である。
そのレウスとコルネールのやり取りを見ていたラニサヴが、湖の先を見据えながら会話に入って来た。
「まぁ、この湖は都のバルナルドよりも数倍は広いからな。漁師がその赤いシルエットを見たのはこんな岸辺の話じゃなくて、もっと北の方らしいからな」
「それを先に言えよ!!」
レウスからの突っ込みを受けるラニサヴだが、大して気にもしない様子で優先すべき事柄を提案する。
「そうカッカすんな。とりあえずこの湖はかなり広いんだし、北に向かうのもそれなりの時間が掛かる。だから俺達と一緒にまずはゴミ拾いをしよう」
「ゴミ拾いって……もしかして木材業者の話にあった奇妙なゴミの事か?」
「そうだ。そもそもそのゴミだって赤いシルエットと何か関係があるかも知れないからな」
少しでも赤いシルエットとの関わりがあるかも知れないのなら、例えそれがゴミだったとしても回収しておく価値はある筈だ。
ゴミが色々落ちていてそれを拾い、景観を美化をするのも騎士団の仕事の一つでもある。
もしその赤いシルエットと何も関係が無かったら、纏めて捨てて処分してしまえば良いのだからとラニサヴに言われて、レウス達はそれぞれパーティーを分けて騎士団や科学者達と一緒にゴミ拾いをする事にした。
「それってどんな特徴のゴミだったっけ?」
「ええと……青白くて弱めに輝いている小さな石みたいな物だったって話だな。それを森の中とか湖の周辺で沢山見掛けたって言ってたから、見つけられるだけ見つけて来るんだ!!」
ラニサヴからそう教えられたレウス達だったが、そのレウス達の中から嬉しそうな声が上がった。
「あ、早速発見!!」
「ん……それか?」
それぞれの場所に散らばる前に、まず記念すべき第一個目を見つけたのがアレットだった。
そのアレットが見つけたゴミこそ、青白くて弱めに輝いている小さな石みたいな物である。小さいと言っても手の平にすっぽり収まる大きさなので、他の石やゴミ等と間違えて回収してしまう事は無さそうである。
「じゃあ、これと同じ様な物をこの湖とその周りの森の中で回収して行けば良いのね」
「ああそうだ。それじゃあ行動開始!!」
だが、バルナルドの何倍もの広さがあるこの湖の周りでゴミの回収をするのは、きっと一日では終わらないだろうとメンバー全員が思っている。
総勢で二百人を集めてここまでやって来ただけあるのだが、それでも湖の周りだけならともかく、周りの森の中まで探さなければならないとなると筋肉痛は必至だろう。
でも、自分達の無実を晴らす為にはこの作業は絶対に必要なので、地道にレウス達はゴミを拾い集めて行った。
「だぁあああっ、もう……何で魔物なんか居るのよぉ!!」
「仕方無いでしょ、大自然なんだから……」
ドリスとティーナのヒルトン姉妹は、森の中でそのゴミを回収しようとした時に魔物の群れと遭遇してしまい、まずはそれを倒さなければならなくなってしまった。
森の中の何処にゴミが落ちているか分からないので文字通りしらみつぶしの作業になるのだが、そうなるとこうした野生の魔物との戦いも決して避けられない展開になる。
それは西の方に向かったヒルトン姉妹だけではなく、東へと向かったアレットとエルザのコンビもそうだった。
ただし、彼女達が戦うのは魔物では無かった。
「え、ええええっ!?」
「嘘だろう……まさか盗賊までこんな所に居るなんて!!」
仲間内の情報網を駆使して、早速お宝になるものだと思った盗賊達が森の中にキャンプを張っていそいそと回収作業に明け暮れていた所に、アレットとエルザと騎士団員達が出くわしてしまったのだった。
しかもその盗賊達は、アレットとエルザが何処かで見覚えがある人物達であった。
「あ……あああああああっ!?」
「お、お前等……どうしてここに居るんだよ!!」
「それはこっちのセリフだ。貴様等はそもそもアイクアル王国を拠点にしていた盗賊団じゃなかったのか?」
二人が出会った盗賊団。
それは何と、紫色の髪の毛を持っているあのブローディ盗賊団のリーダーであるフランコだったのだ!!
アイクアル王国全土を根城にしていた筈の彼らが、どうして隣国のエレデラム公国のこんな場所に居るのだろうか?
その答えはフランコ本人から明かされる。
「はっ、てめえ等にアイクアル王国で俺達が負けちまって以来、俺達はアイクアル王国騎士団に目をつけられたんだよ。仲間も何人も捕まったし、おかげでアイクアル王国で盗賊家業が出来なくなっちまったんだ」
「それでこっちに来たのか?」
「そーだよ。まぁ……ここで会ったのも何かの縁だし、その恨みはてめえ等を葬り去って晴らしてやっからよぉ!!」